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災害大国ニッポンの防災教育は、どうなっている?<研究者・上田啓瑚さんと語る、今とこれから>

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
防災ベンチャーKOKUAです!

毎年発生する、地震や台風の被害。
いつ起こるかわからない災害に対して、どうやって身を守る?

今回は、今回は、子どもたちにとって重要な"防災教育"について、防災科学技術研究所の研究者かつ、一般社団法人BOSAI Edulab代表理事の上田(かみだ)さんに、インタビューをさせていただきました!

今の日本の防災教育の現状や課題、そして上田さんが提案する”あたらしい防災教育”について詳しく伺っています。

ぜひ最後までご覧ください!


※以下、インタビュー形式でお届けします。


防災との出会い

ーーー上田さんは、防災について研究をして、いまは事業も行われていますが、一番はじめに防災に関わるようになったきっかけを教えてください。

上田(かみだ):
小学校の頃よく祖父母の家に預けられていて、防災ボランティアの手伝いをするようになったことが最初のきっかけです。祖父が愛知県で防災リーダーをしていて、マジックや紙芝居を通して防災・防犯について伝える活動をしていました。

一緒に手伝いをしていくうちに、だんだんと楽しみながら防災を伝えるということが、自分の中で面白く感じてきて、さらに周りの方の反応をみて必要とされているものなんだ、と思うようになりました。

高校生のときには、大人に混じって三重県津市が運営している、津市民防災大学(※)に参加をしていて、そのときに初めて文学や医学だけでなく、防災を研究するという選択肢について知りました.。
受験で進路を探しているときに静岡大学地域創造学科の地域環境・防災コースを見つけて、そこから今の修士課程まで来たという感じですね。

※防災知識の豊富な人材を育成し、災害に強く、安全で安心なまちづくりを目的に、専門的な知見を有する講師や様々な関係団体の講師から防災について半年かけて学ぶ事業。

世代をつなぐ防災って?

ーーー現在、世代をつなぐ防災について取り組まれていると伺ったのですが、なぜそこに注力されているのでしょうか。

上田:
学生時代から防災に関する勉強会やイベントに参加していく中で、当時気になったことが、参加者の年齢層が高いことでした。

周りを見渡すとご高齢の方が多くて、おじいさんたちが一生懸命勉強してる中で、僕ひとりが部活帰りに汗だくになりながら来る……みたいな感じで参加していたんです(笑)。

日本の防災教育は、防災士も含めコンテンツとして増えてきており、学べるリソースもある。一方で、私が高校生の時に体験したように、防災の勉強会やイベントに来る人は、顔なじみのお年寄りが多く、問題意識を感じていました。

もちろん同じ方々が毎回来てくださるのは嬉しいのですが、もうちょっと若い層の人たちを含めた幅広い方にも関心を持ってもらいたいなという思いがありまして……。

そこで世代を繋ぐ防災教育や、コンテンツだけじゃなく裾野を広げるような取り組みをできないかと考え、研究を進めてます。

やはり災害時に即戦力になるのは若い人たちで、高齢者を助けられるのも、比較的若い人たちだと思っています。そんな若い人たちをどうやって巻き込んで、災害時に活動してもらえるか。

若い人たちが率先して行動することで、お年寄りの方も避難しようと考えたり「孫が言うなら一緒に逃げようか……」と、どんどん周りを巻き込んでいけるのではないか。家族の中で、子どもが防災について学んだことを話すことによって、親も関心を持つんじゃないかな、と。

そういう人たちが増えれば、何より復興にも繋がりますし、亡くなる方も減ると思っています。

義務教育の中に防災教育を取り入れることで、将来的にその人が年を重ねたときも、防災に対してある程度知識を持っている人が増える。結果として日本全体の防災知識や意識が底上げされるはずです。なので私たちは、通常時に、どのように防災に関心を持ってもらって、学んでもらう機会を作るのかを重要視しています。


日本の防災教育は、どうなっている?

