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歌詞解釈は正義ではない

歌詞解釈方法論Part.3です。一旦はこれで完結となります。
Part.1とPart.2は以下です。フォニイを題材に自己流の歌詞解釈の方法説明をしています。ちなみに読まなくてもこの記事を読むのには困らないです。

今回は、歌詞解釈に悩んだときのTipsと歌詞解釈の良いところと悪いところを紹介します。
一番大事なのは歌詞解釈の弊害についてなので、そこだけ知りたい人は目次からジャンプしてください。


1. 歌詞解釈に困ったときは

1-1. 読み飛ばす

まず最も多様するのがこれです。
Part.1とPart.2でも紹介していますが、後半になると主人公の状況などがわかってくるのでとりあえず良くわからないときは読み飛ばしてしまいましょう。
あと、そもそも別に国語のテストを受けているわけではないので、間違っていても問題ありません。もちろんひとつひとつの言葉を大事にすべきですが、その結果楽しめなかったり諦めてしまったりするほうがはるかに勿体無いです。

自分が楽しめればそれでいい、という気軽さは持っておきましょう。

また、読み飛ばすことができないことにはもうひとつ大きな弊害があります。
それは、わからない部分をなんとか理解しようとした結果、こじ付けめいた歌詞解釈になってしまうということです。

私自身、学生のころPeople in the boxの歌詞解釈をしようとしたときによくこの状況に陥りました。
難解な歌詞を理解しようと様々な知識を調べてつなげようとするのですが、次々と矛盾が生まれてしまい、なんとかそれらを解消すべく別の知識を調べてさらに関係なさそうな内容をつなぎ合わせ、気が付けばどう考えてもこじつけとしか思えないような内容になっていました。

わからない部分に過剰に固執してしまうとむしろ本質から離れてしまうので要注意です。

1-2. インタビューを読む

基本的に歌詞解釈は「作者の心情を答えよ」という問題なので、作者自身の言葉を調べるのはとても参考になります。
フォニイのインタビュー記事だと以下の記事を読みました。

https://www.billboard-japan.com/special/detail/3980

ここでは普遍性を意識していることや、自分自身も持っている後ろめたさに向き合いたいということ、コロナ禍の匿名SNSに対するうんざりした気持ちがあることが分かります。
だから「煩わしい」という言葉だったんでしょうね。
こういったスタンスを見ることで、自分の考察の助けになりますし、ある程度の答え合わせもできます。

単純に読んでも面白いので基本読み得です。
ちなみに僕はこれ調べるまでツミキさんがNO MELON NO LEMONの人とは知らなかったです…

1-3. 人の考察を読む

困ったら人の考察を参考にすることもよくあります。今回のフォニイではそこまで困らなかったので特に誰の考察も読んでないですが、何かしらの知識を引き合いに出してくる歌詞では結構大事です。
よくあるのは重さとか長さが急に出てきて、〇〇の重さのことだよーみたいなのはよくあります。魂の重さとかは頻出ですね。
自分が知っていればいいですが、何でもは知らないので人の知識は結構助かります。
例えばフォニイの「夜の電車」も銀河鉄道の夜ではなくて他の作品かもしれないですしね。

実際、歌詞解釈はかなりググって色々調べながらやることになります。相当博識じゃないと何も見ずにやるのは難しいと思います。

1-4. 連想ゲームをしない

まあどこからが連想ゲームなのかは難しいところですが、経験則的には少なくとも3つ以上繫がっていたら大体間違っているなと思います。

あとはよくあるのは、Aの歌詞とαが紐づきそうで、Bの歌詞とβが紐付きそうだと思ったら、Aとβを紐付けようとしてしまうパターンですね。大体は紐づかないのでまた別の作品とかを出して無理やり紐づけることになります。

歌詞以外の部分から引っ張ってくるパターンもよくあります。曲の時間や空耳など、引っ張ってこようと思えばどこからでも引っ張ってこれてしまうのでそうならないように注意が必要です。

