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創作小話*空を見上げて 🚌…✨


バスに乗ると、いつも見かけるあの子。
始発から乗るのかな…
いつも後ろから2列目に座って景色を眺めている。
そして僕より長く乗るんだ。
何処まで乗っているんだろう…

そんなある日、僕は
彼女が降りるバス停まで乗る事にした。
降車釦を押す彼女…
運転士さんとも顔見知りのようだ。
僕が利用する前からずっと利用してたのかも。

彼女が降りた所は…
病院前のバス停だった。

病気なのかな?
働いてるのかな?
そんな疑問を抱きながら僕は病院を後にした。

それからは、僕も病院前で降りるようにした。
少し遠回りだが問題ない。
すっかり彼女に魅了されてしまっていた。

いつも清楚で儚げな彼女…
そっと手を差し伸べて支えてあげたい…

そんな思いを抱くようになっていた。
バスに乗るのが楽しみになった。

ーーーーーーーーー

いつの日からか
彼女の姿が消えたんだ。
何日待っても…何日経っても…
彼女の姿を目にする事はなかった。

何かあったのか…
僕は妙な胸騒ぎと戦っていた。

その日は彼女の事で頭がいっぱいで
ボーッと考えながら乗っていた。

そして…
いつの間にか終点…

「お客さ~ん、終点ですよ〜」
の運転士さんの呼びかけに
ハッとして慌てて出口へ向かう

あ……

「あの…それって。。。」
僕は運転士さんの手首を指差した。
彼女が手首に巻き付けていたブレスレットに似ていた。

「あ〜…これですか?
 これは私が娘に贈った物なんですよ。
 気に入ったのか毎日付けてくれてましてね…
 ……もう…遠くに行ってしまいました。。
 娘はバスが好きだったんですよ。
 なので、こうやって一緒に乗ってるんですよ…
 もう…会う事は叶わないのでね…」
と話してくれた。

僕は察した…彼女は。。。。
「そう…でしたか…見覚えがあったので…
 ありがとうございました」

運転士さんは軽く頷き
「ありがとうございました」

と見送ってくれた。


バスを降りて止まらない…溢れる涙…
彼女はあの病院に通っていたんだ。
親しく見えたのは…親子だったからだ。

空を見上げて彼女を偲んだ…

僕の日常は変わらない。
ただそこに彼女がいないだけ…