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きょう心にしみた言葉・2023年2月20日
心病む者は、限りなく人恋しく、人の愛を求めている。棘(とげ)のない平穏で穏やかな会話を求めている。しかし現実に人と接すると、たとえ友達であっても、過度に気を遣い、緊張し、気楽な会話ができなくなる。そして、人づき合いの下手さを意識して、ますます苦しむことになる。
「犠牲(サクリファイス) わが息子・脳死の11日」は、数々のノンフィクションの大作で知られる作家、柳田邦男さんが、脳死状態になった25歳の息子、洋二郎さんと向き合った11日間の記録です。中学時代、友人の投げたチョークが眼球に当たって大けがをした洋二郎さんは、その事故以来、心を病みます。そして、自分の心と向き合いながら、日々の心の動きを文章にし、多くの文学作品を読み、自らも小説を書いていました。「犠牲(サクリファイス) わが息子・脳死の11日」は、死を目前にした洋二郎さんとの心の対話から、脳死とは何か、さらに、終末医療やグリーフワークへとテーマを広げ、いのちについて洞察と思索を重ねていきます。柳田さんは、ノンフィクションならではの的確で簡潔な筆致の一方で、洋二郎さんの心に寄りそう癒しの言葉を連ねています。人づきあいに苦しんだ洋二郎さん、そして、無数の人づきあいが苦手な人に向けて、ねぎらいと励ましの言葉です。洋二郎さんが入院していた病院で、医師からもらった闘病者の歌集も紹介しています。その中の一首。
「語りたきことなどありと思えども友と並べばただ黙すのみ」
「死」を描きながらも、悲しみに打ちひしがれながらも、生きづらい人たちに向けてあたたかなエールを贈る、珠玉のノンフィクションです。
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