検察庁法改正について①

 検察庁法の改正によって、検察官の役職定年の延長を内閣の判断でできるようにしようという法案が今まさに国会にかかっており、最新の情報だと、多くの国民の強い反対を受けて、今国会での成立が見送られる見込みのようです。

 なぜ、コロナ禍のこのタイミングで、この問題は、多くの芸能人や検察OBなどを含めて、市民の間で大きな議論を巻き起こしたのか、そして、この法案の問題は何だったのか。継続審議になったから、もう忘れてよい話なのか。

 ほっと一息ついてしまいそうなこのタイミングで、敢えて忘れないように、整理して書いておこうと思います。

 <長いので、お忙しい方は、まとめと補足だけ読んでいただいても良いかと思います>

 

・・・・はじまります。 

 検察官は、今の時点では、検察庁法という法律で、定年は63歳までと決まっていて、例外的に検事総長だけは65歳までできるということになっています。

 一般の検事と検事総長で定年年齢が違うのは、検察庁法ができた当初に、検事というのは体力勝負で、一定の若さが無いとできない仕事だが、一方、検事総長は、体力よりも高い経験や見識が必要なので、より年長者が付くことを想定したことによるようです。


 検察官も、国家公務員なのですが、敢えて国家公務員法ではなく、検察庁法に定年が規定されているのは、行政官であると同時に準司法官という性質を有する検察官について、普通の公務員よりも高い独立性が必要だからと言われています。

 定年が特別の法律で決まっているということは、その年齢までは原則として職を追われることがなく(懲戒等の例外を除く)、それまでは、政治権力等に忖度せずに、安心してすべての国民との関係で、その権限を公正に行使できるということを意味します。

 つまり、検察官のような、誰かを刑事的に起訴するという極めて強い権限を持っているものは、その権限行使を公正公平に行うことが最も重要なので、政治権力者をひいきしたり、逆に政治的な目的で不当な逮捕等が行われたりすることが無いように、定年を法律によって定めてしまっていたのです。

 重要な政治日程を前に、国民の目線をそらすために大物芸能人が逮捕されるみたいな話は、本当かどうか私にはわかりませんが、万が一にもそういうことが起きないように、政治と検察の距離が近くなりすぎない仕組みをちゃんと整えておくことは極めて重要なのです。


 これを、機械的に、65歳までに延ばすということなら、特に大きな問題にはならなかったと思うのですが、ここに内閣による裁量が入っているところが今回の問題です。

 今回の法案では、63歳の時点で、いったん全員ヒラの検事に戻るということにして、ただし、例外的に、内閣は、63歳になった次長検事と検事長を、職務の遂行上の特別の事情を勘案して、公務の運営上著しい支障が生じると認めるときは、その職のまま1年延長させることもできるという制度になります。延長されている間に検事総長に出世することもできます。この延長は、1年単位で、68歳までできるようです。

 このあたりの改正法の仕組みは、以下の記事が詳しいです。

 

 簡単に言うと、検事たちの定年延長の可否や役職定年の時期を、個別に内閣が判断して決めるようになるということです。

 

 機械的な定年年齢の変更ではなく、内閣に大きな裁量が残る形での定年延長制度を導入するという今回の法改正をめぐっては、様々な反対意見が出されています。


例えば、以下のような反対意見があります。

a 三権分立を侵すことになる

b 検察の独立を侵害することになる

c 検察が政治権力に忖度せざるを得なくなって社会の公正さが失われる

d 黒川検事長を検事総長に据えようとする違法な閣議決定を事後的に正当化するためのものだ

e 一方的に違法な黒川氏の定年延長をした内閣が、コロナ禍のどさくさに紛れてこんな法律を強行して通そうとしていること自体で、民主的統制とか言われても信用できない


一方、こうした反対意見に対しては、以下のような再反論がなされています。

A 検察官はそもそも行政官だから三権分立の問題にはならない

B 起訴権限をほぼ独占している検察機構の独立性を強すぎると逆に弊害が大きい。むしろ、もっと独立性を弱めるべきだ

C 議院内閣制の下で内閣は民主的基盤を持っているのだから、内閣による統制を強めることは民主的統制を強める意味で間違っていない

D 黒川検事長の問題は、既に閣議決定と国家公務員法の解釈変更によって決着がついていて、この法案とは関係ない

E 国家公務員法の改正は以前から検討されてきた法案であって、別にどさくさ紛れなわけではないし、実際にこの法律が施行されるのは2年後なので今の政府がそのまま続いているとも限らない 

 

 さて、アルファベット小文字のグループの意見と、大文字のグループの意見と、どちらにより説得力があるか、ということになります。

 まずは、どちらの側の意見もよく理解して、そのうえで、正解かどうかはともかく(そもそもこういう問題って価値判断によって何が正解かは異なる場合が多い)、自分の意見を決めて、さらに、それに固執しすぎずに、色々な人と議論をして、議論を深めていけるといいですよね。

 ちょうど、コロナ禍のせいでみんな自粛生活をせざるを得なくなって、それ自体はつらいことなのですが、もしもそれにより、こういう込み入った話題の議論が盛り上がるきっかけになったのであれば、それは一つの成果だなと期待しています。

 というわけで、続きます。


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