Lesson 15: ロジックとレトリックの方向性③
次はレトリックのLUバランス調整法を学びましょう。
ロジックと比べて、レトリックのLUバランス調整は複雑です。考えるポイントが多すぎるのです。言い換えると、選択肢が無限にあります。
このレッスンでは、レトリックでLUバランスを調整することの複雑さと、その中でも特に重要な1つのポイントについて学びましょう。
レトリックのLUバランス調整
まずはメディアの全体像を確認してください。
主要なところだけで、メディアはこれだけあります。何らかのメディアを選ばないことには伝えようがありませんから、まずは「どのメディアで伝えるか?」という問いから始まるわけです。
そして、選んだメディアによってLUバランスは変わります。たとえば、以下のメディアだと、下にいくほど分かりやすくなります。
音声のみ
動画(音声と映像)
字幕つき動画(音声と映像と文字)
同じ内容を話すとすれば論理性は変わりませんから、この場合は下のものほど優れたメディアだと言えます。実際、いまのYouTubeは字幕つき動画で溢れかえっていますよね。ただし、下のものほど作成の手間がかかることも事実です。
さらに、メディアの下にはスタイルも紐づきます。字幕つき動画なら、パッと思いつくだけでスタイル要素はこれだけあります。
音声のスタイル
声の大きさ、声の高さ、声色、滑舌、口調
字幕のスタイル
文字の大きさ、色、書体、表示位置、表示時間
映像のスタイル
カメラ(画面)の数、その切り替えタイミング(編集)
(カメラごとに)画角、アングル、ピント、照明
その他のスタイル
話し手の表情(の豊かさ・多様さ)、ジェスチャー(の有無・上手さ)
他にもまだまだあるでしょう。
そして、そのすべてがLUバランスに影響を与えます。このように、レトリックに関しては考える要素が多岐にわたり、組み合わせのパターンは無限になります。ロジックのように、「根拠の質と量だけ考えればいい」といったシンプルな話にはなりません。
ここから言えることは2つあります。
まず、あなたには無限の選択肢があるということです。何かを説得したいときに、そのレトリックにはとてつもない自由度があります。もちろん、ルールでレトリック(特にメディア)が決められていることが多いですが、そうでない状況もあるでしょう。
いつも同じレトリックを使っていると、どうしてもそれにこだわってしまいがちですよね。それでも、あなたにはいつも別の選択肢があることを忘れないでください。必ずしも資料で伝える必要はないかもしれませんよ。
次に、私は無限の選択肢を解説できないということです。これはもう、シンプルに無理です。
ということで、ここでは解説することを1つに絞らせてください。それは資料の情報密度です。資料を使う説得においては、これがLUバランスに最も大きな影響を与えます。また、誰もが頭を悩ませるポイントでもあります。
資料の情報密度の決まり方
早速ですが、以下のスライドを見てください。資料の情報密度がどのように決まるかをまとめています。
このように、資料の情報密度は、主に「フォントサイズ」と「イメージ画像の割合」によって決まります。
厳密には他の要因もあるのですが、それは最後に紹介します。まずはこの2つが重要なので、順に見ていきましょう。
資料の情報密度を決める要素①:フォントサイズ
まずは横軸です。フォントサイズ(文字の大きさ)が大きいほど、資料の情報密度は下がります。
理由は明らかでしょう。資料の大きさは決まっているため、文字が大きくなれば、書ける情報は減るからです。ピンとこない場合は、今すぐ本書のフォントサイズを変更してください。1ページあたりの情報量が変化したはずです。
フォントサイズのガイドライン
フォントサイズには、大きく分けて2つの切れ目があります。それは14ptと32ptです(数値に関しては経験則なので、参考程度に考えてください)。
まず、14pt以下のフォントサイズで資料を作成するなら、印刷かデータの形で、資料を受け手に配布すべきです。理由は以下の2点です。
文字が小さすぎて、プロジェクターや液晶テレビの投影画面では読めない
資料の情報量が多すぎて、受け手がプレゼン中に情報を処理しきれない
文書で14ptより大きいフォントサイズを使うことはまずないので、文書はこのカテゴリーですね。実際、文書を投影してプレゼンすることはありません。
