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食の本棚

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食にまつわる本や映画の紹介や感想。
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Netflix 「スープの国 ~韓国汁物紀行~」

エピソード1は済州島。おかゆのワークショップで、ここの郷土料理である「タコがゆ」をとりあげたことがあって、豊かな海産物を背景とした食文化に興味があったのだけど、もうどうしても行ってみたくなった。ムール貝を5回茹でた茹で汁を煮詰めた調味料、くり抜いた柚子の皮の中に生牡蠣を詰めて柚子果汁でマリネしたもの、生ワカメとカレイと塩だけのスープ。海の幸が豊富に日常にあるからか、祝いの食事は豚。丸ごと一頭の茹で豚で生まれるゆで汁もスープに。もずくを入れてカサまししたり、蕎麦粉をつかってトロ

食にまつわるアート&文芸誌|Tasty zine! 「PUT A EGG ON IT」 #9

「PUT A EGG ON IT」は、2008年にニューヨークで創刊されて、現在は16号まで年2回発行されているフードZINE。 今年の目標のひとつがZINEを2冊つくることなので、まずはいろいろ見てみよう、と、リサーチしてたどり着いたのが、この「PUT A EGG ON IT」。直接取り寄せようかと考えたけれど、国内で取扱いがないか調べたら、数年前に大阪のSTANDARD BOOK STOREで扱っていたのを見つけて、先日ようやくお店に行って購入してきた。ただし、残ってい

余韻の長い人々|皿の中に、イタリア

読んでいて、嫉妬が抑えられない本というのがある。私にとっては、この本がそのひとつだ。ひとつ目の嫉妬は、これはエッセイではなく小説だったかしらと、表紙の裏を確認してしまうほど、人間として魅力的な人々との出会いと交流に彩られた著者の人生について。ふたつ目の嫉妬は、やや素っ気ないほどに、無駄なく端的に綴ることによって、それらの人々をレリーフのようにくっきり浮かび上がらせる、著者の文体について。読むたびに、こんなものを書けるように生きていきたいものだと、じりじりしてしまう。 「皿の

共生の厳しさと可能性|ビッグ・リトル・ファーム

「ビッグ・リトル・ファーム」は、ロスアンゼルス郊外で、東京ドーム約17個分もの荒れ果てた農地を、生物多様性を実現した自然と共生する農場に再生していく夫婦のドキュメンタリー映画。シアターキノでの上映を見逃してしまい、残念に思っていたところ、オンライン上映会を見つけて、観ることができた。 少し前に、協生農法という「有用植物が育つ生態系を人為的につくり、食料を収穫しながら生物の多様性を豊かにしていく」という農法を知り、札幌の果樹庭にその農法を導入できないかと、この春に多品種の野菜

食材を生き物としてみる|木

食についての本を紹介しようと思って、木についての本を紹介するのは、少し奇妙に思われるかもしれない、と思いつつ、それでもやっぱり選んでしまったのは、幸田文のその名も「木」という本。 この本は、幸田露伴の次女である著者が、日本中の様々な木に会いに行き、その生き様について、生々しく綴っているエッセイ。例えば、一編目は、北海道のエゾマツの倒木更新のこと。自然林の中で、一本の木が生命を終えて倒れると、倒木の上に乗った種が、一筋開いた空から太陽の光を掴んで芽吹き、一直線上に新しい木々が

古くて新しい組み合わせに出会う|風味の事典

先日「食べる世界地図」という本について書いた。異国の料理を食べたときに確かに感じている、その国の料理らしさ、みたいなものは、何によって規定されているのか、その個別性を明らかにしてくれる本として。 一方、この「風味の事典」は、ある食材ににどんなものを組み合わせるか、ということについて書かれている本だ。99種類の食材を16種の風味に分類した上で、それぞれの食材に何を組み合わせるか、ということを、各国の伝統料理から星付きレストランの料理まで、幅広い事例から集めている。つまり共通性

その国の食を貫ぬくもの|食べる世界地図

昔から、異国の料理が好きだった。私が、食文化というものに自覚的に向き合ったのが、20歳の時に初めてひとりで旅したイタリアだったというのも大きいと思う。次に夢中になったのはスペイン料理だったか。青山のスペイン料理、新宿のタイ料理、池ノ上の台湾料理、原宿のメキシコ料理。その国の特徴的な食材やスパイスを使っているだけのなんちゃって料理ではなく、その国の食文化を忠実に再現しているような料理を出してくれるところを選んでは、くり返し通った。 行ったことのない国もあったのに、これは本場っ