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【閑話休題#19】キーワードで俵短歌を捉えよう 渡辺祐真(スケザネ)「俵万智の全歌集を「徹底的に読む」」『短歌研究 2021・6』

こんにちは、三太です。

前回の記事で次の作品に進みますとか言っていたのですが、少し今回は閑話休題ということで・・・。

今回はスケザネさんが『短歌研究』に書かれた「俵万智の全歌集を「徹底的に読む」」を読んでいきます。
スケザネさんは俵短歌からキーワードを取り出して、分析をしておられるのですが、このやり方は自分のnoteにも参考になると思いました。
どのようにスケザネさんが俵短歌をさばいていくのかに注目して読んでいきます。

本の概要

スケザネさんのこの特集は、『短歌研究』の2021年6月号に取り上げられています。
この特集はスケザネさんの紙面デビュー作でもあります。

俵万智さんが出した全歌集を読み、そこからキーワードを抽出して、そのキーワードを中心に、それぞれの歌集のめぼしい短歌を批評していく32ページです。

俵万智さんが出された歌集は6歌集です。
具体的に言うと、
①『サラダ記念日』(1987)

②『かぜのてのひら』(1991)

③『チョコレート革命』(1997)

④『プーさんの鼻』(2005)

⑤『オレがマリオ』(2013)

⑥『未来のサイズ』(2020)

の6つです。
この6つの歌集を分析しています。

スケザネさんのさばき方

6つの歌集からスケザネさんが導き出した「俵短歌のキーワード」は以下の通りです。

・天邪鬼
・どうするわけでもないけれど
・思い出と未来
・白
・空港
・甘さと苦さ
・言語感覚のインストール

『短歌研究 2021年6月号』(p.113)

スケザネさんはこれらを短歌の共通点に注目して導き出しています。
ちなみに、「空港」は関所の現代版ということで、面白いなと思いました。
(「都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関」という能因法師の和歌がありますよね)

基本的にはこれらのキーワードに基づいて、俵短歌を論じていきます。

もう一つ、スケザネさんの論じ方の特徴として言えるのは「引用」です。
多くの作家・書評家・学者の文章への目配せが窺えます。
具体的に挙げると・・・

①川野里子「新しさが発酵するとき―普遍性をめぐって(1987年、「雁」1号)
②岡部隆志「〈『サラダ記念日』現象〉論」(1988年、「花神」6号)
③篠弘「リズムと映像の獲得 口語歌史における俵万智」(「短歌」1989年4月号)
④佐佐木幸綱 跋文
⑤永田和宏『現代秀歌』(2014年、岩波新書)
⑥黒田三郎「紙風船」『現代日本詩集〈第21〉もっと高く』(1964年、黒潮社)
⑦柴田翔『詩への道しるべ』(2006年、ちくまプリマ―新書)
⑧三宅香帆『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(2020年、笠間書院)
⑨小津夜景『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』2018年、東京四季出版
⑩ステファヌ・マラルメ『半獣心の午後』1876年
⑪宗像衣子「芸術の響き合い:マラルメの無と日本美術における自然観」神戸松蔭女子学院大学研究紀要 人文科学・自然科学篇(47)、2006年
⑫渡部泰明『和歌史 なぜ千年を越えて続いたか』2020年、角川選書
⑬井上宗雄・武川忠一編『新編和歌の解釈と観賞事典』1999年、笠間書院
⑭武田尚子『チョコレートの世界史』、2010年、中公新書
⑮土屋文明『山下水』
⑯和合亮一「私のこの一首」「文藝別冊総特集俵万智」
⑰俵万智・野口あや子・小佐野彈 編『ホスト万葉集』2020年、短歌研究社/講談社
⑱佐々木定綱「短歌」2020年10月号
⑲塚本邦雄『百句燦燦』2008年、講談社文芸文庫

ふ~多いですね。
自分でもはじめはここまで取り上げるつもりはなかったのですが、気づいたら引き下がれなくなりました。
とにかく膨大な引用です!

他にも俵万智さん自身の著作・対談・インタビューにも触れます。

⑳飯田龍太との対談「俳句と短歌のふるさと」山梨日日新聞、1991年
㉑俵万智『ちいさな言葉』2010年、岩波書店
㉒穂村弘との対談「『俵万智』になる方法 画期的な文体とシンパシーの中のワンダー」「文藝別冊総特集俵万智」2017年、河出書房新社
㉓インタビュー「俵万智 バッシングされた石垣島移住と子育てで得た“歌人としての新境地”」週刊女性PRIMEウェブサイト
㉔俵万智『言葉の虫めがね』2013年、角川文庫
㉕俵万智『考える短歌』2004年、新潮新書
㉖俵万智『三十一文字のパレット』1995年、中公文庫

昨日、今日俵万智さんを好きになった人、いわゆる、にわかにはできない芸当です。
スケザネさんの俵万智さんへの愛は年季が入っていることがこれらの引用からわかります。

吉田修一作品を論じるのにどういかせるか

まずは「共通点に注目する」ということです。
スケザネさんが俵短歌のキーワードを導き出したように、吉田修一作品、そして映画の共通点に注目していきたいです。

二つ目は「引用をする」ということです。
吉田修一さんに関する文章、あるいはキーワードに関わるテーマを論じた文章などを引用したいです。
しかし、これは並大抵にできるものではありません。
日頃の読書、そしてどれだけアンテナを張って生活しているかにかかっているでしょう。
時間がかかりそうですが、やっていきたいです。

三つめは「ひたすら好きになる」ということです。
スケザネさんは引用の多さにも見られるように俵万智さんへの愛が半端ないです。
また、それは言葉のこだわりからも伺えます。
例えば、第三歌集の「チョコレート革命」という言葉に触れたくだり。
まず「チョコレート」について武田尚子さんの『チョコレートの世界史』、俵万智さんが書いたあとがき、ほかの短歌に触れ、その多面性を述べます。
「革命」についても俵さんのほかの短歌を引用しながら、その演出されたニュアンスを述べていきます。
それらをまとめ、以下のように述べます。

「チョコレート革命」とは、本気の抗議ではないのではないでしょうか(中略)そんな演技と本気との間を行きつ戻りつするのが、『チョコレート革命』という歌集だと鑑賞しています(p.128)

『短歌研究20

ここでは私がさらっとまとめていますので、スケザネさんの愛みたいなものが伝わりにくくなっているのですが、正直どこまでこだわるんだというぐらい歌集のタイトルにこだわっていきます。
ここまでのこだわりを見習っていきたいです。

その他

スケザネさんの品詞短歌への分析が見事だと感じました。
例えば、『未来のサイズ』に次のような短歌があります。

釣る泳ぐ登る飛び込む がじゅまるの木陰の子らの動詞豊かに
動詞から名詞になれば嘘くさし癒しとか気づきとか学びとか

『短歌研究2021年6月号』(p.139)

これらの短歌について、動詞と名詞でどのように受け取り方が違うかを、「スカラー量」と「ベクトル量」に喩えて述べていき、最後もう一度腑に落ちる形に落として説明します。
見事でした。
このような丁寧さがスケザネさんの真骨頂だと私は感じています。

今回はこのあたりで終わります。
スケザネさんの俵万智さんへの愛を深く感じる特集でした。
そして、自分自身も色々と勉強させてもらいました。
シンプルに俵万智さんの歌集をもう一度読みたいとも思えましたし。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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