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沈んでしまう「ライフジャケット」のニュースから考えたこと。

以前、「鉄球で沈んでしまう『ライフジャケット』」のことが報道され話題になったことがあります。覚えておられる方も多いのではないでしょうか?

普段はそんなに「ライフジャケット」は思いっきり話題にならないことが多いのですが、このセンセーショナルなニュースは、これまでにないくらいに話題になりました。


沈む「ライフジャケット」なんて!


と、普段連絡を取っていなかった方を含め、何人もの方から連絡をいただきました。


「ライフジャケット」は命を守るツールです。


なので、表示していることと実際の機能が違う・・・というのは命に関わるので、絶対にあってはならないこと・・・です。すでに、たくさん報道されていますが、そのとおりだと思います。この記事でも、その部分に関しては、全く同じ気持ちです。


ただ、今日は、この「ライフジャケット」が良くなかった・・・ということを話題にしたいのではありません。これまでいろいろ考えたり、学んだりしてきたことを踏まえて、このニュースから考えたことについてまとめておこうと思っているのです。

ぜひ、最後まで読んでいただいて、ご意見やご感想をいただければ・・・と思っています。どうぞよろしくお願いします。


さて、問題になった「ライフジャケット」は、2019年の東京都生活文化局で公開されている「子供用ライフジャケットの安全な使用に関する調査」で検証された「ライフジャケット」です。

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この調査、「ライフジャケット」についての現状や課題について、しっかりとまとめられている秀逸な資料です。あとでリンクを紹介しますので、お時間のある時にぜひご一読をオススメします。


話題になったのは、「表示されていた浮力の『5kg』の鉄球をつけたら20秒で沈んでしまった・・・」という内容で、沈んでいく「ライフジャケット」の動画も一緒に広がったセンセーショナルなニュース。


これを見た友人たちは、

「沈んでしまう『ライフジャケット』なんて、信じられない。」
「この『ライフジャケット』を着たら沈むから危ない!」
「着けたら沈んでしまう『ライフジャケット』ってどうよ。」

といろんな思いをぶつけてきてくれました。このニュースのこと、ホントにたくさんの方と話しました。このニュースを見た多くの方が同じように「沈んでしまう!危ない!」と思ったのではないでしょうか?


ボクのところに連絡をしてくださった方には、ボクの考え(今日の記事の内容)を説明をさせていただきました。

が、他にも、もしかしたらたくさんの方が誤解されているかも・・・と思っています。このニュースから考えたことを共有し、何か議論が進むといいなと思って、ちょっと「note」でも説明にチャレンジしてみようと思います。

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いきなりですが、結論から言うと・・・

この「ライフジャケット」、

子どもたちが着けても「沈む」わけではない・・・


と思います。実験をしていないので、はっきりは言えないですが、連絡をくらた友人たちから指摘されたように、子どもたちがこの「ライフジャケット」を着けると沈んでしまう…というわけではない…と想像しています。


えっ・・・?沈まないの?


って声が聞こえてきそうですが・・・。答えは「はい、おそらく沈みません。」です。以下の理由を読んでもらえると分かってもらえると思います。


まずは、

「人間の身体は浮くの?」ってこと。


このことについては、またお時間のある時に、前にまとめた下の記事を読んでいただければうれしいです。

人間の身体は、個人差はありますが、水に浮かんだ時には約2%程度が水面より上に出る・・・と言われています。簡単に言うと「限りなく水面に近いところで、身体のほとんどが水の中」という状態。

つまり、何もなければ、頭が水面より上に出ないので、呼吸の確保が難しくなることがあります。そのために、補助的な「浮力」を確保する「ライフジャケット」を着けることで、頭を水面より上に保持しておくことができるのです。


次に、

「『ライフジャケット』に必要な浮力」について。


では、頭を水面より上に保持するために必要な「浮力」はどれくらいでしょうか?

人間の頭の重さは「体重の約10分の1」と言われています。(当然、個人差があります・・・)つまり、自然環境(流れ、波など)の状況にもよりますが、「体重の約10分の1」の「浮力」が目安になるということです。

つまり・・・
10kgの子なら、1kg。
20kgの子なら、2kg。
50kgなら、5kg。
70kgなら、7kg。 となります。


何もつけていない状態で水面ギリギリまで浮いているとすれば、上に書いた「浮力」があれば、顔全体が水の上に出ます。当然、「浮力」が増えれば、それ以上に浮かぶし、減れば、水の上に出る部分が減る・・・という感じです。

ただ、子どもたちは体格が小さい子は特に、浮きにくい子もいます。なので、体格に合った「ライフジャケット」を選ぶことが大切になります。

話はそれてしまいますが、もしかしたら体重が軽い小さな子供にとっては、上に書いたように「浮力」が必要以上に大きい場合も考えられるので、見守る際には注意が必要です。

「浮力」が大きすぎるとどんなことが危ないのか・・・ということについては、この記事を読んでいただければ・・・と思います。


改めて・・・問題になった点はどんなことなのか?

