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「元が0ならいくら掛けても、いつまでも0円じゃないか」【老人ホテル/原田ひ香】

【老人ホテル】?

ん〜、あれかな?
自宅代わりにホテル住まいをしてる、セレブな高齢者たちの悲喜こもごも、みたいな・・・。

まったくもって勝手な妄想でこの本を手に取ってごめんなさい。ちょっと読み進めたら、様子が違うことにすぐ気がつきました。
野心と下心を持った24歳の元キャバ嬢の主人公が、ホテルで暮らすセレブな老女の秘密に少しずつ近づいていく。相手にその本心を悟られることのないよう距離を詰めていく緊張感。そしていざ老女の心の懐に入ることが出来た時、その手に掴んだものはプライスレスな生きる知恵、お金を働かせる“投資”の基礎知識と実践方法だった・・・。


誰にも心を開いていなかった老女が唯一(お金欲しさに近づいたにもかかわらず)主人公の女の子にだけ、本音を明かす過程に胸がすく思い。一転、実は元不動産投資家だった老女が自分が持てる投資のノウハウを主人公に叩き込んでいくさまを読んでいると、「え?もしかして、私もこの通りにしていったら、不動産投資までこぎつけちゃうんじゃね?」という錯覚を起こしたし、読了後は勢い余って、この老女のモデルとなった90歳女性の本も購入してしまった。(『不動産投資歴60年!90歳女性現役大家の儲かる不動産投資術と物件管理の極意/篠﨑ミツ子著(セルバ出版)』)そのぐらいワクワクしちゃうんである。「私だって不動産投資ができちゃうかも」と思っちゃうんである。設定は超現実的なのに、シンデレラストーリーを夢見てしまったのである。


お金を貯める概念を持たない主人公に老女が言い放つ。
「元が0ならいくら掛けても、いつまでも0円じゃないか。」
ノウハウ本なのかな?とさえ思えてしまうほど、現実的で一円の無駄も許さない老女がすぐそばにいて、主人公共々指南を受けているような感覚になる一冊であり、その一方で、「ああ、一度でいいからこんな出会いに恵まれて、あんな大金が転がり込んでくる人生を・・・!」と夢見てしまう物語。



甘すぎず、辛すぎず、ちょうどいい塩梅の読了感に包まれたのでした。


「老人ホテル」


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