2. 歌詞解釈の弊害

これが今回最も言いたかった部分です。
歌詞解釈/歌詞考察は必ずしも良いことばかりではありません。
歌詞解釈がもたらす弊害を説明します。

2-1. 歌詞だけを見てしまう

本来音楽ですので曲と歌詞は切り離せないはずなのですが、歌詞解釈はその中から歌詞だけを切り取る行為です。本当はギターやベースリフのカッコ良さ、曲の展開の巧みさ、ボーカルの歌唱力など多くの見どころがあるにも関わらず、それらを無視して歌詞しか見ないなんてこの上なく悲しいことです。

もちろん歌詞解釈をしたうえで曲として聴けば良いだけの話ですが、どうしても手間をかけた分歌詞にばかり注意を払ってしまうようになりがちです。

あの曲の歌詞がいい、いや、この曲の歌詞がいい。とても素晴らしいですが、歌詞にばかり執着するのはとても勿体無いことです。

ついには、歌詞が良くなければ聴けない、なんてことになったりもします。
人の好みなのでとやかく言うべきことではないですが、歌詞以外に魅力的なアーティストは沢山いるのに歌詞だけを理由にそれらを聴かないのは私にはとても勿体無く思います。

2-2. 聴こえ方が変わってしまう

これも1の項目と同じく歌詞に注目してしまうが故の弊害です。
初めてその音楽を聴いて感動したとき、歌詞に感動していたでしょうか?
とにかくカッコいい、何故か分からないけど胸を打つ、そんな感覚だったのではないでしょうか?
どのアーティストだって言葉だけじゃ意味がないから音楽にしているはずです。

それを言葉だけ取り出して、何が言いたいのかを言語化することは、実は彼らが伝えたいことから離れていくことかもしれません。

言葉のプロである彼らが言葉では足りないと思っているのに、いちリスナーである我々が言葉を尽くせば曲の意図や魅力を理解しきって伝えきれるなんてとんだ思い上がりです。それができるなら彼らは歌にしていません。

初めて聴いたときの、理由は分からないけどとにかく好きだと思った感覚を大切にしたいなら、歌詞に限らず、その曲の良さを分解して言語化しないほうが本質に近いと私個人としては思っています。大切にその気持ちをしまっておきましょう。

ただ、理解しきれないと分かった上で歌詞でもなんでも必死に読んで少しでも理解しようとする行為もとても愛のある行為です。
それもLOVE、これもLOVE ってやつです。
どっちがいいとかではないので、ひとつひとつの曲に対して自分のスタンスを持てばいいと思います。

2-3. 人を見下すようになる

歌詞解釈をしたとき、まるで自分だけが作者の思いに気付いたような特別感を得ることができます。もちろん上述のとおりそれはきっと勘違いですが、それでも他の人より少しだけ近づけているような優越感があります。

それは、歌詞解釈をしていない人は自分よりこの曲のことを分かっていないという思い上がりの悪魔の種です。

歌詞に限らず、その曲のなにかを知っていることが、その曲に対する愛の大きさではありません。
当たり前のことですが、自分がそれに気づけたのは高校生の途中だったと思います。

周りにほとんど音楽を聴いている人がいなかった小学生や中学生のとき、BUMPのKのタイトルの意味すら知らない人を、RADのme me sheや05410-(ん)の読み方すら知らない人を、それなのにそれらの曲を好きだという人を、心底馬鹿にしていました。

今にして思えば、お前はBUMPやRADを聴いて一体なにを学んだんだ?と言わずにはいられない行為でした。
そもそも小学生の頃などはBUMPやRADはさほど有名ではなかったので、それだけで友人足り得たはずなのに。
もし小学生の自分が目の前にいれば、本当にダンデライオン好きなの??好きなのにそれやってるの??あの曲を聴いていたのに、誰も分かってくれる人がいなくて勇気を出してくれた彼にただ頷くだけの優しさすら学べなかったの??と問い質さずにはいられません。

