とある国での感染防止のための専門家会議の様子
総理秘書:(小声で)総理、カメラの準備が整いました。原稿はこちらです。難しい漢字には、フリガナは振ってあるので、安心してください。
総理:(カメラ目線で)新型コロナウイルス感染症をめぐっては、事態は時々刻々と変化しております。先日、国内で初めて感染者の方がお亡くなりになったほか、最近では感染経路がすぐには判明しない感染例が複数確認されています。
こうした状況を受けて、今回のウイルスの特性やこれまでに得られた知見も踏まえながら、第一線で活躍しておられる専門家の皆様に、医学的・科学的な観点から御議論いただきたいと思います。
具体的には、新型コロナウイルス感染症の特徴や疫学的観点からの現状評価、患者、特に高齢者、基礎疾患のある方等が確実に必要な診療につながるよう、国民の皆様に分かりやすい受診の目安の作成などについて御議論をお願いしたいと思います。
政府としましては、この専門家会議で出された医学的・科学的な見地からの御助言を踏まえ、先手先手で更なる対策を前例に捉われることなく進めてまいります。どうぞ、よろしくお願いします。
官僚A: 総理、ありがとうございます。今回は、〇〇病院感染症内科の〇〇先生をゲストとしてお招きしたので、先生からご意見をうかがいたいと思います。
総理秘書:(小声で)総理、お車の準備が出来ました。こちらからご退席ください。今日の会食は赤坂の料亭で「フグ料理」です。
感染症専門医:総理もおっしゃった通り、既にいくつかの県で、感染経路が特定できない感染者が発生しています。市中感染が始まったと言ってよろしいと思います。
官僚B:(小声で)今の発言だけど、議事録には「市中感染の可能性がある」と修正して記入しておいてくれ。
感染症専門医:つまり、これまで発見された感染者は氷山の一角であり、把握できていない感染者の数は、数万人と考えてよろしいと思います。このまま放置すると、爆発的に感染者の数が増え、武漢市と同じように医療崩壊が起こり、緊急治療が必要な患者が、必要な治療を受けられないという状況に陥ります。このグラフをご覧ください。
そんな状況を避ける唯一の方法は、学校および飲食店の閉鎖、イベントの中止などの指示を政府として出した上で、企業にはリモートワーク、時差出勤などを呼びかけることにより、感染拡大のカーブをなだらかにすることです。
副大臣:それは今後の感染状況に応じて、ということだよね。
感染症専門医:いえ、感染者が爆発的に増え始めてからは遅いのです。今の段階で、そんな通達を出すべきです。
官僚B:そんな通達を政府が出したら、人々がパニックを起こしてしまいます。それに経済への影響が大きすぎる。5ヶ月連続でGNPが下がっているところに、そんな通達を出したら、本格的な不景気に突入してしまう。
感染症専門医:こんな時に景気の心配ですか。人の命がかかっているんですよ!
副大臣:まあまあ。まだ感染者の数はクルーズ船を除けば数十人だから、慌てる必要はないだろう。
大臣:副大臣の言う通りだ。そんな通達を出したために、人々がパニックになって病院に駆け込んだら、それこそ医療崩壊を起こしかねない。
感染症専門医:パニックを起こす可能性があるからという理由で、必要な施策を行わないって、間違っていませんか?
副大臣:そう熱くならずに。こんな時は、専門家こそ冷静になる必要がある。
大臣:そうですね。ここは冷静に、かつ慎重に対処しましょう。
官僚A:では、感染者の増加数を注意深く見ながら、必要な施策を打っていくということでよろしいですね。
感染症専門医:まだ言い足りないことがあります。検査体制に関しても、もっと充実すべきです。民間の助けを借りれば、今の10倍以上の規模で検査が可能です。健康保険を適用できるようにし、病院が保健所を通さずに検査を依頼できるようにしていただきたい。
官僚B:その話は、先生が参加されなかった前回の専門家会議でも議題に登りました。健康保険を適用するとなると、検査の申し込みが殺到することが目に見えているので、慎重になるべきです。
副大臣:健康保険が効くとなったら、必要のない人まで検査を受けたがるでしょうからね。
大臣:その通りだ。それに、検査を増やすことになって、把握出来る感染者の数が増えたら、それこそパニックが起きるかも知れない。海外からの旅行者も激減するだろう。
感染症専門医:しかし、感染者数の把握は、感染防止の上でとても重要です。
大臣:確かにそんな面もあるかも知れないが、知らない方が幸せということもあるんだよ。
官僚A:では、この件も、今後慎重に経過を見ながら、必要な施策を迅速に打っていくということで。
大臣:「迅速に打つ」という表現は良いね。総理も、「先手、先手」とおしゃっていたし。
官僚A:プレスリリースのドラフトはこちらで作ります。「迅速」という言葉は必ず入れるようにします。では、専門家会議を終了したいと思います。皆さんお疲れ様でした。
【注意】これはあくまでフィクションです。実在の人物を想像させる部分があったとしてもそれは偶然の一致です。
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