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産まれるまで 2

小児循環器の先生による胎児エコーは、先生によって見解が全然違った。
そりゃ母親の胎内にいる小さい心臓を外からエコーで診るわけだから、はっきり分かるわけないよなと思う。

大血管転移症
ファロー四徴症
両大血管右室起始症

…色んな可能性を聞いて、その説明を聞いた。その度に家に帰ってその子がたどる治療法や手術や予後などを調べた。

全てに共通していたことは先生は今の医学なら手術さえ乗り換えれば十分に生きていける。
スポーツ系のクラブなど激しい運動や吹奏楽、水泳など肺に負担がかかること以外は普通に生活できる。

そういうことを聞いて少しずつ…本当に少しずつ不安が和らいでいった。そしてお腹の子が産まれてくる準備をする余裕が出てきた。それまでは、出産準備など何一つしていなかった。する気にもならなかった。悪阻で体力なくなってからはずっと実家暮らしをしていた家の中でも、毎日誰の笑顔はなかった。


心臓病と分かり、生後から手術が必ずあるというのは絶対だったので、その手術に耐えられるように10gでも大きく産んでくださいと言われていたから、
一切動かず、出産までベット上で過ごした。
起きるのはお風呂とトイレだけだった。
ベットで一人で寝ていても、期待や希望に満ちた状態ではなく、やはり多少薄れたものの不安しかなかったので、ずっと不安を抱いたままでのベット生活だった。ネットで色んな心臓病の子供のことを調べて不安になる、おそらく胎教にはかなり悪い状態だったと思う。

調べれば調べるほどあまりいい事はネットからは出てこなかった。悪いことばかり、不安になることばかりが出てきたので、一人で部屋にこもってベットの上で携帯で検索し続け鬱のようになっていった私を見て両親は私から携帯を取り上げた。
それほどまで、妊娠後期の私の精神は病みきっていた。

よく今は染色体異常などを胎児のうちに検査するなどの生前診断をよく聞くようになったが、
いい面もあるし悪い面もある。私の場合は悪い作用しかなかった。堕す堕さないでまずかなり精神がやられる。自分自身、こういう場合は堕すときっぱり決めているのなら何の躊躇もないだろう。まだ生まれてきてないとは言えお腹の中の子は心臓が動いているわけだから物ではない。捨てちゃえ…と簡単に思えるわけがない。
堕さずに産むと決めたとて、障がいがあると分かってる子供を産むという不安を抱えたまま過ごす妊婦生活は本当に辛い。これは体験したことのある人しかわからない。
優生思想だとか非難する人の気持ちもわかる。でも実際障がいがある子供を育てるというのはかなり想像以上に困難が多い。楽しく育ててる人もいるだろうけれど、やはり悩むことの方が多いと思う。障がいがない方が今の世の中を生きていくのは楽に決まってる。親が死んだあとどうするの?など、考えなくてはいけないことがたくさんある。だから正直、生まれる前に障がいが分かって悩んで堕すことに決めたお母さんのことを非難する事は全くできない。

私の場合、心臓病と分かっていて、現代の医学だと何とかなるという希望があったにも関わらず、そんな子供を責任持って育てていくという不安から逃れられず、でも産むと決めたのは自分なわけだし、誰を責めることもできず、この感情をどこにぶつけたらいいのかもわからずどんどん精神的に病んでいった。主治医の産婦人科の先生から私の親に
「お宅のお嬢さんの精神状態が普通ではないから気をつけてあげてください」と電話があったそうだ。


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