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秋分|2023.9.23-2023.10.7

日々の食卓、食卓での会話、食材やレストラン、食に関する本や映画、イベントなど、食にまつわることだけ書く日記のような「食雑記」。節気毎に更新。

9月24日(日) 新開地商店街と『ちいきいと』

朝から新開地へ。午後に新開地アートひろばで行われる『ちいきいと』と観に行くことにしていたので、せっかくなので、少し早めに行って「神戸の台所」と言われる商店街に行ってみた。

なんとなく、長く続く1本の商店街をイメージしていたけれど、全然違って、いくつも商店街が、角度や高さを変えながらつながっていくような感じ。生鮮の市場は東山商店街。話には聞いていた「ひやしあめ」なる飲み物を初めて飲む。これは、炭酸なしのジンジャーエール。

奥のほうにあるマルシン市場に入ったら、買い食いできるスペースがあったので、お惣菜など買って、昼食にする。
面白かったのは「白蒸し」。お彼岸に仏様に供える、黒豆がのった白いおこわ。白蒸しという言葉に惑わされて、なかなかつながらなかったけれど、これは黒飯だ。赤飯に対しての黒飯。黒と言わないところに、関西の物言いを感じる。

食べてみて、びっくりおいしかったのは、天ぷら。ものすごくふわふわしていて、「揚げた蒲鉾」ではなく、「天ぷら」と呼ぶ理由がわかったような気がした。あれは、また食べてみたい。

『ちいきいと』は、各地域を代表する参加者が、与えられた奇想天外なお題に、自分のまちを撮った写真とトークで応える大喜利イベント。

例えば、今回の新開地編の最初のお題は「燃えよドラゴン」。新開地がかつては20軒もの劇場が立ち並ぶ、繁華街だったことから来ているのだが、参加者たちは、自分のまちの「燃えよドラゴン」について、写真を見せながら、滔滔と語っていくというわけだ。こんなへんな仕掛けでまちの話をすることの効用は、ただのおらがまち自慢では出てこないもの、光の当たらないものに、光があたるからとのこと。ちなみに私の中では、最盛期の川崎重工へ出勤する人々が商店街が買っていた朝ごはんが瓶に入った牛乳とパンだったという話とか、商店街でみた「さわるな!」という札だらけの果物屋さんの果物はお寺の御供え用に選ばれているという話とか、新開地のボートレース場にやってくるおじさんの女性の誘い文句は「うどん食べにいこう」という話とか、面白かった。あと「ええとこ、ええとこ」というテーマで登場した、珈琲館東山のフルーツパフェは、次に行ったら絶対食べたい。

9月27日(水) ルブランと発酵デパートメント、あるもので料理

午前中の便で東京へ。6年ぶりの友人と新宿でランチをする。新宿駅近でのランチには、いつも本当に困ってしまうのだけど(あんなにたくさんお店があっても、なかなか行きたいお店がない)、杉並区で生まれ育った友人の提案で「ルブラン」に決まる。ここは、新宿で働いていた20代前半に、同期のお酒を飲まない友人が、仕事疲れのご褒美によく使っていて、その子が「ルブラン」と言うときのうっとりした様子が記憶に残っていた。ただ、仕事終わりに、とりあえず乾杯したい私には縁がなかったお店だった。阿佐ヶ谷で生まれ育った友人にとっては、10代の頃から家族や友人たちと新宿でお茶をするならここ、というお店だったそうで、そんな存在があって、しかもまだ現役であることこと、羨ましく思った。そんな彼女もここでランチを食べるのは初めてということで、ふたりとも名物のシーフードドリアを頼む。久しぶりの再会だから、なんといってもメインは会話。でも、ドリアをひとくち食べたとき「あ、美味しい。ご飯からもしっかりシーフードの味がするね」と、思わず彼女が言う。老舗の看板メニューならではの、時間とたくさんの舌を超えてきた味。こんな料理は、確かに安心して会話を続けさせてくれる。30年越しで、初めて足を踏み入れたルブラン。これからも、新宿で久しぶりの友人とランチするときには、行きたくなりそう。

小田急線沿線での予定の前に、下北沢で降りて「発酵デパートメント」に行く。廃線跡を使ったと思われる小綺麗なストリートに、ここ本当にシモキタ?と驚く。お店は、さすがの品揃え。発酵という軸で、調味料からお酒まで、これだけの商品が並ぶと「発酵が私たちの食を豊かにする」ということを体感できる。新鮮な食材、シンプルな調理に、手間のかかった調味料を使う、という、二人暮らしでちょっと遠のいていたマイルールを思い出した。そして、自分のために「にごり酢」という、にごり酒みたいなお酢を買う。

夜は、妹の家で、発酵デパートメントで買った日本酒を飲むことになったので、冷蔵庫にある食材で日本酒に合いそうな料理をどんどんつくっていく。黒くなったオクラは、茹でると色の悪さが目立つから炒めて、好みと違ったという梅干しと香りがとんでしまった鰹節で和える、とか。母から送られてきた冷凍ホタテとお土産で関西から持ってきた酢橘でカルパッチョ、とか。食材が限定されていることで、逆に料理が浮かんでくる。久しぶりに、すごく自由に料理をした気がした。ちょっといい酢を買ったのも、こんな風に料理をしたのも、機内で読み始めた『自分のために料理を作る――自炊からはじまる「ケア」の話』が、結構効いているのだと思う。

