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こどものための本 感想

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こどものために書かれた本を読んでいきます。
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#小説

ローズマリ・サトクリフ 『ともしびをかかげて』(上下)

僕にとっての作品:運命は過酷。アクイラはローマの教養を身につけたブリテン島の若きケルト系軍団長。4世紀、衰退を迎えたローマ。サクソン人の侵入に対し、アクイラは任務であるローマの防衛よりも、本能で「故郷」を選ぶ。運命は過酷。教養と文化を離れ、本能と本能がぶつかりあう歴史の中へ。生き抜く。故郷と家族は、同義。 素晴らしい歴史小説でした。サトクリフ氏は児童文学作家として知られ、この本も中学生向けだそうです。しかし、そういったことはどうでもよいほど感動的。大人もこどもも読んで得られ

リン・リード・バンクス 『リトルベアー 小さなインディアンの秘密』

僕にとっての作品の要点: 少年オムリは、不思議な戸棚と鍵を手に入れる。この中に入れたプラスチックの人形は、そのサイズ、彼らの時代設定のまま生命が吹き込まれる。こうして19世紀からやってきたインディアンの「リトルベアー」やカウボーイの「ブーン 」と、少年たちの生活が始まる。現代の日常生活は、この「秘密」を抱えた少年たちには究極にスリリングなものになる。 1980年の作品。原題は The Indian in the Cupboard。 作者のバンクスさんは、1929年、ロンドン

エンデ『ジム・ボタンの機関車大旅行』

僕にとっての作品の要点: ジム・ボタンとルーカスは大親友。出生に謎のあるジムと、腕利きの機関士ルーカスは、人口増を背景に故郷の島を出て冒険へ。相棒は機関車のエマ(女性)。そして皇女の誘拐に苦しむ皇帝に出会う。皇女リーシーを助けるべく、竜の待つクルシム国へ。大冒険の末、目的は達成されるが、ジムの出生の謎は明かされず、次回に続く。 幼く勇気があり、感性が豊かなジムと、科学的・論理的思考を持ち合わせた腕っぷしの強いルーカスのコンビが大冒険を繰り広げる。 1960年の作品。エンデ

ナイジェル・ウォーバートン『若い読者のための哲学史

私にとっての要点:1チャプターにつき、ひとりの哲学者を取り上げて、生い立ちや思想を取り上げる。著者の語りが軽妙。チャプターごとに、哲学者の達成点と、次なる課題が紹介される。次章では、別の哲学者がその課題に挑む。連続性(歴史)を意識して書かれている。 若い人のための、とか、こどものための、とか。そういう書籍もこのシリーズの対象にしたいと思います。 本書はYale University Pressから出ているLittle Historiesというシリーズのひとつらしい。 語

ケストナー 『飛ぶ教室』

児童文学を読み直して、時間や歴史をキーワードに考察してみたい。 シリーズにしていきたいと思います。 第一回は、ケストナーの「飛ぶ教室」にしました。エンデかケストナーかという、ドイツ児童文学の巨匠。 僕にとっての作品の要点: 題は、作中のこどもたちが作る演劇の題のこと。ギムナジウムのこどもたちの喜怒哀楽をめいっぱい描いた作品。魅力的な大人たちがそれを見守る。自身の体験を思い出しながら。 こどものころ読んだと思ったけど、どうも記憶に薄い。もしかしたら読んでいなかったのかも

ヤンソン 『たのしいムーミン一家』

ムーミンをとりあげるにあたって、「ムーミンキャラクター診断」なるものにチャレンジしました。 スナフキンと診断され、ちょっと嬉しい。 僕にとっての作品の要点: 出てくるキャラクターは個性豊かで、いきいきしている。冬眠から目覚め、不思議な帽子を見つけたことから、ムーミン一家はいろんな事件にまきこまれる。独特の時間の感覚。 ムーミンをちゃんと読んだことはなかったのですが、意外と難解。 でもそう感じるのは、僕が歴史を感じ取りたいという目的を持って読んでいるからだと思う。ちょっと