
東京湾が「トイレ臭い」理由は、ゲリラ豪雨のたびに未処理の汚水が東京湾に流れ込むから。
先週、オリンピックの本会場になっているお台場の水質に関して、Twitter でつぶやいたところ、大反響がありました。
東京湾の水がトイレ臭いのは、東京都区部の下水の82%が下水と雨水を一緒の流す合流式下水道だから。ゲリラ豪雨で下水処理場の処理能力を上回る雨が降ると、下水が直接東京湾に流れ込む仕組みになっている。臭くなって当然。 #東京オリンピック #Tokyo2020 https://t.co/UVxzTVy19I
— Satoshi Nakajima (@snakajima) August 12, 2019
この問題は、以前からメディアも何度か取り上げていましたが、一つ一つの記事には断片的な情報しか書かれていないため、問題の全体像を把握するのは簡単ではありません。
この問題に関しては、私がメルマガ「週刊 Life is beautiful」で5月に解説をしたことがあるので、その記事を貼り付けておきます。
IOCが警告 「東京、次期五輪開催都市として信頼を失いかねない」
IOC が東京オリンピック組織委員会に対して、お台場の水質問題などを解決するように強いリクエストを出したという報道です。
東京オリンピック・パラリンピックにおいては、お台場海浜公園の周辺が、トライアスロンの会場になっていますが、大腸菌などが安全基準を上回る日があることが大きな問題になっています。
去年の7月から9月に水質検査を行ったところ、基準値を下回ったのは26日中6日しかなかったそうです(参照:【東京五輪】<お台場の水質汚染>基準値の21倍!抑制で追加対策)。特に大雨のあとは汚染がひどく、国際トライアスロン連合が定める基準値の21倍になった日もあるそうです。
日本は、高度成長期に都市部の下水を整備しましたが、汚水処理と雨水による浸水の問題を同時に、かつ安く解決するために、汚水と雨水とをひとつの下水道管で集めて下水処理場まで送る合流式という方法が幅広く採用されました(東京都では8割の下水が合流式です)。
この下水道の整備により、東京湾に流れ込む河川の水質は大幅に向上しましたが、当時採用した合流式という方法が、今になって大きな問題になっているのです。
日本では最近、ゲリラ豪雨と呼ばれるような局地的な大雨が降ることがありますが、そうなると下水管に流れ込む下水の量が普段の70倍にもなるため、下水道及び下水処理場の能力をはるかに上回ってしまうのです。
システムが処理できない下水は、そのまま河川や海に直接流し込む設計になっています(参照:合流式下水道の現状と課題)。
つまり、東京都では、ゲリラ豪雨があるたびに、大量の汚水が雨水と一緒に、処理されずに東京湾に流れ込む仕組みになっているのです。
これが台場海浜公園周辺の水質がしばしば安全基準を上回ってしまう理由なのです。
本来ならば、汚水だけを下水管で下水処理場に送り、雨水は別の管で河川や海に送る「分流式下水道」システムに切り替えるべきなのですが、住宅密集地に新たな下水管を設置する場所はないし、個々の建物の設計まで変更する必要があるため、コスト面でも時間面でも全く現実的ではないのです。
そこで東京都としては、会場の周りに水中スクリーン(ポリエステル製のカーテン)を設置して東京湾に流れ込んだ汚染水が入り込まないようにするという応急措置でなんとか乗り切ろうとしています。しかし、たとえ水中スクリーンを設置しようと、潮の満ち引きに応じて水中スクリーンの中の水位も変わることを考えれば、効果は限定的です。
東京都は、去年、テストのためにお台場海浜公園の一部に水中スクリーンを設置したところ、多少の効果はあったそうです。ちなみに、この時に設置した水中スクリーンの長さは180メートルで、設置コストは約一億円かかったそうです(トライアスロンで泳ぐ距離は4キロ)。
参考資料:
・五輪を迎える東京湾は死にかけている
・お台場 五輪 トライアスロン会場 大腸菌 基準値超え 対策は? 東京2020これでいいのかvol.5
・東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取り組み
つまり、この問題は今になって発覚した問題ではなく、以前から東京都は把握していたし、IOCからも改善を求められていた問題なのです。
今回の五輪テスト大会は、水中スクリーンの効果を測る意味もあったのですが、選手たちから「トイレ臭い」という不名誉なコメントをもらってしまい、大会関係者たちは困惑していることでしょう。
水中スクリーン設置後の水質検査の結果はまだ発表されていませんが、結果次第では IOC からさらなる改善を求められることになります。
さらなる改善と言われても、ゲリラ豪雨のたびに汚水が東京湾に流れ込む状況をオリンピックまでに変えることはどう考えても不可能なので(莫大なコストと時間がかかり、現実的ではありません)、結局は水中スクリーンのような中途半端な方法に頼るしかなく、(大腸菌の量を)IOCから要求されている基準値以下に抑えられるかどうかは「天気次第」という情けない状況になってしまっているのが現状です。
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