9月28日(木) 神楽坂「龍朋」、合羽橋道具街、南ベトナム料理「フーンナム」

昼過ぎの空いている時間を目掛けて、龍朋に行く。あんかけ焼きそばかチャーハンで悩み、チャーハンにする。チャーシューが少し少なくなった気はするけど、味は変わらない。マスターが旅立ってから、もう何年になるだろう。誰がつくっても同じ味にできるように、スープがあるんだ、とマスターが言っていたことを思いだす。そして、マスターから引き継がれたスープが、今も変わらずチャーハンの味をつくっている。チャーハンの奥にマスターがいるのを感じる。こんな風に味を通して大事な人を思い出せることが本当に嬉しい。神楽坂に暮らして、龍朋に行きはじめてから、数えたらもう20年近く。多分、私の人生で一番、日々の食卓に近かった店はここだろう。閉店後のマスターとのおしゃべりも含めて。愛しいお店。

合羽橋の高村製缶(瓶缶の専門店)に行き、昔ここで揃えた、ナッツやドライフルーツを入れている瓶の蓋だけを買う。瓶が使えるのに、錆びた蓋のためだけに捨てるのがいやだと思っていたので、ようやく買えて、気分がすっきりする。30個以上買うと1個30円くらいになるけど、10個ずつだったので60円ほど。でも、瓶を買い直すよりはいい。

久しぶりの合羽橋をぶらぶら。外国人観光客向けか、前よりも増えた気がする包丁屋さんのひとつで、包丁の鞘を買う。派手さはないけど、そうそうこれ欲しかった、というものがあるのが、専門店街の面白いところ。あと、スパイス瓶の口を通る、1ccの小さじも買う。ひとり暮らしの頃は、5ccの計量スプーンが入ることを条件にスパイス瓶を揃えていたのだが、恋人と暮らしはじめる時に、恋人が揃えていたスパイス瓶のほうが数が多かったので、泣く泣く自分の瓶を取り下げたのだ。小さじを買ったことで、この3年間、ずっとスパイス瓶に計量スプーンが入らず、小さくストレスを感じていたことに気づいた。まあでも、解決。すっきり。

夜は、20年前に森美術館のエデュケーターとして出会った友人と六本木の南ベトナム料理「フーンナム」へ。メキシコやニューヨークに何度も一緒に行った旅友だし、異国料理のお店で再会したかったので嬉しい。肉魚野菜の出汁が混ざり合った「ブンマム」というフォー(のスープ)が異様に美味い。あのメキシコ旅で、一番美味しかったのなんだった?と聞くと、やっぱり帰国前に市場で調達して、機内に持ち込んだ、厚切りの卵焼きが挟まれているトルタ(サンドイッチ)ということで、意見が一致する。トルタ代以上の金は持っていくなと言われても(盗られるから)、食い意地だけで、でかけていった自分を誉めたい。でも、日々の食卓の記憶は結構違っていて、私は滞在先のお手伝いさんがつくってくれた、チーズ入り肉団子のトマトスープ、彼女は夜におなかが空いてつくって食べたメキシコの裂けるチーズでつくったオムレツだと。そして、釜山に行く話をしたら、すかさず、先日行って美味しかった店を教えてくれる。食い意地張ってる友人とのおしゃべりはいつも楽しい。
帰りに団体さんと重なって、料理出るのが遅かったから、と小さなお菓子をくれる。緑豆の粉をゆるく固めたお菓子。イランのノホチの緑豆版だ。豆の粉を固めるお菓子、同時多発的なのか、伝わって広がったのか、知りたい。

9月29日(金)崎陽軒のシウマイ弁当

羽田空港で、昼食に崎陽軒のシウマイ弁当を買う。昔食べたことはあるような気がするが、最近、SNSなどで、このシウマイ弁当について書いているのを見かけることが多いので、久しぶりに食べてみた。

紐を外して、経木の蓋をとる。湿気でちょっとうねっている感じが、高級弁当の木箱とは違う感じでいい。シウマイ、うん、悪くない。次に、ひとくちご飯を食べて驚く。なにこれ、すごく美味しい。空港で売っているお弁当の冷めたご飯がこんなに美味しいと感じるなんてびっくりだ。これは実はシウマイ弁当ではなく、ご飯弁当なのではないか? そこで、はっと経木の弁当箱の役割に気づく。これがきっとご飯の湿度を調整しているのだ。プラスチック弁当箱になって失ったのは、環境だけではない、冷やご飯の美味しさなのではないか。ちょっと調べてみたら、経木の箱はもう50年近く、北海道津別町の会社がつくっているらしい。道産子としては、なんだかとても誇らしい。

10月2日(月) 秋分の買い出し

東京から帰ってきたら、冷蔵庫に食材が何もなくて、ひとりでスマイル阪神に買い出し。はしりは栗。思わず買ってしまう。他は相変わらず端境期。今週は外出やイベントもあるし、来週からは釜山なので、控えめに。残していっても大丈夫な調整用の食材として、冬瓜を買っておく。便利。

