ブランディングのメモ帳-3

「知恵を駆使してブランドを育てる」

小さなお店がブランドを育てるために何をすれば良いのでしょう？大抵の場合ブランディングには「広報宣伝」を中心にした戦略が組まれます。でも「広報宣伝」の手法の多くは多くの資本を投下しなくてはならなくなります。そんな資本力などない事業者はどうやってブランドを立ち上げれば良いのでしょう？

「広報宣伝」を使ってブランドを告知する目的は「知名度」を上げるためです。だったら「広報宣伝」の手法を変えれば投下する資本が少なくなるかもしれません。大企業では自社ブランドを広く認知してもらうために莫大な「資本」を投下することが可能です。しかし、その場合でも「ブランド構築期」においてはまだブランドの認知度が低く、販売による利益よりも投下する資本の割合が低くブランド経営に関しては赤字経営から始まります。資本を多く投下する意味はこの「赤字期間」をできる限り短くし、早い段階で黒字化して損益を穴埋めするためと、もう一つは大きな資本を投入することによってブランドが大きな市場を独占するためです。例えばこんな例で考えてみます。

「村のチーズ店」ストーリー3（大きなチーズ店と小さなチーズ店の場合）

村にはチーズ店が二つありました。A店は土地の領主の息子が経営する牧場で作られているチーズを販売、そしてB店は貧しい小作人が小さな牧場の片隅で作ったチーズを販売していました。A店では普通の材料を使い味も普通でしたし、価格も安めでした。B店は少しだけ価格が高かったのですが良い材料だけを使いとても美味しいチーズを作っていました。少しずつ口コミで売上を伸ばしていました。それを良く思っていなかったA店は村の子供達を集めて「ほら小遣いをやるから、うちのチーズは美味しいぞと村じゅうで言ってまわってくれ」と小遣いをやりました。子供たちは村じゅうで「A店のチーズは美味しい」と触れ回って歩きました。するとA店のチーズは「美味しい」と村じゅうで噂になり認知され、A店のチーズばかりが見かけられるようになりました。

領主は資本を持っていて、村の市場を独占することだけを狙ってその資本を投下しました。思惑は見事に当たり村の市場を独占できました。

それではB店には挽回の余地は残されていないのでしょうか？そこで別のストーリーを見てみまます。

「村のチーズ店」ストーリー4（大きなチーズ店と小さなチーズ店の場合…別バージョン）

すっかり村の市場はA店に独占されてしまいました。B店は美味しいチーズを作っているのに悔しい思いをしていました。B店の家の裏には古びた井戸がありました。この井戸の水を使うとチーズの味が良くなることを店主は知っていました。とても手のかかる手法でしたが根気強く仕事をしていました。A店は村を流れる誰でも手に入る小川の水を使っていました。そんなある日その国の王女様が村を通るという噂が流れました。王女様が訪れたその日領主が経営するA店はたくさんのチーズを王女様に献上しました。そして王女様が馬車で小道を通り抜けようとしたその時B店の店主が駆け寄って叫びました。「どうかうちのチーズも一口食べてください」店主は小さなチーズを持って馬車の前に立ちました。王女様はゆっくりと馬車から降りてそのチーズを一口頬張りました。「今まで食べたどのチーズよりも美味しい」と言って彼女は立ち去りました。後日B店に王女様から書状が届きました。「あなたが作るチーズは本当に美味しかった。ありがとう」それだけ書かれた書状をB店の店主は誇らしげに店の前に貼り出しました。もちろんその日から貴族も含めたくさんの客が詰め掛けるようになりました。

この二つの話でわかることは「資本力」を使った宣伝広告だけが「認知」を獲得する方法ではないということです。

二つ目の話の中に含まれている要素は大きく言えば三つあります。一つ目は「参入障壁」。二つ目は「格付け」。そして三つ目は「高い品質」です。

「参入障壁」は他の同業者が真似できないような技術や環境などを持っているかどうか？ということ。それがあるとなかなか他の業者はその市場には入ってこれません。

「格付け」はこの物語の場合は王女の「お墨付き」ですが、権威のある組織や賞などを受賞してブランドの地位を上げて固めることを言います。

「高い品質」は前述の「参入障壁」と「格付け」を裏付けるのに必要なものです。精度の高い熟練の技術や良質の材料のみ使用するといったことで成立します。

この「参入障壁」「格付け」「高い品質」は必ずしも大きな資本が必要とは限りません。そしてこの三つがブランドそのものの性質を決めてゆきます。でもそれらを実現するには努力も運も必要です。そして得られたその三つをどのように使っていくかは事業主の能力やブランドを育てる強い意志が必要なのです。

さて、私たちのほとんどは大資本を持っていません。ではチーズ店のB店のような効果を得るためには具体的にどんな行動をすれば良いのでしょうか？

次はその行動について考察してみましょう。