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大暑|2023.7.23-2023.8.7

日々の食卓、食卓での会話、食材やレストラン、食に関する本や映画、イベントなど、食にまつわることだけ書く日記のような「食雑記」。節気毎に更新。

7月23日(月) アジアン食堂SALAと仙草蜜

前に何かの記事で読んでが気になっていた神戸元町の「アジアン食堂SALA」へようやく行ってきた。確か、アジアのお母さんたちの仕事の場をつくるため、日替わりでシェフをするお店という記事。写真に映っていたお店の内装がとってもカラフルでなんとなく手づり感あふれるお店を想像していたのだけど、予想とちょっと違った。メニュー品目は、カオマンガイ、魯肉飯、グリーンカレーが固定で、それにプラスして日替わりメニューという構成。メニューのデザインも美味しそうな写真をドーンとつかったプロっぽいもの。日曜のランチタイムとはいえ、席は満席。日替わりメニューに気づかず、注文したカオマンガイは、タレが抜群に美味しくて、キュウリにも飾り切りが入っていて、スープもいい意味で美味しすぎない家庭っぽい味で、ああ、料理はちゃんと手づくりだなあと感じた。ちょっと不思議に感じた、お店と料理のバランス、ホームページで紹介されていた経営者のインタビューを読んで、納得。

せっかく、ここまで来たからにはと中国食材店にいくつか入ってみるが、身体を冷やしてくれそうなものしか目に入らない。仙草ゼリーが入った仙草蜜というドリンクを買い、その場で飲む。確かに身体がほんの少しスーッとなった気が。

7月28日(金) マクワウリのサラダ

朝のサラダはマクワウリ。昨晩、デザートで食べたら、微かな甘味とバランスする、爽やかな酸味があって、一気に料理のイメージが広がった。朝、起き抜けのベッドの中でマクワウリについて調べていたら、昔の人は種のまわりの甘い汁こそが楽しみだったというテキストを見つけて、甘い汁をドレッシングにすることに。まあ、マクワウリのとも和え。種の部分をスプーンでくり抜いて、ザルで越して、オリーブオイルと塩を入れる。小さく切った実の部分をドレッシングであえて、仕上げに香り胡椒を少し。酸味は実に隠れているので、レモンや酢はいらない。これは、美味しい。7月のサラダレシピがひとつ増えた。

7月30日(日) 冬瓜のシャトルシェフ煮

コンロを使うと信じられないほど台所が暑くなるので、いかに火を使う時間を短くするか、知恵を絞る。熱を活かして逃さないといえば、シャトルシェフだ。給湯器を60℃に設定して、内鍋に熱湯とガラスープの素を入れ、蓋をして沸かし、冬瓜ひとつを全部切って生姜を入れて、数分だけ沸かして、外鍋に入れてしばらく放置。こんなに切実にシャトルシェフを求める理由が、この酷暑だとは。これまた、小鍋に熱湯を入れ、蓋をして湯を沸かし、1分だけ湯がいたモロヘイヤを刻んでいれる。ストップウォッチで時間を測りたいくらいの気持ちで、火をセーブしている。人生でこんな体験は初めて。例えばインドみたいな暑い国での料理は、どんな感じなのだろう。彼らも、できるだけ火を使わない工夫をしてるのだろうか。

8月2日(水) 食卓の贈り物

50回目の誕生日に、恋人がディナーをつくってくれた。お互い、誕生日には贈り物のつもりで料理をつくるのが恒例となっている。私たちは、自炊が9割、いつもふたりで料理をつくっているので、特別な料理をつくるというのは意外と難しいのだ。彼も誕生日までの1週間くらい、何つくろうかなと悩んでいた。

食前酒はパナシェ、のつもりだったらしいが、レモンスカッシュにビールを入れるところを、なぜか白ワインと勘違いして、レモンスカッシュの白ワイン割りに。なぜにパナシェ?と聞くと、マルセイユで暮らしていた時、すごく暑い日にカフェで飲みたくなるのが、パナシェだったらしい。ビールを割るからアルコールが軽くて、レモンで疲労回復って感じなのかな。またひとつ、彼の食の記憶を共有できた。

食前酒を飲み終わり、ワインの登場。イタリア、カラブリアのオレンジワイン。エチケットには、ブランコに乗っている女性の足が描かれていて、靴がカラブリアの形。イタリアの爪先のところでつくってますよ、ということらしい。エチケットで選んだわけではないだろうと思うけれど、このエチケットを見たら、あ、これだ!って思ったろうなと思う。50歳の誕生日を祝って乾杯したところで、プレゼントを渡される。ガラスのチェーンにゴールドが吹き付けられたボリュームのあるネックレス。

前菜は夏野菜のテリーヌ。トマト、ズッキーニ、オクラ、アスパラガスなどが、昆布風味のゼリーに閉じ込められている。ゼリーがゆるくて、崩れちゃってたけど関係ない。毎日あきるほど食べている野菜が見違える。普段、同じ食材で、ふたりで料理して、食べているからこそ、逆に特別感が際立つ。ゼリーの昆布のうまみとオレンジワインがとてもよく合う。

