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袋小路にはまる現代音楽と、花開く映画音楽

先月、John Williams の指揮によるコンサートを観て以来、映画音楽に関して色々と思うことがあったのですが、今回、日本行きの飛行機の中で観た「Score:A Film Music Documentary」というドキュメンタリーを観て、その思いがはっきりとした形になったので書いてみたいと思います。

「クラシック音楽」の定義は様々なものがありますが、多くの人たちにとっては、ベートーベンやモーツアルトが作った古典的な音楽のことです。Wikipedia の定義によると、1730年代から1810年代までを「古典派音楽」(ベートーベン、モーツアルトなど)と呼びますが、その前後の「バロック音楽」(バッハなど)と「ロマン派音楽」(ワーグナー、チャイコフスキー、ブラームスなど)を含めた1550年から1900年に作られた音楽のことと思って間違いはありません。

その後、クラシック音楽は、不協和音を活用した「現代音楽」へと進化して行きますが、これが「消費者不在の進化の袋小路」に陥ってしまっているという点は、以前にも指摘した通りです。

作っている人たちは「今さら、古典派やロマン派風の音楽を作っても、価値がない」と主張し、一般の人たちの「現代音楽は理解できない。昔ながらのクラシックの方が好き」というフィードバックに耳を傾けないのです。

この「現代音楽のジレンマ」がどうして起こってしまったかは、(クラシック好きの妻を持つ)私にとっては長年の疑問だったのですが、ドキュメンタリー「Score」を観てその答えが分かりました。

答えは、「コミッションの不在」にあったのです。音楽業界のおける「コミッション」とは、作曲時に作曲家に支払われるお金のことで、膨大な手間のかかるクラシック音楽にとっては不可欠なものです。

クラシック音楽が全盛を迎えた18世紀から19世紀に、作曲家たちにコミッションを提供したのは王侯貴族たちでした。今、現代の私たちが楽しんでいるクラシック音楽は、ほとんど全てが宮廷音楽、分かりやすく言えば、「王侯貴族たちの贅沢」のために作られたものなのです

フランス革命が18世紀末に起こり、ヨーロッパで封建制が徐々に崩壊したのが19世紀でした。ロマン派音楽の代表のワーグナーは、バイエルン王国(今のドイツ)のルードヴィヒ2世がスポンサーでしたが、そのバイエルン王国も20世紀初めのドイツ革命により消滅してしまいました。

つまり、クラシックの発展が終わった時期と、ヨローロッパで君主制が崩壊した時期が一致しているのは、偶然ではなく、必然だったのです。クラシック音楽業界が、現代音楽という袋小路にはまってしまったのは、そこに「十分なコミッションを出す人」が不在だったからだったからに他ならないのです。

しかし、20世紀の後半になり、クラシックの作曲家たちは新しいスポンサーを見つけたのです。それが「映画」なのです。ハリウッド映画という産業が、スポンサーとなって作曲家たちにコミッションを支払い、それが John Williams や Hans Zimmer などの「映画音楽の巨匠」たちを生み出したのです

彼らが作った Star Wars や Indiana Jones は、100年後にもベートーベンやモーツアルトが作った音楽と並んで「クラシック音楽」の一つとして各地のシンフォニーで演奏されることになると思います。そして、20世紀後半から始まった映画をスポンサーとして作られた音楽を「ハリウッド派音楽」とでも呼んで、「古典派音楽」「ロマン派音楽」と並んで語る時代が来るのだと思います。

この記事は、メルマガ「週刊 Life is beautiful」からの引用です。毎週火曜日、米国のIT事情やベンチャー市場、米国と日本の違い、科学うんちくなどを書いています。

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