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きょう心にしみた言葉・2023年6月12日

虐待やいじめを受けた自分は、その相手との分人だったのだと、一度、区別して考えるべきだ。自分を愛されない人間として本質規定してしまってはならない。そして、もし新しい分人が自分の中で大きく膨らみ、自信をもてるようになったなら、そこを足場にして、改めて過去の分人と向き合ってみればいい。
「人格はひとつしかない」「本当の自分はただ一つ」という考え方は、人に不毛な苦しみを強いるものである。

「私とは何か 『個人』から『分人』へ」(平野啓一郎・著 講談社現代新書)

「分人」は、作家の平野啓一郎さんが提唱している人格の概念です。「個人」とは英語の「individual」を翻訳した言葉です。「individual」は「in + dividual」、つまり、dividual(分ける)ことが「in」(できない)存在が「個人」だという考えが、日本では広く浸透していました。平野啓一郎さんは、そこに根本的な疑問を投げかけます。人間には、いろんな顔があるではないか。人間とは「dividual(分ける)」ことができる存在ではないのか。「たった一つの『本当の自分』など存在しない。裏返して言うならば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」ではないか」。こう提起するのです。
「人格はひとつしかない」「本当の自分はただ一つ」という考え方は、人に不毛な苦しみを強いるものである――。若者は、「自分がダメだ」と責め続け、追い込まれることが多いと言われます。平野啓一郎さんの「分人」は、そんな若者たちの重い荷物を降ろしてあげられる言葉とも言えます。いろんな自分がいていい。いろんな自分を生きればいい。躓いたら、やり直せばいい。「分人」の言葉の底には、大きな優しさが流れています。

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