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To use,or not to use,that is the question. (使うか、使わないか、それが問題だ)

こんにちは。物語のアトリエの安藤陽子です。今年秋、ユニバーサルツーリズムについて考えるマルチリンガル絵本『ほんとうにだいじょうぶ?』を出版するため、日々制作に励んでいます。

さて、シェイクスピアにあやかって英語のタイトルをつけてみましたが……今回のトピックスは【ユニバーサルツーリズム】という用語についてです。


用語を使うと「境界」が生まれがち

「ユニバーサルツーリズム」という用語をどのように使用するかについては、絵本の制作がスタートした当初から何度となく議論を重ねてきました。

観光庁の公式サイトには、「ユニバーサルツーリズム」の定義が以下のように掲載されています。

ユニバーサルツーリズムとは、高齢や障がい等の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行を指します。

観光庁 公式サイトより抜粋

「ことば」は、他者と認識を共有するという重要な役割を担っていますが、その「ことば」が指し示すものの輪郭を明確にする(フレーミングする)という側面もあります。

そのため、ひとたび用語を使い始めると「じゃあ、これは〇〇って言えるの?」「これは当てはまらないんじゃない?」など、ことばの境界線をめぐるディスカッションに発展することがよくあります。話し合うプロセスに価値を見出せたら素敵だなと思うのですが、ことばの「内」と「外」をはっきりさせようとすればするほど、領土をめぐる争いのようになってしまうので、注意が必要です。

用語を使うと「存在」に光があたる

それでも今回、この絵本を一人でも多くの方にお届けできるよう、私たちが「ユニバーサルツーリズム」という用語を使うことに決めたのは、その言葉の意味を日々問い続けながら活動している人たちに光をあてたいという思いで一致したからです。

一つの言葉が誕生すると、そこに「場」が生まれ、さまざまな人が出入りし、境界線は日々更新されていきます。その更新作業が続くかぎり、言葉は生き続ける。逆に言えば、更新がパッタリと途絶えたときに、その言葉は「死語」となるのかもしれません。

言葉の定義の曖昧さは、その言葉が生きて成長し続けている証とも言えるのではないでしょうか。


心の中の辞書に加えた「観光」の定義

以前、自治体向けに観光コンサルティングのお仕事をしている方を取材した際、事前にいくつか通読した文献には、こんなことが書かれていました。

観光とは、その地域に「光」(希望)を見出す営みである。

とても素敵な表現だと感じたので、そのときに心の中の辞書に加えました。今回の絵本も、その定義をベースに制作を進めています。

同じ用語を使うのであれば、定義の明確化をめざすよりも、むしろ定義を日々更新し続けていくことを楽しんでいきたいです。