次はアボカドのガスパチョ。キリッと冷えたのが、脚のついたパフェグラスに注がれている。もうそれだけで特別な気分にになる。風味が濃厚なわりに、口当たりはさらりとしている。生クリームではなく、牛乳とヨーグルトを使っているらしい。

そして、カンパチのタルタル。なんとクミンが入っていて、ちょっとびっくりする美味しさ。生魚にスパイスは、私は胡椒とかピンクペッパーくらいしか試したことがない。あえていえば私はハーブ派、彼はスパイス派だけど、このレシピは本当に彼ならではだなと思う。

最後の料理は、トマトのファルシ。小さめのトマトに詰め物をして、チーズをのせて、オーブンで焼く。マッシュポテトもつくってあるところが、彼らしい。ひとり2つずつ並んだトマトがお雛様みたい。スマイル阪神で買ったトマトが本当に甘酸っぱくて味が濃くて、今まで食べたことのあるトマトのファルシとは全然違う味になっていた。

そして、デザートは桃のアイスクリーム。数ヶ月前に勢いで買ったアイスクリームマシンをつかって。桃の果肉がゴロゴロと入っている、手作りだからこその贅沢。

最後に今日のコースをどうやって考えたかのか聞いてみたら、ひとつは私が好きな白ワインに合う料理ということと、もうひとつはなるべく火を使わない料理ということ。ダイニングが熱くなったら楽しくないでしょ、と。

日々一緒に台所に立ち、食卓を囲み、お互いの台所と食卓での振る舞いについてはそれなりに知っていても、それでもなお、相手を驚かせ、楽しませる食卓はつくれるものなんだなあと思う。しかもそれは、確実に世界にひとつの贈り物になる。

8月4日(金) 厨房裏口のお惣菜と韓国風大根の煮物

夙川駅からほど近いパン屋さんで、友人宅に持っていくパンを買ったあと、そこからまたすぐのフランス料理店がやっているというお惣菜屋さんに行ってみる。古い八百屋みたいな写真を見ていたから、その佇まいには驚かなかったけど、先客がいて、釣り銭箱にお金を入れてセルフでお家計していて驚いた。これが阪神間の文化なのかと驚く。ガラスケースの中に、がチリコンカンとか、タコとヒヨコ豆のサラダとか、ガルピュールとか、真空パックに詰められていて、お値段も決して高くない。ちゃんとしたレストランの厨房でつくられた料理がこの値段だとしたら、むしろ安いくらい。

自宅方面に帰ってきて、彼女が猫と暮らす家にお邪魔する。我が家のパーティや、恋人と一緒の食事の席では何度も会っているけれど、二人でゆっくり食事をするのは初めて。彼女はヤムウンセンとタイ風の唐揚げに、大好きだから一年中つくる、という言う大根の煮物を用意してくれた。こんな風に韓国風に煮るのが好きでというピリ辛の煮物は、大根の角の角まできっちりと味が入っていて、毎年のおせち交換で彼女がつくる、美しいお煮しめを思い出す。味付けは違っても、その人の料理の核みたいなものは変わらないんだなあと、とても素敵なことに気づいてしまったような気分になる。あと、前に渡した『北の女のが食べる西』のことを、面白いと言ってくれて、このエッセイもいいよと、くどうれいんの『わたしを空腹にしないほうがいい』を貸してくれる。彼女の家のそこかしこには本があって、本当にいい景色だった。

8月5日(土) イチジクごまだれとホタテの刺身の味描写

週末の夕食。イチジクのごまだれがけを久しぶりにつくる。酢が強めのごまだれが、日本酒の酸とよくあう。あ、今年もイチジク始まっています。
スーパーで値引きになっていた、千葉のカツオを塩締めして食べたあと、母から送られてきた野付半島の巨大なホタテを刺身で食べる。薄切りと縦切りでは、薄切りが断然うまい。細胞の切り口が多いから、旨味面積がえらいことになる。これはもはや食べられるディープキスだ。「うまみ、うまみ、うまみの先に、ふわっとなまぐさみがくると、それが日本酒をお迎えする準備が整ったというサインでさ」という、寅さんみたいな恋人の講釈に、むしろ土地の人ではない人の味の描写の面白さを感じる。

8月6日(日) ささげのスパゲッティ

夕食はひとりなので、これ幸いとササゲのスパゲッティをつくる。恋人が、どうしても食べたがらない料理のひとつがこれ。キュッキュッという歯応えと、(彼が言うところの)エグミが苦手なのだという(彼はエグミ周辺の味に敏感)。好き嫌いなのだし、別に強要する必要もないのだが、これに関しては、どうしても美味しさをわかって欲しい、共有したいと思ってしまう。万全のタイミングと万全の調理で、出会い直しの機会をつくりたいと狙ってるが、彼のコンディションがよくなかったり、待ちきれずにひとりで食べてしまったりで、未だ実現していない。

8月7日(月) ピーマンの唐辛子づかい

朝のサラダは胡瓜。唐辛子のイメージでピーマンを加えるのが好き。胡瓜のリボン、玉ねぎのスライスに、小さなピーマン1個を、薄く輪切りにして加える。唐辛子と袂を分かったピーマンが、遠い昔の記憶を思い出すように効いてくる。


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