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芒種|2023.6.6-2023.6.20

日々の食卓、食卓での会話、食材やレストラン、食に関する本や映画、イベントなど、食にまつわることだけ書く日記のような「食雑記」。節気毎に更新。

6月6日(火) 絶食と消化管

入院2日目。夕方の手術のため朝から絶食。絶食の目的は、消化管を空っぽにするということ。昨晩の下剤の内服に始まり、もろもろの処置であらためて実感する。普段は切れ目なくくり返しているから、実は一連のイメージにはなっていない「食べることと出すこと」だが、こうやって一度ストップすると、食べ物が消化管を流れていく時間感覚がよくわかる。

6月7日(水) 絶食終了

入院3日目。いろいろ管がついたまま、朝食。絶食の後は何を食べても美味しいというけれど、やはり無条件というわけではないよね、と美味しさを構成する様々な要素のことを思う。とりあえず、お迎えを待っている間に、ドトールにいって黒糖ミルクレープとコーヒーを買い、手術を終えた自分を労う。

6月9日(金) 食べられる庭で枇杷がとれた

食べられる庭で、はじめての果物を収穫した。恥ずかしいほどに、何ひとつ手をかけていないかったけど、枇杷の木はちゃんと実をつけていた。おおぶりで瑞々しい。ちょっと酸っぱかったけど、それもまた嬉しい。庭になった果物を自分でもいで食べる幸福が、関西での暮らしにも戻ってきた!

6月10日(土) 今週の買い出し

芒種の頃のスマイル阪神買い出し。11時の品出し(少し遠く、西宮とか神戸の農家さんの野菜が出る)に合わせて行ったので、品数は少なめ。豆類は空豆やウスイエンドウからインゲン(関西では三度豆と呼ぶ)やモロッコインゲンに完全に移る。今にぎやかなのはジャガイモ売り場。関西でも、品種が多様なことにびっくりする。前回は私の好みでお高めの「インカのめざめ」と「シャドークイーン」を買ったので、今回は恋人におまかせしてお手頃「キタアカリ」を買う。新しく出ていたのは、葉っぱのたくさんついた株セロリくらい。久しぶりにラム肉と大量のセロリの葉で煮込みをつくろう。レジ前で加熱用の大量の苺をみて、山盛り食べようかと思ったけど、冷蔵庫につぶした苺があるのを思い出して、やめた。とにかく、あるものを消費するところから。

6月11日(日)季節の出会いものとノンアルビール飲み比べ

食べられる庭のバジルが結構茂ってきたので、昼食はジェノベーゼのパスタにしようということになる。冷蔵庫には、昨日スマイル阪神で買ってきた新ジャガとインゲンもあるので、珍しくいれることにする。現地ではジャガイモとインゲンを入れるというその組み合わせには、あまりピンと来ていなかったけど、ああそうか、同じ時期に採れるからだ、と当たり前のことにようやく気づく。そして、実際に食べてみると、やっぱり合う。季節を丸ごと堪能している満足感がある。ただし、ジャガイモはメークイン系のほうがいい。

日曜日の夜だね、と恋人がお酒を飲みたそうだったので、私はこんな機会でもないと飲まないノンアルコールビールの飲み比べをしてみる。「ヒューガルテン」のノンアルは(というか、ノンアルがあるのにはびっくりした)は、アペリティフとか、パーティドリンクにはぴったりの気持ちのあがる味。ビールの代用ではなく、新種のドリンクという感じ。キリンの「零ICHI」は、口中も喉越しも限りなくビールを飲んだ感覚に近い。アルコールがないことによるボリュームの乏しさを味や発泡感でうまくカバーしているなと思う。そして、そもそもビールがいろいろな食事に合わせやすいお酒だったということを思い出す。サッポロの「酔わないCRAFT」は、香りと苦味を強く出すことによって、むしろノンアルの薄っぺらさを目立たせてしまっている感じで、本当に微妙なバランスで成り立っていることがわかった。お酒が飲めないことで、新しい世界に出会えた。