ーーー日本の防災教育は、現状どうなっているのでしょうか。

上田:
日本の防災教育と一言でいっても、なかなか一概には言いにくいんです。神戸や東北のように、とても熱心に取り組まれているところもあれば、被災経験も少なく、防災に対して優先度が低くなってしまっている地域もあるのが現状かなと思います。

学校現場で避難訓練を実施する回数も法律で決められているように、システムはだいぶ全国的に確立はしています。防災教育も、道徳や総合的な学習だけでなく、実は体育や理科、社会の授業の中にも取り入れられる、と学習指導要領には記載されているんですよ!

しかしシステムは充実していても、それを取り入れる現場の先生が足りていないこと。そして、年間の授業スケジュールや多くの事務的タスクがある中で、どうやって授業に防災を取り入れるかという点が、現状の大きな課題かなと思っています。

やはり防災に関して熱心な学校や先生がいるところでは、先進的な取り組みが行われている一方で、さまざまな日常業務や問題に直面している学校は、なかなか防災に時間を割けられていないのではないかと感じていて……。

現代の学校教育は、様々な現代的な課題を取り扱うことが求められているため多くの取り扱うべき課題や教育コンテンツがあり、防災教育もその一つです。学校によって方針も異なるため、限られた時間の中で、「防災」だけを優先して取り入れることが難しく、そのため十分な防災教育を実施できていない学校も多くあるのではと考えています。

ーーー上田さんが感じられている課題とはなんでしょうか?

上田:
私は修士論文で「避難訓練の改善」をテーマに研究をしていました。

避難訓練は、全国の学校で実施することが取り決められていますが、毎年行われる行事としてルーティーンをこなすだけになっている学校が多いです。その背景には、先生たちの忙しさがあって、避難訓練の改善や、ちょっとした工夫を加えることができていない学校が多くあると思っています。

たとえば、緊急地震速報が流れて「机の下に隠れなさい」と言われ、学校の先生指示があって、子供は机の下に隠れ、その後廊下に整列して校庭に避難、最後に校長先生からのお話がある……というのが今もまだ多くて。

全員の避難完了まで〇〇分経ちました。前回よりも〇〇秒遅かったですね……と言われるけれど、
はたして早く避難して静かにすることが、災害時に本当に役に立つのか? 

先生たちもそれ以外に評価する方法を知らないし、先生方ご自身も学生時代にそういった経験をされてきたため、マンネリ化や形骸化した訓練や防災教育が多く存在しているのかなと感じています。

すこしの工夫で新たな避難訓練を

ーーー上田さんが考えられている、避難訓練のアイデアがあれば教えてください。

上田:
例えば、生徒の一人にケガ人役をやってもらいながら、避難訓練を実施する。避難する場所を校庭だけにせず、津波のある地域であれば、屋上へすぐ避難する。

そういった工夫や、実際や地域の実情に則した避難訓練に改善していくことが必要じゃないかというのを修論にまとめました。

実際に、ケガ人役を置いてみたりすると、生徒たちも自分の役割を認識するようになるんです。ただ急いで避難することを指示されて、「喋ったらダメ」とか「真面目にしなさい」と怒られると、やる気も起きにくいですよね。

喋らず静かにと言われても、もし避難中に友達が怪我をしてしまったら、先生に「この子が倒れてます」と伝えないといけなかったりもするわけで……。

先生も生徒に対して指示する/される関係から、、もう少し生徒自身がアクティブに自分が今何ができるのかを考えさせ、行動できるような余白を作ることが大切だと考えています。

ーーー従来の避難訓練よりも、より実践的で効果がありそうな訓練ですね。

もうひとつ課題としては、学校や先生によって防災への意欲も異なり、学校間で防災学習の機会に差がある点です。

教育課程に基づき組織的かつ計画的に教科を横断したりしてカリキュラムをデザインするカリキュラム・マネジメントによって、防災を通して目指す生徒像を育成する学校も一定数出てきていますが、防災教育の充実が図れていない学校も多くあります。

防災を通した学校経営や生きる力の育成や目指す生徒を育成できるといったように、どう現場の先生方に防災が学校現場で導入可能か、導入すると学校全体としてどういった良さがあるのかを示していくのも私たちの課題かと思います。

