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海外不動産 住宅購入における熾烈な戦い まぼろしの中古住宅

 

 またこの場所に来てしまった。

 出来るだけ避けていた場所である。

  深慮なくサイクリングに出掛けてしまう時、うっかりとこのアパートの前に来てしまうことがある。


 何故、このアパートを避けていたのか。

 

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 住宅購入の際、競りで負けたため、トラウマになっていたからである。

  

 二年以上経った今でも、一体どのような人が競りに勝ったのであろう、どのような内装に変えたのであろうか、と気になり、自ずと五階を見上げてしまうことがある。

   負けたという表現を使うと、戦いのように聞こえるが、実際に戦いなのである。しかも、かなり熾烈なものである。

  

  やり方次第で、手元に残る金額、払う金額が1000万円以上違ってくることもある。従って、


 売り手は、自分の住宅を如何に高額で売るか、と必死である。

 買い手は、どのような戦略で競りに打ち勝つか、と必死である。

 不動産業者は、如何にして売るか、手数料を多く貰うか、と必死である。

 そして私はその戦略で負けた。


  ここで言及している中古アパートとは1400年程のものから去年ぐらいまでのものである。

 

 さて、私がこのアパートの一般公開日に行った日のことであるが、その日は5、6件のアパートを見たのだが、最後から二番目に見たこのアパートに一目惚れしてしまった。

 

 外観は歴史的建造物と学校の中間ぐらいの奇妙な建物であった。外壁は多少古びていた。


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 そのアパートは、一番上の写真では、真ん中の棟の五階であったが、そのサンルームから臨めるバルト海と旧市街周辺の景観に非常に魅せられた。

  サンルームと言っても、ガラス張りの部分は一部分だけであり、一つの部屋としては十分に機能する。

 

 その部屋でこの景観を見ながら、家族や友人と一緒にお茶会が出来るならば、なんと寛げる午後が過ごせることであろうか、と理想を描いてしまった。

 

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このアパートの概要

3LDK、住居面積は86平方メートル + サンルーム6平方メートル

地下倉庫10平方メートル

共同パーティー用ホールあり

共同洗濯室あり

共同サウナあり

一時滞在用簡易ホテル(住人の知り合いであれば、一泊1500円ほどで一二泊滞在できるもの)

 

歩いて5分のところには大きな湖畔公園あり

目の前には大きなスーパーマーケットと酒屋あり

ビルの一階には郵便局を兼ねたキオスクあり

最寄り地下鉄まで三分

 

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 二回目の一般公開日に行って、自分の気持ちが変わっていないことを確認し、不動産屋に連絡先を渡し、売り主の言い値よりも200万円ほど低い金額をオファーした。

 

 競りにはネットと携帯メッセージにて参入することが出来る。ネットで確認したところ、競りに参入していたのは三人であった。

  

 二十人ぐらいが参入する競りもあるため、たったの三人であれば甘いものだ!と思うことは短絡的である。

 

 どうしてもその住居を手に入れたいという人で、金に糸目を付けなくても良い人が一人でもいれば勝負は決まる。

 その場合、勝負は最初から決まっているのであるが、蓋は開けてみるまで競合者の懐具合はわからない。

 

 果たして競りが始まった。

 

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 200万円より低い金額から開始したものの、競りになってしまったため、売り主の言い値には即座に達してしまった。三人目の競合者はその直後に降りた。

 

 その後、私ともう一人の競合者は50万円、100万円単位で競り合っていたが、その晩の20時に競合者の方が沈黙した。

 

「勝った!」

 

 私は、喜び勇んで、興奮が冷めきらずぬうちに、夜であったが、当該アパートまで自転車を飛ばし、その近所を物色した。

 

「湖畔の公園に近いからピクニックに行くにも便利、繁華街にも近いし、友人が遊びに来たらビル内のホテルにも泊まってもらえるし。明日にでも引っ越したい!」

  など、取らぬアパートの皮算用をしてしまい、その晩は興奮でなかなか寝付くことが出来なかった。

 

 あくる朝の八時、携帯メッセージが鳴った。友人からのものかと思い、何気なく見た。

 