6月12日(月) お好み焼きは保存食料理

夕食はお好み焼き。昔からお好み焼きの豚肉は「記号」なんじゃないかと思っている。とりあえず肉が入っていますよ、という記号。少なくとも家で焼くときに、お好み焼きによって豚肉を美味しく食べられたという記憶はない。まあ、入ってるけど…という程度だ。で、今日は豚肉の買い置きがなくて、ふと思いつきでパンチェッタを使ってみようということになる。これが、意外とよかった。これなら、お好み焼きに入れる意味があるという感じ。考えてみれば、お好み焼きはキャベツと卵以外は全部乾物というか保存可能な食品なのだ。今は天かすに入っているイカは、もともとスルメだったというし、桜エビも乾物だし、鰹節は魚を乾かしたようなものだから、肉を塩で脱水して熟成保存するパンチェッタも同類みたいなものだ。野菜料理だと思っていたお好み焼きが今度はどんどん保存食料理に見えてきた。

6月14日(水) 塚口の欧風カレーと「ウィ、シェフ!」

手術後、初めてのお出かけ。塚口のサンサン劇場に映画「ウィ、シェフ!」を観にいく。ランチは、恋人におすすめされた老舗カレー屋「アングル」でポークシメジカレーを食べる。老舗ならではの、ゆるぎない味わいのカレー。メニューを極めて品数を絞って、ひとつのお店を続けていくってどんな感じなんだろうと、こういう店にくるといつも想像する。

「ウィ、シェフ!」は、元一流レストランのスーシェフと強制送還寸前の移民の少年たちが、料理をつくることを通じて、人生の新しい可能性を切り開こうとするストーリー。ほんとに観に行ってよかった。自立支援施設の料理人になったシェフが数人の少年に食事づくりを手伝って欲しいと希望したら、大勢の少年たちがぞろぞろと厨房に入ってきてカオスになるシーン。数学はレシピの材料計算で、地理は土地のチーズの食べ比べで、少年たちの学ぶ意欲がどんどん高まっていくシーン。シェフがかつて働いていたレストランに少年たちを連れていき、プロの料理と空間とサービスを体験してもらうシーン。リラックスして自分の境遇についての話が始まる。少年たちが厨房でそれぞれ自分の国と家族の思い出の料理をつくり、話ながらみんなに食べてもらうシーン。食のもつ力というのが、いろいろな形で描かれていて、かつて「食って、もしかしてすごい力があるんじゃないか」と気付いたときの気持ちを思い出すような時間だった。

6月15日(木) ふたたびお好み焼き考

昼食はお好み焼き。今回はパンチェッタを細かく賽の目にして表に散らし、ひっくり返す。生地に混じり合った感じでパンチェッタの塩味と風味が効いてくる。とても美味しい。我が家の定番になりそうな感じ。ただ、生地に混じり合ってしまうとしたら、もはや桜エビとか、天かすと同等になる気がする。つまり、具材としてはアピールしにくく、あえて言えば「お好み(パンチェッタ混ぜ込んでます)」になるのではないかと思った。しかし、恋人が言うには、関西には、素のお好みというものは存在しないという。一度も「(ただの)お好み」というは見たことがないと。もしそれが存在するとしたら、それはもはやキャベツ焼きに近いのではないかと言う。キャベツ焼き? 知らない登場人物がでてきた。いや、ほんとお好み焼きの世界は広く、深く、謎めいている。いつか「北の女が見たお好み焼き」的な本がつくれそう。写真は鉄のフライパンで焼いたのと、テフロンのフライパンで焼いたのを食べ比べるのに、半分ずつを組み合わせたフランケンお好み焼き。

6月18日(日) 今週のスマイル阪神とアーティチョークの花

芒種の頃の、スマイル阪神買い出し2回目。入り口入って左手の旬島(今勝手につけた)ては、トマトが爆発しかかっている。夏の気配。一方、右の旬島の新ジャガの爆発は少し落ち着いてきている。レタス類は少なくなり、残っていたものも質が悪くて、見送る。珍しくトレビスが出ていて、いそいそとカゴに入れる。いんげん類の値段が少しだけ下がってきた感じ。甘長とうがらしは初お目見え。でも、まだまだ少ない。ナス、キュウリがジワジワと勢力を増してきている。一言で言えば、初夏の入り口に立ったというところか。

花売り場に、ちょっとありえない存在感の花がいると思ったら、アーティチョークの花だった!アーティチョークはこの花の蕾を食べている。ガクをむいていくとでてくる花托のところにモシャモシャしていたのが、今咲いているこの花だ!とつながる。香りはデンプン質というか、パウダリーな甘い香り。これからアーティチョークを食べるたびに、咲いた姿を思い出せるのが嬉しい。

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