パッケージでも、情報を詰め込みたい場合は12ptや14ptを使います(稀に、8ptや10ptを使う猛者もいます)。
どちらにせよ、このレベルのフォントサイズを使う場合は、投影した資料を受け手が理解できることを期待してはいけません。資料は受け手の手元にあるべきです。
ただし、資料が受け手の手元にあると、プレゼンを真剣に聞いてもらえません。手元にある資料を好き勝手に見たいのが人間ですからね。これは仕方ありません。この場合、プレゼンをせず「受け手が資料を読み込む時間」を作るのも1つの手です。
逆に言うと、プレゼンを真剣に聞いてもらいたいなら16pt以上のフォントサイズを使うべきです。また、資料は事前配布しないほうがよいでしょう。
次に、32ptより大きいフォントサイズを使う場合は、パッケージの論理性は皆無になると考えてください。
理由は、32ptを超えたあたりから、スライドに「ある程度の長さの文」を書けなくなるからです(※)。言い換えると、パッケージには単語や文節しか掲載できません。これは要するに「キーワードだけが書かれている資料」であり、受け手が資料からロジックを理解することは不可能です。ロジックはスピーチ(音声)で補完することになるでしょう。
※ もちろん、機能として書くことはできますが、そうする理由がありません。一行が短く、行が多くなるので読みにくくなり、大きいフォントサイズを選んだ(=見やすさを重視した)ことに矛盾してしまうのです。
ただ、音声はすぐに消えてしまうため、論理性を高めたいコンテクストで使うメディアではありません。受け手に厳密にロジックを評価してもらいたい場合は、文字を使う必要があります。
まとめると、少しでも論理性が要求されるコンテクストでは、32ptより大きいフォントサイズを使うべきではありません。32pt以下のフォントサイズを使い、資料には文を書いてください。ロジックとは文の繋がりのことであり、単語や文節をどれだけ書いてもロジックにはなりません。
資料の情報密度を決める要素②:イメージ画像の割合
次は縦軸に進みましょう。資料におけるイメージ画像の割合が上がるほど、資料の情報密度は下がります。
これはフォントサイズと比べて分かりにくいので、順に説明します。
テキスト以外のメディア
まず、資料にはテキスト以外のメディアを使えます(※)。資料で使える主なメディアを以下にまとめました。
※文書ではパッケージほど多様なメディアを駆使しませんが、本書のように「文中にスライドを挿入する」という手法を使えば、たとえ文書でもパッケージと同じメディアを使用できます。
この中で最も論理性が高い(=分かりにくい)のがテキストです。テキストは読まないと理解できませんが、他のメディアは大なり小なり、見れば理解できます。
つまり、資料におけるテキスト以外のメディアの割合が高いほど、資料は分かりやすくなります。このスライドで下側にあるほど、直感的で分かりやすいメディアです。
メディアのガイドライン①:表・グラフ・図解
では、フォントサイズと同じように、メディアのガイドラインを考えていきましょう。
まず、表・グラフ・図解(チャート)で表現できることは、それを使って表現すべきです。
理由は、この3つのメディアを使っても分かりやすくなるだけで、情報は失われないからです。論理性と分かりやすさのトレードオフにならないわけですね。
どういうことでしょうか? これは例を見たほうが分かりやすいでしょう。たとえば、先ほどのスライドをテキストだけで強引に表現すると、こうなります。
これは単なる改悪ですよね。2つのスライドで情報量は変化しておらず、分かりにくくなっただけです。つまり、2つのスライドの間に、論理性と分かりやすさのトレードオフはありません。ここにあるのは「伝え方の優劣」です。
このように、表・グラフ・図解を使うことで、テキストだと分かりにくいことを分かりやすくできます。これは純粋な改善ですから、やらない理由はありません。
もちろん、グラフの形式を間違えたり、下手な図解をしたりすればかえって分かりにくくなることもあります。ただ、そのあたりはこれから勉強するので心配しないでください。
資料としてパッケージを選ぶ場合、ここをどれだけ上手にできるかが腕の見せ所です。すべてをテキストで表現するなら、文書でいいわけですからね。
