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「非日常」をプレゼント〜36回目の結婚記念日〜

この記事は、SHElikesのエッセイライティング課題「家族と贈り物にまつわるエッセイ」で提出したものにフィードバックをいただき、リバイスしたものです。
家族のことを思い出して、贈り物を贈ろうという気持ちになってもらえたらうれしいです☺️

7月の3週目の週末。仕事で3日間山を登っていて、すっかりデジタルデトックスされて下界に戻ると、未読LINEが106通あった。半分以上が企業のものだったけれど、そのうち6通が母からのメッセージだった。

お父さんと2人インターコンチのフレンチディナーに行ってきましたよ❣️
もう豪華で、美味しくて最高でした
❣️
静かすぎて、お接待してくださるのが、気が引けました。また、来たいと思えるお店でした
🤭
ステキなプレゼントをありがとうございました
😭
(原文ママ)

このメッセージのあとに、写真が5枚続いていた。
広々としたお皿に、真ん中にキュッとお行儀よく並んでドレスアップされたお肉やお野菜たち。
それから、どう見てもカメラ目線ではない父も添えて。

きっと大興奮で撮影しているに違いないのだけれど、4年前から変えていないスマホカメラの限界なのかちょっと暗めで、映えていないのがなんとも母らしい。

山だから電波ないよって言ったんだけどなぁと思いながら、3日後に「それはよかったー!」と返信しておいた。
すぐに返信が来ないことはわかっていても、リアルタイムで伝えたかったのかもしれない。そう考えると、相当喜んでくれたのだろうと私もうれしくなった。

私の両親の結婚記念日は2月。今年で36周年だった。
毎年何かしらお祝いをしたいと思うのだけれど、毎年直前に思い出してしまい、毎年準備不足の状態で当日を迎える。

今は離れて暮らしているから、当日お祝いできなくても後日渡せばいっか!という気持ちでそのまま忘れてしまったことも……。
今年も例のごとく3日前に思い出した。結婚記念日当日も予定を入れてしまったので、翌週実家に行くときになにかしら渡そうと決めた。

それでも結婚記念日当日に入れてしまった用事の間の20分くらいしか買い物できるタイミングがなかったので、通り道のLOFTでプレゼント探し一発勝負を実施。
今までペアの今治タオルとか、上等なカップ&ソーサーとか、おそろいパジャマとかをプレゼントしたことがあった。それなのに今年はいい年して、通り道のLOFTで探そうとしている。両親は金額なんてきっと気にしないと思いつつもちょっと罪悪感があった。

何がいいかは見たらピンとくるだろうと思っていたけれど、案の定親世代の結婚記念日のプレゼントにふさわしい、それなりに高価なものはLOFTじゃなかなか見つからない。タイムリミットが刻一刻と迫ってくる。

ふと、昔からお食事券をプレゼントしたいと思っていたことを思い出した。
私が同行してごちそうしてあげるのももちろんいいけれど、せっかくの結婚記念日なんだから、2人だけで贅沢な食事を楽しんでもらいたいと考えていたのだ。

しかし学生のときにお食事券がどこに売っているかわからなくて断念。デパートの商品券売り場でなら出会えると思っていたのに……。それからしばらくお食事券のことは考えないようにしていた。
あれから何年たったかわからないけれど、急にお食事券モードになった私は、選べるカタログギフトコーナーを探した。

小さなLOFTでもそのコーナーは壁沿いにででんと存在していた。今どきのカタログギフトはすごい。コーヒー専用のものやエステ券、ダイビングなどの体験ものや宿泊までプレゼントできてしまう。

どのカタログギフトも買ってほしそうにしていたけれど、今日の目的はお食事券、お食事券……と心のなかで唱えていると、ディナー専用のものを無事に発見。2万円。納得の金額。
両親が行きたがりそうな、横浜あたりのレストランも選択肢に入っていることを確認し、なんとかタイムリミット間際で購入できた。

それから1週間後。母親とランチをしたのだけれど、時間が押してしまい実家に寄らずに帰らなくてはならなくて、電車の待ち時間にさらっと渡す羽目になってしまった。デートだったら確実にダメなやつ。
中身の説明とか選んだ意図とかまったく補足できなかった。母はあとで見とくわ〜ありがとうな〜と言ってそのまま電車を降りていった。

その後も頻繁に母からの連絡はあったものの、カタログギフトに関する話題はまったくなかった。デジタルにめっぽう弱い両親なので、使い方がよくわかっておらずそのまま放置されてないか少々心配だった。でもなんとなく私から「どうだった?」と聞くのも親とはいえ図々しいかなぁなんて気にしてしまい、自ら話題を振るのはやめておいた。

忘れかけていたころに、ようやく母からカタログギフトの話題が。

インターコンチのフレンチのディナーにしました。
お父さんの誕生日に行ってきます
😊

母は私がいると「言ってる意味がわからない」「目が見えづらくて読めない」とか理由をつけてなんでも私にやってもらおうとする。
しかしデジタルに弱い母もここはがんばったようで、私抜きでもきちんと予約をとれたことを報告するあたり、できるんだよアピールなのかもなぁと感じた。アラ還でもちょっとかわいい。

私が山に登っている間に父はまたひとつ年を取り、2人で贅沢な時間を楽しんでもらえた。
当日のおもてなしはもちろんのこと、帰りにピンクのかわいらしい1輪のバラをもらったそうで、いままでの人生で受けたことがないようなきめ細かいサービスにも驚いたようだ。

こうして今年の結婚記念日は、わざわざ自分で予約して行かないような高級なレストランで2人で静かに食事をするという、非日常の時間をプレゼントすることができた。
結婚から36年たってお互い愚痴をこぼすことがあっても、結局こうして仲良く2人で出かけてくれることが、私にとってはとてもうれしいことだった。もちろん、2人ともフレンチをモリモリ食べられるほど健康でいてくれることも。

ディナー当日の、母からのうれしそうなメッセージを読んで、短時間でぱぱっと選んでしまった罪悪感は飛んでいった。「いいモノをあげよう」と思ってしまうけれど、「いいモノ」の価値観は人それぞれ。自分がいいモノだと自信をもって贈ったものも、良さがわかってもらえなかったり、置き場所を困らせたりすれば本末転倒である。
残るモノもステキだけれど、そうじゃなくたっていい。今回の非日常プレゼントは大成功だ。

「いくらのやったん?」
と後日金額を聞き出そうとするところがさすが関西人な母。
うーんいくらだったっけなぁとぼかしておいた。

私が30半ばなんだから、両親もすっかりそれなりにおじいちゃん・おばあちゃんと呼ばれる年になっている。
これからも変わらず2人で元気に出かけ続ける夫婦でいてほしいと願いつつ、今年はそろそろ来年の結婚記念日のプレゼントについて考え始めようと思う。
これからもよろしくね。

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