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発明家としてのASD

近頃自分のASD的性質とうまく付き合いつつ、いかに能力を最大限に発揮できるか、ということに興味を持っている。数年前まで、自分の特異な性質とASDの関連性に全く気付いておらず、自分が力を発揮できるか否かは、自分がいる環境がたまたま自分に合っているかどうかに大きく依存していた。
これを、ASD的性質への理解を深めることで、たまたまではなく、ある程度必然性を思って、自分の能力が発揮できる環境を作り出したい、というのが最近の私の興味である。

さて、そのような中で私の琴線に触れたのが、「ザ・パターン・シーカー:自閉症がいかに人類の発明を促したか」という本だ。以下では、後ほどASD者(というか私)のあり方へのヒントとするために、この本の一部を私の言葉でまとめてみたい。

ASD的性質は、物事に潜むパターンの発見能力と大きく相関がある。
パターンの発見とは、例えば「薪を置いて、マッチに火をつけて近づければ、薪が燃える」といった繰り返し起こる事象の発見のことだ。
このようなパターン発見能力は人類独自のもので、急速な発明の原動力となってきた。もちろん、パターン発見の能力は多かれ少なかれ人には備わっているが、ASD的性質を持つ人々は、パターン発見に非凡な才能を発揮することが多く、結果、人類の発明を促進してきた。トーマスエジソンやアインシュタインはその最たる例だ。
パターン発見は、実験的な方法によって行う。実験の大枠(薪を置く、等)は固定しつつ、その条件(マッチに火をつけて近づける、ハンマーで叩く、等)を少しずつ変えながら結果(燃えるか燃えないか、等)を確認し、最適な条件を探し当てる。

このような能力が、すべての問題に力を発揮するわけでは、もちろんない。むしろ、問題の性質によっては、その能力が暴走し、害悪にすらなり得る。
そもそも繰り返し発生する事象でなければ、パターンは発見できない。特に人と人のコミュニケーションのように、繰り返しがないようなものには、この能力は使えない。使えないものに対して、能力を無理やり当てはめようとすると、ただただ疲弊する。
人と人とのコミュニケーションでいえば、人類のもう一つの独自な能力である共感性はパターン発見能力とおおよそトレードオフの関係にあるようであるから、パターン発見能力の暴走と、共感性の欠如が重なることで、さらに人の中で生きることの難しさが強調される。

(以上は、本の一部の要約であることは再度断っておく。紙面の多くは、「自閉症的性質とパターン発見能力の関連」というよりむしろ「パターン発見能力がいかに人類独自のものか」といった部分の議論に割かれている)


以上を踏まえたとき、一見すると、ASD者にとっていかにパターン発見能力を必要に応じて出し入れできるかが肝要なように思える。言い換えれば、いかにパターン発見能力が必要な場面/不必要な場面を見極め、必要な場面ではパターン発見能力をフルに生かし、不必要な場面ではパターン発見能力を使わないようにできるか、といったものだ。そうすれば、ASD者の苦手な部分を消して、得意な部分で勝負ができるように思える。

しかしながら、実際のところこのような戦略は実現が難しいだろう。どうすれば、パターン発見能力が必要な場面/不必要な場面を見極められるのだろうか?どうすれば、不必要な場面でパターン発見能力を使わないようにできるのだろうか?特に後者について、具体的に人とのコミュニケーションの場面を想像したとき、気軽に自分の中の能力のオンオフを切り替えることなど不可能に思える。よくよく考えてみると、これはASD者に対し、「普通の人間になれ」と言っているのに近い。

私としては、むしろ積極的にパターン発見能力を使っていく方向性に可能性を感じている。具体的には、通常パターン発見が必要なさそうな問題を、パターン発見可能な形に整理してやるというものだ。

例えば、認知行動療法で行なっていることはこれに近いように思う。認知行動療法では、自分自身が感じているストレス反応を、「認知」「感情」「身体」「行動」の四要素に分解し、自分がある程度制御可能な「認知」と「行動」に対して修正を加えていく。様々なストレス反応に対する、自分自身の認知/行動のパターンを認識し、そちらを最適化していく手法だと解釈すれば、自分自身感じるストレスの問題をパターン発見問題に変換していると言えるのではないか。

経営コンサルタントが行なっている、ビジネス課題をフレームワークを用いて整理する手法も、関連があるように思う。経営コンサルタントは、一見するとパターンなど内容に思える経営課題を、フレームワークを用いて整理し、打ち手を見出していく。既存の「マーケティングの4P」等フレームワークを用いて整理することもあれば、課題に合わせてフレームワークを設計することもある。このような手法から、自分が抱えている非パターン発見問題をパターン発見問題へと変換する方法について学べるかもしれない。そもそもビジネスフレームワークが、科学的発明の手法をヒントに作られたことを考えれば、科学的発明に長けている(傾向にある)ASD者がフレームワーク的思考を身につけることは極めて良い方向性に思える。

つまり、自分自身のASD傾向をセーブするというよりは、積極的に活用して自分らしい問題解決の方法を見つけていくことが生き辛さを減らしていくための鍵になるのではないか、ということを考えている。もちろん、気分的にまいっている期間(ASD的バーンアウトのときとか)にやるのは辛いので、まずは調子がよくやや余裕がある期間に、自身に起こったことを整理してみるのが良いのではないか。


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