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【往復書簡18通目】秋の始まりは北の葡萄と西の無花果が出会う一品で

いがらしさんへ

気づいたら、もうすっかり風が秋になっている、9月末の関西です。9月に入ってからも、時折30度近くまで上がる日もあったけど、風がさっと吹くと、ああ、もう夏は終わっているんだな、と肌で感じます。

先月のお手紙では「梨と白キクラゲのデザートスープ」、ごちそうさま。とってもいがらしさんらしい、清楚で凛とした一皿だね。白一色のスープに、クコの実と添えられた紫の花が映えて、朝、窓を開けたら、さあっと通っていく風みたいに、爽やか。秋に食べる梨と白キクラゲは、薬膳という知から見ると普遍的な組み合わせなのだろうけど、地元で適果した梨というエピソードに、いがらしさんの美意識が掛け合わされると、全く新しい料理のように思えるね。この季節に遊びに行けるようになったら、子どもの頭ぐらいの梨が実っている風景も、ぜひ見てみたいものです。

さて、こちらは8月初旬から無花果のシーズンが始まっています。隣町の川西市は、桝井ドーフィンという無花果の主要品種が生まれた地で、兵庫県の中でも神戸に次ぐ主要な産地なのです。なんといっても素晴らしいのは、早朝に完熟したものを採ったものが、その日のうちに買えること!自分の庭になった無花果を、もいで食べているようなものだよね。うちの食べられる庭には、まだ無花果は実らないので(植えてもいない。笑)、とにかく無花果を買える限り買っては食べる、という日々でした。

いつものJAの直売所で買えるのは、もちろんアメリカ系品種の桝井ドーフィンが主なのだけど、時折、バナーネなどのフランス系の白無花果もあったりします。食べられる庭には、やっぱりこれぞ!という品種を植えたいので、リサーチも兼ねて食べくらべていたのだけど、私が果物の求める「適度な酸味」のある無花果にはなかなか出会えなかった。ところが、9月も半ばになって、ついに見つけたのがフランス系黒無花果の「ビオレソリエス」。赤い無花果が並ぶ中に、ちょっと紫がかった黒い無花果を1パックだけ発見して「これは...」と、ピピッときたの。帰って食べてみたら、まさに私の理想通りの味。水分が少なくて凝縮した甘味の中に、かすかにベリーの風味を感じるような存在感のある酸味。こうして、ようやく食べられる庭に植える無花果が決まりました。

そんな無花果まみれの、2ヶ月だったのだけど、完熟果実の生食を楽しみつつ、並行してせっせとつくっていたのが酢煮。無花果の重量の20%くらいの重さのりんご酢と砂糖で、無花果を丸ごと煮るという簡単なものなのだけど、これが本当に美味しいのです。これを、つくっては瓶詰めしているうちに、ふと思いついたのが、葡萄の未熟果でつくった「ヴェルジュ」と言われる酸っぱい葡萄ジュースで煮てみること。この「ヴェルジュ」は、札幌の果樹庭をお任せしている友人が、摘果した葡萄でつくってくれたもの。ヨーロッパでは酢の代わりに使われるので、ドレッシングにして楽しんでいたのだけど「もしや」と思って使ってみたら...。まるでもともと無花果の中にあった酸味のように、しっくりとなじんで、ため息の出るような一品に仕上がりました。札幌の果樹庭の葡萄と関西の食べられる庭の無花果が出会う一皿、いつの日か無花果が実るようになったら、きっと食べてもらいたい(まずは植えるところから!)。

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「未熟果の葡萄ジュースで煮た無花果のアイス添え」

それでは、どうぞ召し上がれ。

みやう

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