10月3日(火) じっくり味わう朝食

今日、恋人が帰ってくるので、しばらくお預けのひとり朝食をじっくり味わう。無花果とクリームチーズのサラダ。口に入れると、玉葱の主張が強い。ちょっと多すぎた。あと、無花果が小さいので、玉葱スライスも同じくらいにしておくことで、馴染むはず。クリームチーズの量はちょうどよい。ホワイトバルサミコの酸味は自然になじんている。いれて正解。ひとりのときしかつくらない名もなき卵料理(スクランブルエッグみたいなもの)は、上にシュレッドチーズをかけようとして袋からチーズの塊が落下。あわてて卵がついてしまった部分を除いているうちに、フライパンについてしまったチーズが溶けていく。卵の火もとおりすぎてしまったけど、焼けたチーズのクリスピーな食感がプラスされて悪くない。わざと卵から一部外してかけてもいいかもしれない。トーストは、耳だけ水で濡らして焼いた。いろいろな意味で料理に水が与えている影響は大きい。焼けたあと、オーブンから出すタイミングが遅れると、やっぱり少し水分が抜ける気がする。まあ、予熱でさらに焼けているということか。今日は水で濡らしたわりには、耳が硬かった。耳が硬いトーストは、あまり好きじゃないということと、最近はっきりと自覚している。というか、硬くて口の中に刺さるものは、昔からあまり好きではない。トンカツの衣とか凶器だと思っていた。でも、この夏、うんざりするような猛暑の日に、恋人に何食べたいと聞かれて、トンカツと答えた自分に驚いた。あるもの(トンカツの場合は、肉と油)を強く欲するときには、感触の好き嫌いは超えてしまうってことだ。

10月4日(水) 大信州と遠山ジンギス

夕食は、恋人が長野から買ってきた「大信州 特選洗練純米 ひやおろし」と「遠山ジンギス」。大信州のほうは、激しく落ちる滝の水を飲んでいるみたいな酒。力強さと透明感が共存してる。天狗が激しい滝の脇の岩で胡座をかいて飲んでいる姿が目に浮かぶ。遠山ジンギスは、去年食べてとりこになった。ジンギスカンの文化は北海道だけではなく、長野にもあるのだ。ラム肉がニンニクと醤油が効いて、少し味噌も入った甘くないタレに漬かっている。私は、松尾ジンギスカンよりもこちらのほうが圧倒的に好き。準備をしているときには、遠山ジンギスに日本酒だと、日本酒負けちゃいそう、と言っていたけど、なんのその。天狗の酒は羊の肉なんかには負けないのだ。最高の組み合わせ。

10月7日(土) もりのみやブックフェスタとお好みの豚肉の話

午後からもりのみやブックフェスタのブックスポット大集合というのに参加する。もりのみやキューズモールにあるエアトラック(1周300mの空中ランニングコース)で、本を介したコミュニケーションをするというイベント。このイベントが面白いのは、自分の好きな本、紹介したい本を置いて手にとってもらうだけでもいいし、自分でつくった本や古本を売ってもいいし、本にからめてワークショップをしてもいいし、本とあわせて活動の紹介をしてもいい、といろいろな形に開かれていること。思いもよらない出会いがありそう!と自分の本『北の女が食べる西』『続・遠くの食卓 兵庫と栃木、一皿の往復書簡』と、食雑記の「白露」をプリントした8つ折りzineを持って参加した(参加費は無料)。
当日の参加者は80組ほど思ったより少なかったけど、素敵な出会いもいくつか。一番、興奮したのは、就労支援Bの「アトリエsuyo」さんというところで、丸織で食べ物を表現する作家さんをみつけたこと。あとは障害のある人が献立作成も買い出しもサービスも全部分担してやっているという「杉本町みんな食堂」や、芦生の森とそこにある「奥山ライブラリー」など。どれも、近いうちに訪ねてみようと思った。こういうのはどれも、絶対に検索では出会えない。出会ってから検索すれば、もちろん情報はある。でも、それと自分との関係は生身の出会いでしか決まらない。関西に来て、ようやく人に普通に出会えるようになって、しみじみ嬉しい。

芦生の森の食の話を聞いていたら、栃の実をいただいた

本はそれほど売れなかったけど、本の説明をする流れで、食の話ができるのが面白い。お好み焼きの話になったおじさんには、私の長年の疑問というか怒り「関西人にとって、お好み焼きの豚肉は記号でしかないのか?」をぶつける。お好みの豚肉は大体焼きすぎで、美味しいと思ったことはほとんどないが、それが普通に許されていることに、ずっと不思議さを感じている。おじさんも、確かに店で豚肉が美味しく焼けている店は少ないと言う。ただ、自分は、豚肉を焼いて脂を出してから一旦よけて、脂の上でお好みを焼き、裏返した後に豚肉を乗せ直していると。いや、お好み焼きの豚肉に敬意を払っている人に出会えてほんとよかった。いい日。




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