問題になった「ライフジャケット」は、2019年の東京都生活文化局で公開されている「子供用ライフジャケットの安全な使用に関する調査」で検証された「ライフジャケット」です。

この調査については、いろんな表現がされていますが、よくよく読んでみると、表示されていた「浮力」と同じ「5kgの鉄球」を吊り下げたら、1分以内に沈んでしまった「ライフジャケット」があった・・・というものです。


この実験から分かるのは、「浮力」が表示されていた「5kg」以下だった・・・ということ。


このニュースが報道されてから、

「この『ライフジャケット』は、全く浮かないの・・・?」

という疑問がわいてきました。報告書だけではわからないですが、もし本当の「浮力」を確かめる実験してみたら、例えば4.5kgの鉄球だと浮いたかも・・・と。

表示は確かに正確ではなかったことは問題がありますが、今回、問題になった「ライフジャケット」についても、5kgの「浮力」はなかったとしても、ある程度「浮力」があれば、おそらく身体が沈まない子の方が多いのではないか・・・と想像しています。


繰り返しになりますが。今回の調査の「ライフジャケット」の問題は「表示されている浮力がなかった」ということであって、それはイコール「沈む」ということではないのです。


実験をした東京都生活文化局も、「子ども用ライフジャケットの安全な使用に関する調査」にも、しっかりと読むと、最後の考察で以下のように述べています。(ボクの判断で大切だと思ったところを太字にしました。)

 表示された浮力を満たさないライフジャケットであっても、全く効果がないわけではない。浮力が小さい浮力体であっても、水難者の救助に役に立つ。海上保安庁では、溺れた人を見たときは、まずは自分の安全を確保し、身の回りの浮くもの(浮き輪、ペットボトル、クーラーボックスなど)を溺れた人の近くに投げ入れたり、長いもの(棒、板切れ、ロープなど)を差し伸べるなど、道具を使うなどして助けるよう紹介している。容量2リットルのペットボトルの浮力は2kg程度であり、今回調査したいずれの検体の表示浮力よりも小さいが、それでも一定の効果はあると考えられる。

しかし、表示された浮力を満たさないことによる危険性は否定はできない。表示された浮力を満たさない場合、水面に浮上する部分が減少するほか、波浪等による影響をより受ける可能性がある。また、表示された浮力を満たしているライフジャケットを普段着用しているものが、満たしていないライフジャケットを着用した場合、水上で強い不安感を抱く恐れがある。

つまり、「ライフジャケット」は「浮力」が小さくても身体が浮くので効果はある・・・ということです。ただ、表示されている「浮力」がないと「思ってたんと違う!」ってことになって危ないですよ・・・ってことです。

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最後に、このニュースから考えたこと。


東京都の調査で使われた「ライフジャケット」について、もう少し読んでみると、「ライフジャケット」の性能の表示はいろんなものがあることが分かります。

まず、検体は「子供用の固定式ライフジャケット」10着で、「インターネットショッピングサイトで、『ライフジャケット』と検索し、表示された商品のうち、子供用のものを抽出した。」とのこと。

その中から、「国土交通省型式承認品、日本小型船舶検査機構性能鑑定品及びRAC川育ライフジャケット認定品、並びにサイト上に浮力が表示されていない商品は除外した。」と書いてあります。

つまり、行政や関係団体に認定されたものもあったけれど、実は「浮力表示のないもの」もあったということです。よく読むと、「股下ベルトがない商品」もあったようです。


今回の調査は、抽出した一部の「ライフジャケット」について、「表示されている『浮力』があるかどうか」などを調査したものであって、すべての「ライフジャケット」について同一の基準で調査したものではないということ。


今、日本で「ライフジャケット」の「浮力」について・・・、子どもたちの身体に合った「ライフジャケット」の見分け方・・・などは、すべてのものに統一された明確な基準や指針がありません。


沈んでしまった「ライフジャケット」がセンセーショナルに報道されましたが、こういった表示するべき情報の基準がはっきりしていなかったり、表示の規格がしっかりとしていなかったりすることも、議論する必要があるのではないか・・・と思っています。

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「ライフジャケット」に関わるメーカーさん・・・
「ライフジャケット」を販売するショップさん・・・
「ライフジャケット」を手にする親たち・・・

みんな子どもたちの命を守りたくない大人はいないと思っています。


これから、子ども用の「ライフジャケット」として、「浮力」や形はどんなものが良いのかをしっかりと議論し、販売する「ライフジャケット」については、最低限のルール・・・なんかを決めておくことが求められるように思います。ルールが決まっていれば、それを守れているかどうかを判断することができるからです。


「ライフジャケット」は命を守るツール。


どうか、「ライフジャケット」を使う子どもたちが安心して使える「ライフジャケット」、信頼できる「ライフジャケット」が広がっていくための仕組みがしっかりと構築されることを願います。


どうかいろんな場所で、水辺の安全のこと、「ライフジャケット」のことが議論されることを願います。そして、話題が広がって、みんなのアタリマエの選択肢の1つになりますように・・・。


思いはただ1つ・・・子どもたちの命を守ること。

「子どもたちにライジャケを!」
http://lifejacket-santa.com/

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