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顔良し声良し姿良し。片岡仁左衛門には本水がよく似合う。

片岡仁左衛門が演じ収める『霊験亀山鉾』(歌舞伎座二月大歌舞伎)。彼にとっても一世一代だろうが、私もきっともう二度とみられない演目だ。タイプの違う悪人二人を演じ分ける。誰でもできる役ではない。今の40代、50代でこの色悪を演じられる役者さんがでてくるかなぁ。大雨の場面では本水が使われていた。水も滴る……という月並みな表現を使いたくはないが、あの言い回しはこの人をみて作られたのではないか。

仁左衛門演じる水右衛門は腹立たしいほど悪い奴なのに、彼を敵と狙う善人側の芝翫にまったく同情できない。他の脇役もどうもピリッとしないためか。仁左衛門が、信じられないほど素晴らしいことも、もちろんある。が、それ以上にこの役は芝翫には無理だ。

隠し妻に2人の子供を産ませ、敵を追って行った先では懇意になった芸者を孕ませる若い武士。歌舞伎は道徳の教科書ではないので、こんな人間は山ほど出てくる。別に腹も立たない。が、これは今の彼が一番やってはいけない役かもしれない。ゆるんだ顎を見ていたら度重なるスキャンダルを思い出し、セリフがあたまに入ってこなくなった。芸がまったくないわけではないのだ。それが証拠に、彼が二役で演じた、酒癖は悪いが忠義に厚い家来役はとても良かった。

本来は私はあまり役者のプライバシーを気にしない、芸さえよければ。白塗りに黒羽二重で舞台にすっと立った仁左衛門のカッコよさときたらどうだろう。本当に芸に力があれば、文春砲の一発二発は跳ね返せる。舞台中、あの記事はまったく脳裏をよぎらなかった。

歌舞伎座の変化

数か月ぶりに訪れた歌舞伎座の空気はずいぶんと変わっていた。席を空けずに観客を入れている。黙食ではあるが、座席で食事もとれる。大向こうが戻ってきたのも嬉しい。

が、なによりも3階で売られている”めでたい焼き”の復活。それに気づいたのは、休憩で化粧室に行った後。当然売り切れで、たい焼きを買ってからお手洗いに行けばよかったと激しく後悔した。

この3年間、どうしていらしたのだろう。「待ってました!」の掛け声を、たい焼き屋さんのお二人にかけたかった。

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