心の動きで、防災について考える

上田:
他には、既に学校でも道徳の授業に取り入れられているんですが、災害時に発生しうるジレンマや心理的葛藤を防災教育に取り入れることは、災害時をイメージして防災を自分事とする上で効果的だなと思っていて……。

どんなことをするかと言うと、災害時に発生しうるジレンマについて子供たちに考えてもらい、それぞれどう判断するかを「心情円盤」という、心の気持ちを円グラフで表現する道具を使ったりして共有し、議論します。

何か物事を決めるときに、白黒の2択ではなく円盤を使って心のバロメーターを表現することが、防災について考える中でとても相性の良いのではないかと感じています。

例えば「あなたは今、自宅でおばあちゃんと2人でいます。すごく激しい雨が降っています。避難しますか? しませんか?」というような問い。

最初の回答は、ほとんどの生徒が「避難しません」になるのですが、警報が出たり、だんだん災害状況が変わっていくと「避難する」に変わっていく人も多い。そういう心情を考える授業は、子どもや学生だけでなく、大人に対しても今後取り入れていきたいなと思っています。


防災はとてもいい教材になる!?

引用;https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm#section4

上田:
文科省が掲げている現行の学習指導要領には、「資質・能力」の3つの柱というものがありまして、人間力や、知識・技能、そして思考力や判断力、表現力を育むことが含まれています。

実は、その3つの要素は、防災教育を通じて育むことができるんです。

例えば、状況に応じて今避難すべきなのか、と自分事として考えたり、もしも自分たちが誰かに教える立場になったとしたら、どの知識をどのように伝えるのか、と思考力や判断力・表現力が培われると思っています。

そして、これまでの過去の災害や、災害時の対応方法を知識として得て、主体性を持って対応することは、災害時の避難ではとても活躍します。

学習指導要領において各教科で指導すべきことがすでに多くあるので、追加で防災教育も……となると先生たちにとっても負担に感じるかもしれませんが、既存のカリキュラムの中に含むことができるとなるとWin-winですよね。

そして防災教育をやればやるほど、この学びの3要素にも結びつくし、主体的な生徒を育成できるということは、学校現場の先生方に説明するときには、重要にしているところです。

防災は本当に答えがない分野なので、生徒たちもどういうことができるのか、と自分で考える思考力や判断力がすごく培われるのかなと思っています。


脅しではなく、楽しい防災教育を

ーーー紙芝居だったり道徳教材でオリジナルのものを作成されたっていうことなんですけど、実際に防災教育や教材を作る上でも何か工夫している点はありますか?

上田:
一番大事にしていることは「楽しく学んでもらうこと」です。
特に子どもたちには、なぜ地震が起こるのか? というメカニズムの難しい話を最初からしても、なかなか関心を持ってもらえなかったり、怖いものと思われてしまいます。

なので教材や授業では、まずは楽しみながら、防災について知ってもらったり考える機会やきっかけを作ることを意識していますね。

紙芝居の中でちょっとキャッチーな虫を登場させて、地震に遭ったらどういうポーズしてるか真似してみるとか……。幼稚園や低学年の子たちにもわかりやすくお伝えをしたり、ダンスを使って教えています。
おうちでも、防災絵本を読んでもらったり、家族で災害用伝言ダイヤル171に実際に電話をかけてみる。災害用伝言板で体験したり、地域の防災イベントに遊びに行ってみることなどが大切かなと思います。


自分が先生の立場になると・・・

ーーー従来は、メカニズムや理論などから入るイメージが強いですが、楽しさを重視されているんですね。

上田:
今までは、地震が来たらこんな被害があって……とか、建物が崩れて〇〇人が亡くなって……という "脅しの防災教育”が多くあったと言われています。

でもそれでは、防災の知識も十分頭に残らないし、防災に関心を持つ期間も短くなってしまう。長期的に防災に関わってもらうためには、やっぱり楽しく、「自分もこうやりたい!」「やってみたい!」 と思ってもらえるような取り組みになるよう心がけていますね。