たまに極小サイズのテキストをこれでもかと詰め込んだパッケージを見かけますが、それはパッケージとしての自殺行為です。パッケージの文書に対する優位性は、「テキスト以外のメディアを使いやすく、その結果としてロジックを視覚的に、分かりやすく表現できる」ことにあります。ここを間違えるとパッケージが文書化してしまうので注意してください。
なお、文書はテキストだけで表現することが許容されるメディアですが、テキストだけの文書は避けるべきだというのが私の意見です。普通はどこかに表やグラフにできるところがあるものですからね。テキストだけになっているなら、改善余地がないか疑ってください。
実際、古い本にはテキスト以外のメディアは出てきませんが、現代で出版される本だと、そのような本の割合はかなり少ないはずです。ライトノベルのように、小説ですらイラストというメディアを補完していますし、「漫画で分かるXX」といった本も増えましたよね。テキスト一辺倒というのは、多くの受け手にとって親切な伝え方ではないのでしょう。
メディアのガイドライン②:画像
ここまでの話をひっくり返すと、「資料の情報密度」という観点で使用頻度を考えるべきメディアは画像(写真やイラスト)だけだということになります。表やグラフは、使うに越したことはないわけですからね。
ただし、すべての画像が検討の対象になるわけではありません。使用の必然性が認められる画像は、資料の情報密度に影響を与えないからです。
たとえば、新商品の外観や事故現場を資料に掲載したい場合、その写真を使うしかありません。これはまったく妥当なメディア選択であり、資料の情報密度とは関係ない話です。
資料の情報密度という点で問題になるのは、使用の必然性が認められない画像、いわゆるイメージ画像です。例を見てください。
このスライドに使われている画像は、どうしても必要なわけではないですよね。無くても意味は伝わります。このような画像がイメージ画像です。イラストやアイコン、風景写真などがこれに該当します。
イメージ画像を使用すると、資料は分かりやすく(とっつきやすく)なります。意味を直感的に理解しやすくなりますからね。一方で、イメージ画像は複雑な情報を運びません。そのスペースにテキストで追加の情報を書いたほうが、資料の論理性は上がります。
つまり、イメージ画像が増えるほど資料の情報量は下がり、論理性も失われます。それが表現されているのが先ほどの縦軸です。
イメージ画像のガイドラインはシンプルで、説得を分かりやすさに寄せたいなら、イメージ画像を増やします。逆もまた然りですね。
資料の情報密度を決める要素③:その他
資料の情報密度を主に決めるのはここまで説明した2つですが、厳密には他にも以下の要素があります。
各メディアの数・大きさ
版面率
順に説明します。
その他の要素①:各メディアの数・大きさ
先ほどの説明では、「メディアの選択」のみに焦点を当てました。当然ながら、各メディアの数や大きさも資料の情報密度に影響を与えます。
ただし、文書ではメディアの数や大きさが問題になることはないでしょう。適切な大きさで順番に掲載するだけです。問題はパッケージですね。
メディアの数や大きさに関しては、それ自体がLUバランスの調整だと考えてください。たとえば、スライドいっぱいに表を配置すると見やすい一方で、少し縮小すれば空いたスペースにコメントを書いて論理性を上げられます。一長一短ですね。
ただ、無理に詰め込むくらいなら、スライドの枚数を増やしましょう。これだけで、論理性を下げずに分かりやすさを上げることができます。
その他の要素②:版面率
次に、版面率も資料の情報密度に影響を与えます。
版面率とは、紙面におけるコンテンツの割合のことです。逆から捉えて、「余白の大きさ」と考えたほうが分かりやすいかもしれません。
たとえば、Wordで文書を作ると、自動的に余白の大きさが設定されますよね。あの大きさは変更可能であり(「レイアウト」タブに機能があります)、そうすることで資料の情報密度は変わります。
つまり、版面率を小さくすれば(余白を大きくすれば)、資料の情報密度は下がります。その逆も然りです。
版面率についてはシリーズ第5巻『資料のレイアウト』にて詳しく解説するので、一旦ここまでとさせてください。
では、資料の情報密度の決まり方が分かったところで、次のレッスンではどのように情報密度を決めればいいかを考えてみましょう。
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