誰よりもこの曲を知りたいという気持ちはその曲と自分の間だけにあるべきです。それを刃物として使うなら、それはもうその曲への愛ではありません。

どうしてもこの割り切りができないなら、誰も幸福にならないので歌詞解釈は辞めましょう。あなたが人を傷つける機会を増やすだけです。

2-4. 答え合わせを求める

歌詞解釈は「作者の心情を答えよ」という問題だと言いました。問題を解いたからには採点してほしいのが人間の性というものです。

これにより作者自身にDMなどで直接質問しにいく人がいます。絶対にやめたほうがいいです。

上述のとおり、言葉だけでは足りないので音楽にしているのであって、そもそも歌詞解釈だけで100点満点になることはないです。こんな頑張って読んでくれて嬉しいと思ってくれる可能性もありますが、毎回現代文満点取るような化け物でなければ大体歌詞解釈だけでも間違っていると思いますし、歌詞の意味が合っていたとしても、歌詞だけじゃなくてこういうところも聴いてほしいなあと思われるのが関の山でしょう。そもそも採点の手間を取らせるのが迷惑です。学校の先生がテストの採点にどれだけ大変な思いをしているか知れば、おいそれとすべきではないと思います。
歌詞解釈の採点を求めるより先にテストや模試の現代文で満点を取ってください。

さらに付け加えると、歌詞解釈はそもそも自分と作者の共同作業です。作者がそういう思いで作っていなかったとしても、自分にそう届いたならそれが自分にとって最も価値のある正解です。

3. 歌詞解釈のメリット

最後に歌詞解釈の良いところを挙げていきます。

3-1. 曲のことがもっと好きになる

ぶっちゃけこのためだけにやっているといっても過言ではないです。
好きな曲のことをもっと深く知りたいと思ったときに歌詞解釈はとても有効です。どういった思いでこの曲を書いたのか?何故自分はこの曲が好きなのか?ひとつひとつ拾い上げていくことで、その曲を知り、自分にとってのかけがえの無い曲が出来上がります。よく作っただけでは半分だけでリスナーが聴いてくれて曲が完成するといった趣旨の発言をするアーティストがいますが、まさにそのもう半分を埋めていく行為です。

歌詞解釈そのものというよりはそれにより自分の心に生まれるものに価値があると思います。

3-2. 曲の聴こえ方が変わる

弊害で出てきた内容ですが、実はメリットでもあります。
何故か?要するに味変です。曲を聴きまくった後に歌詞解釈をするとさらに聴こえ方が変わって楽しむことができます。
無限に味がするガムです。しゃぶり尽くしましょう。バックの演奏とかに注目するとさらに味が変わります。音楽は最高です。

3-3. 布教活動がしやすい

歌詞解釈は、曲の素晴らしさを言語化する行為でもあるのでそのアーティストをおすすめするときに使いやすいです。この曲の歌詞ってこういう意味なんだよ!この人すごいよね!と興味を持ってもらう入口に使ったりします。

あまり多用すると早口オタク野郎になってしまうので注意は必要ですが、聴きごたえがあると知ってもらうのはそれなりに有効だと思います。

3-4. 人生が少しだけ豊かになる

意外と大きなメリットです。私の実体験だとまず1つ目は詩を楽しめるようになりました。詩集買ったりとかまでは今のところしていないですが、たまに有名な人の詩を見て楽しんだりしています。谷川俊太郎はすごい人です。そのうち草野心平の詩集を買おうかなと思ったりもしています。

もう1つは現代文がべらぼうに得意になったことと、そのおかげで進路が文理どちらも選べたことです。高校の科目のなかではぶっちぎりでした。本命で理系学部を受けながら、滑り止めで文学部を受けるという謎なことをできたくらいなのでこれはよかったなと思います。

模試の現代文間違うたびに、こんなんじゃ歌詞の意味を読み解けねえよ…!と心の中で思っていました。懐かしい。

あとは文章の耐性がついて、今まさにこういった記事を楽しんで書けていることでしょうか。文章の言葉ひとつひとつを選ぶ楽しさやリズムの大切さを最初に教えてくれたのは音楽の歌詞だったと思います。

4. さいごに

長かったです…!
友人に頼まれて書き始めましたが、こんなボリュームになるとは…
安請け合いしたなあと思う反面、歌詞解釈は自己完結の楽しみで人に見せびらかすものではないと思っていたのでリクエストされなければ書くこともなかったという意味では感謝しています。とても楽しかったです。

とりあえず音楽関係の記事はこれ以降は特に書く予定ないのでカードゲーム村に戻ります。
万が一この記事がバズったり、リクエストが来たりするようなことがあれば書くかもしれないですが。

ではでは、また次の記事で。

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