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ブランディングのメモ帳-13

なぜブランドにこだわるのか?

私は元々グラフィックデザインの仕事をしていました。グラフィックの分野は多岐に渡りました。
まだ制作会社に勤めていた頃にはその会社がCI(コーポレイト・アイデンティティ)が得意な会社だったこともあってロゴタイプやマークなどの制作をしていました。
独立してからは採用関連の仕事であらゆる業種の仕事をしました。
繊維メーカー。コンピュータシステム関連、スポーツメーカー、旅行関連、流通関連。毎年20社以上の入社案内などを作っていました。

ある時、旅行代理店の仕事を頼まれました。
そのころは格安国内ツアーの最盛期で各社こぞって「◯◯1泊2食付き、豪華海鮮盛り合わせ00000円!」なんて旅行チラシが新聞折り込みで毎週のように入っていました。
企業の代表者から「最近他社との競合が激しくて売り上げが落ちてるんだよ。なんとかならないかな?」と相談されたのです。
他社のチラシも含めて何社かのチラシを比べてみました。
どれがどの会社のチラシかわからない。どこも同じようにいきなり「格安ツアー」のキャッチから始まり、どの面を開いても価格の文字が大きく00000円!と叫んでいます。
安けりゃ良い、と価格でお客様は商品を選ぶと信じ切っていたのです。とにかく「なんて見にくい構成だろう」と思いました。

まずは整理する必要がありました。
「格安ツアー」で訴求できる商品をメインにするのではなくて、お客様は旅行する時何で選ぶんだろう?と考えたのです。
旅行の目的。「場所」「食べ物」「温泉」「ひとり旅か家族旅行か?」「自然と触れ合う」「アーバンリゾートを楽しむ」etc.
旅行を目的別に整理して、チラシを出す時期で何をメインにするべきかを選択したのです。
チラシの折り込み時期はお盆前。旅行の単位は「家族」。行き先は「海」「山」。
チラシの表紙にドカドカ載っていた格安ツアーの価格表示を取り払って、家族が楽しそうに海や山に出かけているイラストを大きく入れました。
各面をきちんと区切って「海」「山」「アトラクション」「グルメ」の情報を切り分けました。
今でこそ当たり前の構成がそのころは無茶苦茶だったのを整理し直しただけなのです。

それでもこのチラシの反響は大きくて、この旅行代理店の売上は30%も伸びたのでした。

この経験があって「顧客」から事業の業績が始まるのだと気づきました。
「誰が顧客なのか?」「顧客は何を求めているのか?」
そのことをきちんと整理して考え、過去の成功に囚われないこと。
様々な分野の仕事をしてきたけれど、この時に学んだことがブランディングの基本であると理解し始めました。どの業種にも当てはまり、目的が「販売」であっても「集客」であっても「認知」や「訴求」であっても共有される考え方であることに辿り着いたのです。
すなわち「ブランティング」は広報宣伝や告知、商品開発、認知、全ての基本であると気づいたのでした。
それまではそれらを結び付けるものが希薄で個々のプロジェクトとして捉えていたものが全て繋がった気がしました。もちろん「そうしなくちゃならない」という感覚はあったけれど、それがしっくり来なかったのはクリエイターとして結果に責任感が薄かったからだと思います。

「顧客」から始まり、「整理」をして「ブランディング」の内容に準じて「制作」をすれば、結果として「数字」がついてくる。という経験をあの旅行チラシで経験できたことが、今の「全てはブランディングから始まる」という考え方につながっています。
クリエイターの最終目的は「制作物を完成させる」ことや「クライアントに納品する」ことではなく、ただクライアントの「予算」を使うことでもありません。
クライアントの目的が「販売力」や「集客」や「認知」であるなら、基本には「ブランディング」が存在します。
ただ「目立たせる」「インパクトを与える」ことが自分たちの顧客離れを起こしブランディングからかけ離れているのなら、その一瞬の効果のためにブランドを潰していることになってしまうのです。(もちろんブランドを壊さないインパクトのある訴求が無いわけではありません)
それよりは、確実に顧客に訴求できてブランドを育てることができる方が最後には大きな数字となって表れます。数字に責任を持つということはそういうことだと思っています。

だからいつも「ブランディング」にこだわり続けているのです。


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