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最後の家族旅行

 お墓参りの帰り道、行ったことのない道を走りたくなり一人でドライブ。〇〇養鱒場という看板を見て、ふと入ってみようと思った。
 冷たく綺麗な澄んだ湧き水の池にたくさんの虹鱒が泳いでいる。川の水も綺麗でそこにも鱒がいた。歩いていくと釣りができる池があった。釣った魚は塩焼きにして食べることも出来るというので釣りをすることにした(釣り池)。そうだそうだここだったよなぁ、両親と自分と3人で来た場所は。自分にとって生まれて初めての釣りだった(池だけれど)。

 今日は一匹だけ釣り、塩焼きにしてもらう。お店のおばさんは慣れた手つきで割り箸を刺す。それでも魚はぴくりと動いている。そしてたっぷりの塩をかけて焼く。あのときもまだ動いていた魚に驚き大量の塩にも驚いたのだった。塩焼きにした魚はちょうどよい塩味で身はまったく臭くなくとても美味しい。綺麗な水で育っているから全く生臭くないのだ。あの時も美味しい!と言って食べたなぁ。楽しかった記憶が鮮やかに蘇る。インドア派の母は僕のために頑張って来てくれたのだろう。母は家にいることが好きな人だったから。母も生まれて初めての釣りだったはずだ。
   
 あの旅行後しばらくして両親は離婚し僕は父と暮らした。あれが最後の家族旅行になってしまった。その後ももちろん母と会ってはいたが僕は勉強だ部活だ受験だ彼女だのとだんだん忙しくなり会う回数も減っていった。母は淋しく思っていたんだろうな。悪いことしたなぁ。

 母は10年前に他界し、父は再婚して仙台で暮らしている。僕は一人で東京で暮らしている。母の墓参りの帰りに偶然ここに立ち寄り、母のこと、最後の家族旅行の記憶が蘇りなんとも言えない気持ちになる。


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