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「早期不適応的スキーマ」との付き合い方のススメ

はじめに

 認知療法、認知行動療法に取り組んでみたことのある方で、「スキーマ」という言葉を目にしたり耳にした方は割と多いのではないかと思います。
 基本的に認知療法では「スキーマ」とは「認知に影響を及ぼしているもの」というざっくりした取り扱いがされていて、それに対しての直接的なアプローチはしていません。それで症状が軽減し、回復に向かう方はそれで良いと思いますが、中々認知行動療法の取り組みだけでは良くならない方は、自身の「スキーマ」を掘り下げる事で別の可能性が見えてくる可能性があるという事は、実体験として感じています。
 そんな感じで今回はスキーマ療法についての記事になりますが、前置きとして、スキーマ療法はセルフワークブックも出版されていて自身で取り組むことが可能なものである一方で、人によっては却って精神的な負担が大きくなる危険性もあるものだと認識しています。今現在療養または治療中の方でスキーマ療法に興味のある方は、取り組んでみる前に主治医または担当の心理士の先生に自分が今の状態で取り組んでみても大丈夫か等を事前に相談される事をお勧め致します。

スキーマとは

認知とスキーマのイメージ図

 上の図は昔自分が作ってみた、認知とスキーマについてのイメージ図です。表面に出てくる認知(自動思考)は氷山の一角で、その思考に至る根っこにスキーマが潜んでいる、というイメージです。
※補足ですが、「スキーマ」という言葉は元々学術的に様々な意味を持つ言葉となっています。今回はあくまで「スキーマ療法におけるスキーマ」に限定した話です。

 「スキーマ療法におけるスキーマ」についてのざっくりした説明を知りたい方は、こちらのwikipediaのページをご参照頂ければと思います。またスキーマ療法についてはこちらの日本心理学会の伊藤絵美先生の記事も参考になります。あるいはもっと詳しい学術的な資料ではこちらの文献でも詳述されていますのでお勧めです。

 この記事では上記の資料を前提としてスキーマ療法全体の詳細な説明は避けます。あくまで当事者目線でタイトルにある「早期不適応的スキーマ」に特に焦点を当てて自分の感じたことをまとめたいと思います。

「早期不適応的スキーマ」とは

 「早期不適応的スキーマ」について、簡単に説明しておきます。

図:加藤.2013より引用

  早期不適応的スキーマとは、「自身の生育歴や養育者との関わりの中で、当時は適応的に形成されたが、その後の人生において不都合な反応を引き起こしてしまうスキーマ」とされています(加藤.2013)。上図の様に細かな分類がされていて、自身がどの「早期不適応的スキーマ」を有しているかを自助本あるいはセラピストの支援等を通じて分析していきます。
 名称や上記の内容から想像がつきますが、「不適応的」と銘打たれているものなので、それはあまり生きていく上で良いものではない、好ましくないものとされています。
 スキーマ療法では、治療のステップの1つとして、自分の中にあるこの「早期不適応的スキーマ」に気付き、それに対しての対処を講じていくことが、スキーマ療法を展開していく上で非常に重要な治療プロセスの一部になると考えられています。

 心の問題で悩んでいる方の多くは、「自分の〇〇な部分を変えたい」とか「〇〇を消し去って新しい自分になりたい」という願望を抱く事があるのではないかと思います。私自身も一時期自分の根っこの部分が変わらないとどうにもならないと追い詰められて、認知療法だけではダメだと(今思うとそれも偏見なのかもしれないと思っていますが)感じ、スキーマ療法を学び始めた経緯があります。先に示した図の通り、「スキーマ療法」は自身の根っこに当たる部分に介入するものなので「自分を根本から変える」方法はこれだ!と、最初は強く期待していました。ただ、先ほどの文献資料を読んでいくと分かりますが、スキーマ療法は「スキーマを根本から変える」ようなそんな都合の良い療法ではありません。期待されて読まれた方は申し訳ありませんが、その意味を今から説明します。
 上記資料では、スキーマ療法の目的に「スキーマの修復」という言葉が使われています。それは「スキーマを弱める」または「スキーマを解消し、別の適応的スキーマを手に入れる」事を意味します。
「ん?スキーマを解消するなら、それはスキーマを根本から変えるって事じゃないの?」と思うと思いますが、そうではありません。続きがあります。引用にて紹介致します。

 ただし、早期不適応的スキーマは、相当に強固で、感情や身体反応を巻き込むものであるので、それが完全に修復されることはないとヤングは述べている。したがってスキーマ 療法が目指すのは、自分を生きづらくさせる早期不適応的スキーマを理解したうえで、できる範囲でそれらのスキーマを緩和すると同時に、それらのスキーマとどううまくつき 合っていくか、ということになる。これが現実的に達成可能な「スキーマの修復」ということになるだろう。

引用:加藤.2013

 ヤングとは、スキーマ療法の創設者であるジェフリー=ヤング氏をさします。この文章を読み解くと、スキーマ療法では「スキーマそのものを変えるという事よりもまず、自身のスキーマを理解して、気付きやすくする」事がスキーマ療法の第一義としてあるように感じます。今の自分の実感としても、この考え方の方が健全というか、芯を喰っているように感じています。