 果たしてそれは、数字のみの携帯メッセージであった。

  私が前日の晩に打ち込んだ金額よりも100万円多い金額であった。

  勝ったと思った矢先の不意打ちであった。競合者は復活したのだ。

 

 100万円・・・

 

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 競りに参入する前には、金融機関から最高借入金額の証明を貰わなければならない。私に許可されていた最高金額までは、それほどマージンが残っていなかった。

 

 競り上げる金額を多くして競合者に余裕を見せることも一つの戦略なのであるが、私には戦略を変えるより選択肢が無かった。金額を50万円上げた。

 

 競合者もギリギリのところで勝負をしているのあれば、持久戦で、競合者の限度が来るまで50万円ほどの小刻みに競り上げるという戦略である。

 

 50万、100万と簡単には言うが、冷静に考えれば、この金額は普通のサラリーマンにとっても数か月分の給料である。一介のサラリーマンの私にとっても日常的に扱える金額ではない。

 しかし、中古住宅購入の際におけるこの競りは、正常な人間の通常の感覚をも狂わせてしまう。

 

 競合者は私が金額を打ち込んだ直後に50万円を競り上げた。間髪をいれずに競り上げ、余裕を見せるのも戦略であり、競合者はその方法を駆使していた。

 

 ギャンブルでもオークションでも、最初に、賭ける金額の上限を決めておかないと好ましくない結果になる。しかし、その上限を超えてしまう人も往々にいる。

 

 ついに、私が最初に決めていた金額の上限に達してしまった。

 そして、私もまた、その上限を100万円超える決心をしてしまった。

 

 競合者は相変わらず余裕で飛ばしてきた。

 

 私は上限を200万、超える苦渋の決心をした。

 

 このアパートを買わなかったら、今度、これほど相性の合うアパートが見つかるのはいつになるのかわからない。

 

 私は金融機関に最高借入金額の再申請をした。これはネットで出来る。

 幸か不幸か、返答はすぐに来た。認可、ということであった。

 

 

 結局、当初決めていた上限から350万を超えたところで私は退場した。

  相手が降りる様子が全く感じられなかったからだ。

 いや、もしかしたらあと50万競りあげていたら相手は諦めたかもしれない、などと後悔してしまうこともあるが、当初に自分で決めた上限が、競りを止めるべきで時点なのであったのだと思う。

   

 実は、最高借入金額まではまだ多少余裕があったが、ギリギリまでの買い物をすることは憚られた。

 

 何故なら、

 

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 アパートを購入する際には、売却するときの事情も考慮しなければならない。

 

 ボロいアパートを安く買ってリノベーションをして高く売るという時代もあったが、最近のトレンドは、その限りではない。モデルハウスのように完璧にリノベーションをしてあるものの方が、購入候補者にとっては第一印象が良い。

 

 当該アパートは1980年築のものであり、リノベーションをしてある様子はなかったため、キッチンとバスルームをリノベーションする必要があると判断した。

 そして、その費用は大雑把に見積もって1300万円ぐらいであると考えたので、その分の予算を持っておく必要があった。

 
  その晩、不動産業者からメッセージが来ないかものか、と願いながらずっと待っていた。競合者の気が変わり、結局、競りから降りた、というメッセージである。

 

 しかし、そのようなメッセージは永久に来ず、次の日、住宅検索サイト(Hemnet.se)には、Såld(売れました)と記してあった。

  心は既に、そのアパートに引っ越していたため、その現実は文字通り、痛かった。

 

 当初の言い値をかなり上回ったので売り手は小躍りをしていたはずである。

  そして、多額の手数料をいただける不動産屋もほくそ笑みをされていたはずである。

 

 競合者は、私の競り参入により、価格が不必要に上がったことに関しては、不満があったかもしれないが、自業自得である(というのは冗談で)、夢のアパートを勝ち抜いたことに関しては満悦しているはずである。

 

  これがストックホルムにおける中古住宅購入にまつわる一悲話である。

    

 
ご訪問ありがとうございました。

紹介させて頂いた写真は、実際に競ったところのマンションではありませんが、その界隈では象徴的な建物です。

海外不動産に関しては今後も記事を書かせていただくと思います。

noteさんでは今まで書いた記事を、徐々にに集めさせていただこうと思っております。

  


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