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【KX物語 第9話】kさん、「カイシャという幻想」に支配されていたことに気づく。

「じゃあ、KXって何なのか。それを、これからご説明します」
 そう言うと、マスターはタブレットの画面をスワイプします。そこには、

KX=カイシャ・トランスフォーメーション

と書かれています。ご説明します、と言いながら、マスターは沈黙しています。kさんは、顔をあげてマスターの様子を覗うようにします。マスターは微笑んではいますが、話を始める気配がありません。
・・・なんだよ、ご説明って言ったのに、、、カイシャ・トランスフォーメーションか。最近は、何でもかんでも、トランスフォーメーションだな。カイシャも変わらなきゃ、と。そりゃそうだよね。日本の大手企業はオワコンだ、なんていわれてたし。でも、働き方改革なんて言い出したり、ジョブ型なんて言い出したり、最近では人的資本経営なんていうのもよく聞くし。変わってるのかどうか知らないけどねえ、、、ウチの会社はどうかなー。業績回復に向けていろいろと手を打ってはいるから、変わっているといえば変わっているんだろうけど、、、
 そんな風に思いを巡らせていると、マスターが手を動かし、次の画面が現れます。浮き上がってきたのは、こんな文章です。

カイシャ=昭和モデルから脱却できない日本企業

・・・ああ、そういうことね。ビジネスモデルも人事制度も、変わっているようで変わっていない、っていう会社、いっぱいありそうだもんな。会社の文化みたいなのも、そうだよね。今もタテ社会の軍隊組織だったり、社内の調整や根回しが大変だったり。上の顔色見て忖度しちゃったりとかね。ウチも、そんなに社歴のある会社じゃないけど、そういうところ、残っているよなあ、、、
 頃合いを見計らっているかのように、マスターがまた画面をスワイプします。今度は、こんな文章が浮き上がってきます。

KX(カイシャ・トランスフォーメーション)

カイシャ(昭和モデルから脱却できない日本企業)を壊し
人生100年時代にふさわしい“会社”を創る
社会変革のムーブメント

・・・社会変革のムーブメントと来ましたか。なんだか大それた話だな。これ、誰が始めたんだろう。革命家がいたりしてw 人生100年時代にふさわしい“会社”っていうのも、なんか大きい話だよなあ。自分のことだけで精一杯なのに、、、そんな大きいスケールの話は、なんかパスって感じなんだけど、、、
 そう思いながら、Kさんはマスターの顔色を窺います。マスターとkさんの視線が交錯します。マスターは、大きく頷きました。そして、また画面をスワイプします。浮き上がってきた文字に、kさんは眉を顰めます。

カイシャを変える。何を?

制度や仕組み?
ビジョンやミッション?
カルチャー?

・・・また問いかけかよ、、、 こういうものじゃない、って言いたいんだろうな、、、なんだろう。経営者を代えるとか? それじゃ本当に革命になっちゃうなw ああそうか。ひとを変えるのかもな。学び直しとかリスキリングとか。昭和じゃなくて、令和に通用するようにひとを変えていく、とか。
 そんなことを頭に思い浮かべながら、kさんは再びマスターの方に顔を向けます。相変わらず穏やかな顔ですが、さっきから視線が合うたびに、Kさんはなんだか妙な気分になっています。
・・・なんだか、心を見透かされているような気がする。私が考えていること、まさかわかっているとか? 表情やしぐさに出ているのかな? この人はメンタリストなのかな? 
 突然、マスターが口を開きます。
「そんなことありませんよ。あなたが考えていることなんてわかりません」
・・・えーーーーーっ!! なんでそんなこというんだ!?  わたしが今考えていることが分かったから、そういう返事をした、っていうこととしか思えないけど!!
「でも、しっくりきていない、ということはわかります。何を変える、っていうんだよ、という引っ掛かりを持ちますよね」
 そこまで話すと、マスターは、テーブルの上に置いたタブレットを再び持ちあげて、kさんの目の前に掲げます。そして画面をスワイプします。画面に現れたのは、先ほどヘンなメガネ・・・KXメガネをかけた時に目の前に現れたログハウスのような薄暗い小部屋です。そして、あの時の声が聞こえてきます。
 
 私たちが変えたいもの。それは、
 “一人ひとりが心の中で創り上げている
 カイシャという幻想”です。

・・・会社という幻影? 一人ひとり? どういうこと?
 kさんのひっかりをよそに、声は続きます。

 私たち一人ひとりは、誰しもが人生の主人公です。
 一人ひとりがそれぞれの想いを持ち、
 それぞれがあるがまま、わがままであろうと、
 自分らしい物語を紡ごうとしています。
 
 それなのに、カイシャに働くと、
 あたかもカイシャという主体者がいるかのように
 ふるまってしまいます。
 「会社のために」としゃにむに頑張ったり、
 「会社が決めたことだから」と
 意思に添わないことをしていたり。

 いつのまにか、自身が創り上げた
 カイシャという幻想に支配され、

 想いを、そして自分らしさを失ってしまっています。
 「会社で働くって、そういうこと」だと、
 自身の心の中にあるわだかまりを
 封印してしまっています。

 kさんは、いつの間にか一心に画面を見つめています。そして思っています。
・・・それは、今のわたしのことだな。 
 声は、まだ続きます。

 でも、カイシャという実態はありません。
 そこにあるのは人のつながりだけです。
 オフィスや設備や技術やマニュアルは
 何の意思も持ちません。

 何らかの想いを持つ人が仲間になり、
 その想いに共感する人が引き寄せられ、つながる。
 そんな“出会いの社(やしろ)”であることが
 会社の本質です。

 そこに集った一人ひとりが、
 つながりの主体者なのです。

 一人が変われば、つながりは変わる。
 会社は変わるのです。

 KXの起点は、会社で働く一人ひとりが、
 自分が創り上げている
 カイシャという幻想から抜け出して、

 自分らしさを取り戻すことです。
 一人ひとりが蛹から蝶へと変態し、
 人生の主人公として、自分の人生を
 ワクワク、楽しいものにしようと、

 新たなアクションを起こしていくことです。
 蝶の羽ばたきが大きな竜巻を生み出すように、
 一人ひとりのアクションは、
 アクションの連鎖を生み、

 チームを、職場を変えていく。
 やがては会社を、そして社会をも変えていく。
 
 私たちがKXというムーブメントで実現したいのは、
 そんな大きな物語。
 でも、かかわるすべての人が主人公である物語です。

 だから、KXは私からはじまる。
 あなたからはじまるのです。

 さあ。人生の主人公へ。

 画面が明るくなり、薄暗い小部屋は消えていきます。kさんは身動きができなくなっています。

(つづく)


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