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処暑|2023.8.23-2023.9.7

日々の食卓、食卓での会話、食材やレストラン、食に関する本や映画、イベントなど、食にまつわることだけ書く日記のような「食雑記」。節気毎に更新。

8月26日(土) インドネシアのチョコレートと肥後橋の酒場

Calo books and cafe で写真展「after school 放課後」を開催中のインドネシアからの留学生、アブさんからチョコレートの話をいろいろ聞く。アブさんは日本で、インドネシアの様々なカカオの焙煎温度による味の違いについての研究をしていたらしい。チョコレートの味には、原料であるカカオ豆はもちろんだが、収穫後の発酵、その後の焙煎、最後の熟成の3つの要素が大きく影響するとのこと。なんだかワインみたい。チョコレートは大好きだけど、これまでほとんどインドネシアのチョコレートといえば「Dari K」が浮かぶけれど、それ意外はほとんど知らない。でも、きっとこれからどんどん美味しいチョコレートがでてくるに違いない。

その後、Calo店主の石川さんによく行くという肥後橋駅近くの居酒屋に連れていってもらう。私の本を扱ってもらうようになってから、初めてゆっくり話した。お店は本当に素晴らしくて、3年を経て、ようやく私にも大阪の酒場の扉が開かれた、という気分になる。店の佇まい、マスターの振る舞い、つまみと酒の品揃え。味、姿、値段。もう何も言う必要がない。最後の鯖寿司がこれまたチャーミングで。すぐにでも再訪したい。

8月28日(月) 山わさびの魔法

始発便で札幌へ行く。ここ数年、母の誕生日は札幌で祝っている。今年は、母のリクエストで、円山の和食店でランチを。メジマグロの漬けに散らされた山わさびに、ああ、北に帰ってきた、と胸がいっぱいになる。なんと言葉にしたらいいのか。北の土地が促す組み合わせで生まれる軽やかさ、みたいなものを、私は本当に愛している。

アブラコという名前も久しぶりに聞いた。魚の名前ひとつで嬉しくなるなんて可笑しい。ドクダミの天麩羅が乗っていて、北海道にも生えていたことを離れて初めて知った。こちらは奇跡の組み合わせというほどではないが、ドクダミを魚と合わせるというのもありか、と発見だった。

8月29日(火) 太刀魚のしゃぶしゃぶ

札幌から帰ってくると、共通の友人から釣った太刀魚とブリ、ツバスが届いたという。恋人がなんとか捌いてくれて、太刀魚をしゃぶしゃぶで頂く。こちらは北海道にはいない魚。西の魚は西の魚で美味しいのだ。でもやっぱり北の魚が恋しい。これはもう仕方がない。

8月31日(木) 冬瓜の雑炊とツバスと胡瓜の混ぜ寿司

恋人が昨晩から熱を出しているので、彼の朝食用に冬瓜と卵で雑炊をつくる。曖昧な認識のまま自宅内隔離を貫くのも大変なので、病院で検査してもらったら、やはりコロナ陽性だった。

昼食は、昨日塩締めしておいたツバスで混ぜ寿司をつくってみる。ツバスはブリの幼名。脂がほとんどなく、あっさりした味わいだからこそ、こういう使い方でもいける。

9月1日(金) 高熱でも食べられたもの

朝起きた時点で、あ、発症したなとわかる。とりあえず薬箱の葛根湯を飲んで熱を上げる。39.8度まで上がったタイミングで、ロキソニンを飲む。茶碗蒸し、卵豆腐、カトキチの冷凍うどん、桃、バナナとヨーグルト、こんにゃくゼリーなどが、高熱、咽頭痛でも喉を通ったもの。

9月2日(土) 土地の食材に個人の創造性をかけあわせる二人のシェフ

熱が高くてほとんど眠れず、これだけ一気に熱が上がるのは、コロナではなくてインフルでは? と病院で検査してもらうが、コロナ陽性、インフル陰性だった。とりあえず一度眠りたいと帰宅そうそうロキソニンを飲む。

ロキソニンがもたらす「健康シンデレラ」の時間を使って、netflix『シェフのテーブル』を観る。
元パンクロッカーのアレックス・アタラは、フランス料理がフランス人にしかつくれないというなら、ブラジル料理はブラジル人にしかつくれないはずだと、アマゾンの食材や食文化をベースに、それらを再解釈、再構築した料理を提供している。彼のレストランD.O.M.が世界から注目されるきっかけとなった世界料理学会で、アマゾンのテロワールというものを理解してもらうために、アマゾンから椰子の木を持っていき、ステージ上でそれを捌き、幹の中から若芽を取り出して、先住民たちがつくっている唐辛子の粉をかける料理をつくるというパフォーマンスを行なったという。痺れる。

D.O.M
http://domrestaurante.com.br/en/about.html

続けて、スロベニアの女性シェフ、アナ・ロスの回を観る。スロベニアも、ブラジルも、どちらも土地自体に美食というイメージがなかったところで、世界トップランクのレストランをつくったところに共通点がある。外交官になることを期待され、欧州委員会からのオファーがあったにもかかわらず、ソムリエである恋人と彼の実家であるレストランを継ぎ、独学でシェフになる。「退屈な料理だと思われるのが、自分にとって一番の批判」という彼女の言葉通り、彼女の料理の素材の組み合わせには独創性がある。でもその組み合わせというのが、なんとなく、土地がそれを促しているという感じがする組み合わせなのだ。彼女もアレックス・アタラと同じく、土地の食材を使うことに拘るのだけど、その土地のこの時期の食材という自然の制約の上に、個人の創造性を掛け合わせたときにこそ、極上の料理が生まれるような気がする。やっぱり料理は自然と文化の間に存在するものだと思うから。

9月4日(月) 甘味の旅

U-NEXT『風味巡礼2 ~中国から世界を味わう~』のエピソード「#1 甘美な記憶」を見る。恐らく人類最初の甘味は蜂蜜。ネパール高地に暮らす民族は、今も崖にぶら下がり、蜂蜜を採集する。取り立ての蜂の巣を口に放りこむときの欲望の表情にどきりとする。後で調べたら、シャクナゲの花の蜜とのことで幻覚作用のある蜂蜜らしい。山の民が採集する甘味が蜂蜜なら、海の民が採集する甘味は何か。一生を海の上で過ごすという、マレーシアの海洋民がウニを甘味として求めるというのにはっとした。考えたこともなかったけれど、確かに甘い。蓮の実というやわらかな甘味の話も出てきたけど、最後に紹介された甘味が、苦瓜の苦味がもたらす甘味、というのが面白かった。「甘味の戻り」と表現するらしい。



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