あともう一つ、最近は”伝える防災”というのも力を入れていて……。

今僕が取り組んでいる、防災ユースアンバサダープログラムは、高校生が幼稚園児に防災について教える立場を体験してもらうものなんです。今まで受け身で教えられてきた知識を、いざ自分が教えるとなると、ある程度勉強しないといけない。

実際の様子を見ていると、生徒自ら考えて伝える方法を模索して、自然と防災にも触れる機会も増えますし、意欲も高まっているのを実感しています。インプットだけじゃなく、アウトプットまでプログラム中では、一気通貫でやるようにしています。

防災の伝え手を増やすということは、現状自分たちだけじゃ人手不足という問題もあるので、実践的に教えられる人を増やすという意味でもとても良い循環なんです。どんどん裾野を広げていくことで、防災の関係人口も増えていくのかなと、思っていますね。


防災教育を浸透させるうえで、一番の課題

ーーー上田さんが考えられる、一番の課題とはなんでしょうか。

上田:
本当にたくさんありますが、システムだけでは現場に十分浸透していないことが一番の課題ですね。

学校現場だと、先生たちの多忙さっていうのをすごく感じています。日々のクラスの学級運営や、会議もたくさんあって、明日の授業の準備もある……。

先生方は、誰しもが生徒の安全を願っているし、怪我をさせたくないと思っているはずで、防災教育の重要性はすごく理解されてると思うんです。

しかし今の多忙な環境では、なかなか課題研究や防災教育に対する時間は、十分に割けていない。専門の先生たちも一応いるんですが、非常勤の先生であまり十分なリソースをされていないっていうのもあり、なかなかは進んでいないように思います。

ここ最近は、教員養成課程でも防災教育が導入されるようになりましたが、現状としては、まだ十分にそのカリキュラムが確保されている大学は少なく、今後時間をかけて防災教育について学んでいくようなシステムが作られていくかなと思います。

そしてまず重要なことは、学校で防災教育について取り組める先生や人材を育成していくことですね。

僕たちも学校の教員研修のコンサルティングには力を入れていて、学校の先生たちにどうやって防災教育を進めてもらえるかと考えています。外部者が防災教育を実施しても、やはり単発的になってしまったり、目の前の生徒のことは担任の先生が一番詳しいし、教え方も個別最適化されたものです。

現場の先生たちにも、防災教育に特化した伝えられる術を身につけていただけるように、僕らもできることを精一杯やっていきたいと思っていますね。


人の心に潜む、災害を激甚化しているもの

ーーー防災教育を阻む一番の壁や人々の思想はなんだと思われますか?

上田:
私が感じてることは、「人は自然を管理できると思っているのでは?」ということです。

今まで堤防を作ったり、様々なハード対策をしてきて、それがあるからこそ、守られた命がたくさんあるのですが、それによって「ある程度安全な町を作れてきた」とおごっている部分があるのではないか、と。

自然を管理したり、制御することが可能かのような幻想や、調和することよりも自分たちが住んでる街を自然から守ろう! とコントロールしている現状があるのかなと思っています。

例えば建物や設備も、ある程度の被害想定があって、想定外のことには対応できない。

津波も、今まで想定してなかった高さが来たときに、ハザードマップの数値を超えるのは当たり前ですよね。でも、それに対して「こんな想定じゃなかったのに」と言っても、どうすることもできない。

そういった「人が自然を制御できる」という幻想が、災害を激甚化させるし頻発させてしまっている一つの要因なのかなと思います。

個人的には、人は大きな地球の中に住ませてもらっていると認識することも大切なのかなと考えています。

防災教育を通じて、自然の中では、災害や人への被害もある。でも、普段は綺麗な水を飲ませてもらったり、空気を吸わせてもらったりしている。そんな恵みもたくさんあるよね。と、情報を正しく理解してもらって、怖いだけではなく、いい面もあることも伝えるようにしていますね。

ーーー上田さん、ありがとうございました!

誰もが一度は、経験する避難訓練。過去の災害では、防災教育によって命が助かったという事例も少なくありません。

学校現場でできること、ご家庭でできること。
もしも災害に巻き込まれたときに、正しい方法で命を守る行動が取れるよう、ぜひ防災対策について、ご家族で話し合ってみていただけると嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!




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