「世界は自ら変えられる」-AI時代のあるべき学びの姿とは 【孫泰蔵氏×水野雄介 学校関係者向けオンラインセミナーレポート】
2023年、ChatGPTや自動運転車などの躍進によってAI技術が民主化され、世界は大きく変化しています。これまでの常識や価値観が抜本的に見直される中、今の社会において、いかにして希望ある明るい未来を創造していけばよいのか。
ライフイズテックでは、『冒険の書 AI時代のアンラーニング』著者であり、連続起業家の孫泰蔵氏をお呼びし、AI時代に子供たちが何をしていくべきなのか、あたらしい学びの在り方を考える自治体・教育関係者向けオンラインセミナーを6月13日に開催しました。
今回のnoteでは、その様子をお届けします。
大きく変化する世界と求められる力
常識や価値が覆る? 来るべき大きな変化
孫さん:1900年初頭、自動車の量産化・普及によってわずか10年あまりの間に、街の風景ががらりと変わるという大きな時代の変化がありました。
私は世界中の起業家を応援していますが、今年ついにシリコンバレーの会社が開発した自動運転車の公道でのテスト走行が始まりました。この会社は人類が自動車で移動するのにお金を払う時代を終わらせるというビジョンを掲げています。まさに今、たった10年の間に常識や価値が根本から覆ってしまうような、100年、200年に1回という世界の大きな変化の波がやってきています。
特に今注目しているのは、若い起業家たちが立ち上げたスタートアップです。ここ2、3年で続々と出てきていて、従来のスタートアップとは毛色が大きく違う。私はこれをαスタートアップと呼んでいます。
例えば、プラスチックを安いコストで新しい価値のある素材(TPU)として再生する技術を生み出したNovoloop、人工知能を積んだドローンを開発するZipline、3Dプリンタを使って義足を従来の約10分の1の価格でつくるインスタリム。
さらに、二酸化炭素だけでためた電気を使うと酸素が出るという不思議なバッテリーの開発を進めるNoon Energyや海の水で育つ米を開発するAloraなど、すべて20代後半から30代半ばの人たちが創り出しているのです。
AI時代に求められる力
孫さん:19世紀には読み書きそろばん、20世紀になるといろいろな科目が増えましたが、知識を正確に記憶して的確に応用するのは今や人工知能が全部やってしまいます。ですから、これからは未来を自ら切り拓く力、日々イノベーションを生み出せるような力が必要になってきます。
このような力を養うのがこれからの教育の大事な役割になりますが、ではどうやったらこのような力を身につけられるのか。今の日本の教育とは真逆のことが求められるのではないかと思います。
僕はこのことを皆さんに、特に若い世代の方たちに問いを立てて欲しいと思って『冒険の書』を書きました。
未来を切り拓く力とは-AI時代の学びを考える
「失敗は学びの宝庫」手足を動かして考える
水野:僕は、泰蔵さんが失敗した話をたくさんしてくれるところや、同じ失敗を繰り返さないところ、そのあふれる人間味がすごく好きなのですが、失敗した話を教えていただけますか?
孫さん:失敗談を話し始めたら一晩中続けられるぐらいたくさんありますよ。私はITの世界でずっとやってきたのでスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなどにもお会いしましたが、実はそれほど緊張せずフランクにお話ができました。なぜかと言うと、自分と同じ年だった頃の彼らに、成功ではなく失敗した数と質でいったら絶対に負けないという自信があったからです。
水野:面白いですね。まさにイノベーションを起こすことと失敗することはイコールな感じがします。
孫さん:失敗しない人にイノベーションを起こせるわけがないですよね。普通は失敗すると恥ずかしく思いますが、僕はおいしい話のネタができたという感じです。
水野:最高ですね。このAI時代に失敗できるのはやはり行動量が多い人なのかなと思いました。
孫さん:よく思考力を高めると言いますが、考えるというのは手足を動かすことです。だから机の前でうーん、分からないなあと言っている時は思考停止ですよね。
水野:なるほど。やはり現場に行ってやってみないと答えは分からないですよね。
孫さん:この点は勘違いをしている方がけっこういると思います。
教育の平等とメリトクラシー
水野:著書の中にあるメリトクラシーについて、学校教育の中でこのメリトクラシーから脱却するにはどうしたらいいのかお聞きしたいです。
孫さん:メリトクラシーからの脱却は、僕個人の意見で言うと非常に困難です。なぜかと言うと、デモクラシー、民主主義、民主制が大事だからです。民主主義の下、教育を受けたい人は誰でも受けられるという教育の平等は、まさに学校が担っている社会の役割なのです。本当の意味で平等でなくていいのかということを議論しなければいけません。
水野:なるほど。今のお話は、どちらかと言うとメリトクラシーを抜ける方法ということなのでしょうか。
孫さん:メリトクラシーとは、要するに実力主義のことです。
水野:今だったら、例えば偏差値からの脱却ということになるのでしょうか。また機会の平等はメリトクラシーの中に入るのでしょうか。
孫さん:入りますね。どんなに頑張って実力があっても、身分によって高級な仕事に就けないとなると不平等になりますので。だから、機会の均等を求めると実力や実績で測るしかないのです。
水野:なるほど。機会の平等を抜けるとなると難しいですね。
孫さん:ただ、僕は抜けるべきだと著書の中ではっきり書いています。もう評価など要らない、そもそも評価をしなければいいというのが、僕の根本的な解決策です。
イノベーションを起こせる人材とは
水野:著書の中で、学校は他者ともリスペクトしあいながら自分の好きなものをどんどん探究していくUnlearnのコミュニティになっていくべきだというお話があったと思います。僕たちはやはりイノベーションを起こせる子どもを育てたいのですが、αスタートアップの人たちの特徴や、学校教育でやっていくべきことなど、何かあれば聞かせていただきたいです。
孫さん:αスタートアップの人たちは、必要なことを学べるのだったらどこにでも行き、自分で手を動かしてつくるということをやっているだけです。だから、「どうやったらそういう力が身につくのか」という考え方ではないですね。
水野:どうしてもそう考えてしまいますよね。
孫さん:はい。インプットが多ければ多いほど、どんどん常識に染まってしまいます。むしろ情報をあまり集めないようにした方がいいのです。教育で言うならば、教えれば教えるほど常識に染まってしまうので、イノベーションを起こせる人材にはなれません。
水野:すごく面白い発想ですね。普通は知識をたくさん持っている方が成功しそうですが、逆に持っていると起こせないということですね。
これからの教育で大切なこと
水野:最後に、先生や教育委員会の方々に向けてひと言頂けないでしょうか。
孫さん:これからの教育は、みんなが楽しくのびのびできればいいと思います。特に公教育は、これからの時代に生き残るための能力を身につけさせないと大変なことになるなんて考えず、なんとでもなるから好きなようにしなさいという感じがいいと思います。
そのためにはまず先生たちがのびのびすることなので、先生たちを解放してあげてください。知識の習得は他でもできるので、もし授業が追いつかなかったら自分でやってもらって、進度などにとらわれなくていいと思います。先生がやりたいことをやって、一緒にやるのが面白くない子は自分のやりたいことをやる、自習したい子は自習するというぐらいのびのびした環境をつくってあげれば絶対いい方向に回ります。もし放っておくと、社会全体がますますメリトクラシー、ヒステリックな方向にエスカレートしていくので、特に強調したいことです。
そして、先生方はまず自分がのびのびすること、自分がやりたいことをやるよう常に心がけていただきたいと思います。
水野:本日はありがとうございました。
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