本題ー早期不適応的スキーマとどう付き合っていくと良いか

 さて、ここまでスキーマ療法や早期不適応的スキーマについてまとめましたが、本題として自分の伝えたい事はシンプルで、「早期不適応的スキーマも自分の一部だから無闇に否定せず、まずその存在を受け入れてどういう風にうまく付き合っていくか考える方が生きていく上で有効じゃないか」という事です。療法や治療というとどうしても症状を無くしたり、消すようなイメージがつきますが、私は早期不適応的スキーマに関しては中々そういう訳にはいかないと思っています。もちろん症状や過去の経験や各々の意志などありますので、最終的にはどうしたいと考えるかは人それぞれで一概に区切れるものではない事は分かっています。
 いくつかの心理療法を独学で経験して感じる事としては、心理療法の第一歩は、「自分自身をフラットな視点で理解して受け入れる事」だと思っています。その過程で、自分の中の「こうあるべき」「こうでないといけない」「こうできない自分(あるいは周囲)が間違っている」といった、自分の中にある思い込みや偏見といった、「直視したくない事実」と向き合う場面が出てきます。早期不適応的スキーマもその一部で、自分の中のある意味では「恥ずかしい」「醜い」「隠したい」と感じる部分と向き合う必要性が出てきます。そこと向き合って、過去の自分から目を逸らさず対話を続けるのがある意味でスキーマ療法の真髄かもしれないと、今の自分は勝手に思っています、
 しかし、セルフヘルプ本を頼りになんとか一連の手順を経た後に、「結局色々頑張ったけど、この厄介なスキーマは無くならないじゃないか!」と憤ったのはきっと私だけではないはずです。そもそも独学でのスキーマ療法の実践には限界があると今なら割と実感をもって言えますし、その時の自分の理解が今よりも更に浅かったのもありますし、そもそもスキーマ療法にかける時間が絶対的に少ないだろう事も勿論理由としてはありましたが、この当時は本当に絶望しました。
 少し話が逸れ気味で申し訳ありません。この辺りの気持ちの揺れも含めて伝えた方が、スキーマ療法に取り組んで悩んでいる人に伝わる気がして書いています。話を戻すと、私が今考えている事は、この「早期不適応的スキーマ」を当初は無くそう無くそうと思って、現実場面でこのスキーマが強くなっている、なりそうだと気付いたタイミングで一生懸命それを弱める別のスキーマ(ハッピースキーマとも言います)を強めようとしたり対話を重ねたりしていましたが、少なくとも自己流でそれを定着させるのは至難の業でした。そもそも自分の意識一つで変われないからスキーマなんだよな、と今は思っています。しかしある時から「このスキーマが強くなっていても、強くなっているままにして、とにかく行動や判断になるべく影響しないようにやり過ごす方が有用じゃないか?」と考えるようになりました。そうしたら、案外この方が無理なく自分の日常に取り入れられそうで、且つ「行動や判断面での悪影響を減らせる」というメリットも実感できるようになりました。多分一番大事なことだと思うのですが、「早期不適応的スキーマ」が強くなる場面は、自分にとって冷静な思考や意思決定が出来なくなっている可能性が高く、その時した行動や判断が、自分のその後の生活に悪影響を及ぼす事がままあります。そのリスクを減らすには、上述した「とにかく眺める」思考はある程度有効でした。
 上述した方法を具体的な方法論的にまとめるのは今はまだとても難しいのですが、スキーマ療法単独でそこに至ったわけではなく、ACTの「受容」「価値」、マインドフルネスの「感情を眺める」、ロゴセラピーの「良心」といった概念を自分の中に取り入れていった結果、いつの間にかある変化が自分の中に起きていて、結果的にそういう考えに至りました。自分にとってはスキーマ療法は「自分の中にある無意識に立ち上りやすい傾向を理解する」点で特に有用な療法だったのかなと今となっては思います。

おわりに

 きちんと心理士の方と共に時間をかけてスキーマ療法に取り組んでいる方からすると、今回の自分の投稿はある意味では邪道かもしれません。ただ自分のようにカウンセリングにじっくり取り組める人ばかりではないのも現実かなと思うので、独学で色々と取り組んでいる人向けに、「私はこんな風に感じて、今はこう考えているよ」という事を伝えられたらと思い、今回の記事を投稿してみる事にしました。スキーマ療法自体は非常に面白いものだと思う一方で、完璧主義の人が独学で取り組むと挫折しやすい印象を受けます。最終的には自身の生活上での困りごとを減らす事が出来ればそれで良いと思いますので、今回の記事が今スキーマ療法に取り組んでいて、悩んでいる方の一助になれば幸いです。

 私のnoteでは、心理療法を独学で取り組んでいる方向けに、自身が過去に取り組んでみた心理療法の感想やそれらに類する事で気付いたポイントなどを当事者目線で記事にしていきたいと思っていますので、興味のある方はまた読んで頂ければ嬉しいです。それでは。

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