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モノクロ版『ゴジラ -1.0/C』映画感想

驚いた。カラーをマイナスしたら、面白さは爆裂プラスになった。
こんなことがあるなんて。
*タイトル画像は来場者特典より。

際立つ、音

カラー版との最も大きな違いは、音の感じ方だった。(映画の内容は同じです。)

カラー版に比べ、目があちこちの細かい色調を拾いに行かず、耳での情報収集に比重をかけるのかもしれない。
効果音、セリフのひとつひとつを耳がよく拾う。

飛行機のエンジン音、海岸を通る風の音、船のへりに当たる波音。

最初に観た時よりも、音による効果を強く感じる。
戦艦高尾が到着するまでの時間稼ぎ役として駆り出され、ゴジラに遭遇するシーンでは、深海魚の死骸が一面に浮く中で、船を叩く波音がちゃぷちゃぷと、いやに大きく聞こえる。
今まで聞いた波音の中で最恐だ。

役者のセリフも、よく聞こえる。

佐々木蔵之介は抜群に上手いのだと、あらためて感じる。
もともと口跡が良いが、こうして聞くと、細部への感情の乗り方までよく練られているのが分かる。

狙うのは古色だけではない

冒頭で投影の白黒ロゴが映し出されたとき、懐かしさにグッと期待が高まる。
けれど、この映画で感じるのはレトロな色調の郷愁だけではないのだと、すぐに感じる。

大戸島でゴジラが出現したときは、正直、暗すぎる!と思った。
これでは、暗すぎてゴジラが見えないのでは!?と。
しかし、物見台の刺すようなライトが当たったゴジラ。
その一瞬の姿。
怖い。
怖すぎる。

そうか、闇に潜む見えないものは怖いが、
すでに怖い造形のものを、全体を把握できない暗闇で見るのは、もっと怖いのだ。

特攻機の操縦席で、敷島(神木隆之介)は間近にゴジラを見る。
画像が暗いから、見る側は目をこらす。
冷たく光る獰猛な瞳、ギザギザと凶暴な棘の顔が、こちらを向く。
いま撃ったら間違いなく自分は死ぬ。それも想像を絶する痛みと残酷さで。

撃てない敷島を責められない。そんな気持ちになる。

そして、敷島が住むバラック、布団の柄や筵の質感なども、細部がとても作り込まれていたのだと気づく。
まるで本当に古い映画を見ているようだ。

いよいよ、銀座に襲いかかるゴジラ。
耳が拾う。
バーン、と低音の金管ラッパも破れよとばかりの、あの音。ゴジラのテーマ。
ここはまさに往年の怪獣映画だ。
モノクロ当時のゴジラ映画をリアルタイムで知る世代ではないのに、異常なほど懐かしく、わくわくドキドキする。

公式YouTubeより。銀座へ上陸するゴジラ


倒壊する銀座の街。逃げ惑う人々。

記録映像でも見るみたいに、よくぞこれを残してくれた、と変な感想がよぎる。

ゴジラが発する熱線。
カラー版のときの、あの冷たく鋭い青い光はもちろん、見えない。
それでもゴジラの恐ろしさも、街を吹き飛ばす爆風の威力も、少しも見劣りしない。

なんて恐ろしいゴジラ。

ゴジラの向こうに立ち昇る、きのこ雲。
はるか上空、雲の先から、
爆発の粉塵か街の残骸か、濃い灰色の滓が細く垂れるように落ちてくる。
熱線を発した直後の、わずかなインターバル。胸が苦しくなるほど何の感情もない、ゴジラの背中。
なんという絶望的で残酷な光景。

神木隆之介が演じる敷島の咆哮も、モノクロだと、その複雑な感情の混ざり方がよりはっきり聴こえる。

終戦直後に時代設定をとった映画なので、モノクロにしてレトロっぽさを増してみました、というレベルではない。

確かに白黒映画の懐かしさを感じる。古き良き怪獣映画っぽいワクワクがある。
しかしそれだけでなく、先に観たカラー版を超えるほどの迫力と怖さがある。

もう、今まで観たたくさんの映画の良いところを、この映画が全部持っているような気がして、凄い凄いが一秒ごとに重なって訳がわからなくなる。

息もつかせぬ後半

計画のために敷島が飛び立つシーンから、
わたしの興奮度はマックスのままだった。
操縦席の窓から見える山々、乾いた大地。雲の重なりは不穏な灰色。
こちらにまで、操縦席の振動が伝わってくるようなサウンド。

公式YouTubeより。このあたりから怒涛の展開

画面にカラフルさはないのに、滾るような敷島の思いがスクリーンに溢れる。
死を賭して復讐するのではない。贖罪から死地へ向かうのでもない。
それらを乗り越えて、大切な者と生きるために、敷島は飛ぶ。

“学者”(吉岡秀隆)の計画はほとんどゴジラにダメージを与えられず、
ゴジラは熱線を出すために大きくエネルギーを溜める。

頭を低くしたその発射の構え、顔つきがまた、心底恐ろしい。
長い長い一瞬。

ブゥウウウウウン、と遠く低くから、突っ込んでくる敷島の機体。

ヒーロー見参、ではない。
そういう華々しさでは全然ない。でもそれが素晴らしく痺れる。

“学者”(吉岡秀隆)は「そうだ」と言い、
船長(佐々木蔵之介)は「ダメだやめろ」と言う。
(わたしにはそう聞こえた)

いまにも熱線を吐き出しそうなゴジラの口に、
ガキン、と機体が突っ込んで嵌まり込む。

一度目に観たときは、そんな攻撃で足りるんか、と思ったのだが。

機体に積んだ爆弾自体の爆発そのものは大きくないが、ゴジラが溜め込んでいた熱線で自分自身が妬かれる、的な意味なのだろうなと思った。

ゴジラの内側から空へ走る強烈な光。
崩れながら、ゴジラが海に沈んでいく。

ああ、終わってしまう。
終わってしまうのが惜しい。もっと観ていたい。

これ、DVDになるときは、カラーとモノクロどっちも入れてくれるんだろうか!?
2本分の価格になるんだろうか。
それでも喜んで買うなぁ。

それにしても、山田裕貴。
驚くほどモノクロ映画に映える。
はっきりした顔立ちに、清々しい笑顔、ノリコの葬儀での憂いの横顔。
力のこもった声はモノクロ版でもよく活きていた。
いい男っぷりは『浮かれ三度笠』あたりの本郷功次郎みたい。

…さて、
もう一度見たいのだが、次はカラー版か、それとも再度モノクロ版!?
どっちもそれぞれの面白さがあるから悩む。

こんな幸せな悩みなら、いつまででも味わっていたい。

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