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<新型コロナ>飲食店が時短要請に応じなかったら公表してホントに良いのか?

1 要請に応じない飲食店名の公表問題の2つの切り口

 時短要請に応じない飲食店を公表してよいか?

 これは、このたびの政令の改正に伴って飲食店に対してやっていいのか、という話に留まらず、そもそも、飲食店に限らず、新型インフルエンザ特措法第45条に基づく要請に応じない店舗等に対して、サンクション(制裁)として店名等を公表することが、本当に法的に問題ないのか?、ということ自体が、本質的に問題だと思います。

 この問題は、二つの切り口から検討する必要があります。一つは新型インフル特措法第45条第4項に基づいてできるのかという点、もう一つは、法律に基づかない行政指導としてできるのかという点です。

2 新型インフル特措法第45条に基づいて制裁的に店名の公表ができるか?

 まず、新型インフルエンザ特措法第45条第4項に基づいてできるのか、ということを考えます。メディアの報道等を見ると、当然にできそうに書いていますが、そんな簡単な問題ではありません。

 なぜなら、この法律に規定されている「公表」というのは、規定上、明らかに制裁的なものではなくて、国民に対して、要請や指示が行われたこと自体の情報提供を目的としているからです。

 単に、政令で対象に飲食店を加えればよいという話ではなくて、要請に従わない事業者への制裁的公表という方法は現行法で取りうるか、また法改正をするとして本当に本法に導入するべきかという点を、新型インフル特措法改正の議論も含め、しっかり議論しなければならないのです。

 そこで、新型インフル特措法の第45条の第2項から第4項をもう一度見てみましょう。全部読むのがつらい人は、第4項だけでいいから見てみてください。

(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条 
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。

4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

 第2項はまず、大規模クラスターの発生源となるような施設に着目して、その使用の制限や停止等を「要請」できるという規定です。

 第3項は、要請に応じない施設管理者等に対して、特に必要な場合に限って、要請された措置を講じるように「指示」までできるという規定です。 

3 法第45条第4項をよく読むと、制裁的公表の条項ではない

 そして、いよいよ第4項、この条項が今回問題になっている公表の根拠規定とされるものです。よく読んでいきましょう。

 第4項には、要請又は指示をしたときには、遅滞なく、その旨を公表しなければならない、とありますね。

 まず、「要請又は指示に従わなかったときは」ではないです。
 次に、公表対象は、「要請又は指示をした事実」であって、「従わなかった事業者名」ではないです。
 更に、要請の時点で、遅滞なく、「公表しなければならない」とあって、「公表できる」という規定ではないのです。
 これって、どういう規定なのでしょうか。

 普通の日本語読解力で自然に解釈すれば、この規定は

「多数の人が訪れ感染原となる恐れがある施設に対して、使用制限等の要請や指示が出された場合、そういう要請や指示が出されたということを国民が知らないと、間違って出かけてしまって困る。だから、この「要請や指示を出した」という事実を、すぐに公表しないとダメよ、という規定です。

 行政の国民に対する情報提供義務の規定なのです。」

 決して「要請に従わなかった特定の事業者の店名等を、制裁目的で公表することが”できる”という規定ではありません」
 そもそも、できる規定じゃないのだから、もしも本当に店名を公表することがこの規定の範疇なら、要請を実施した時点で、それに従っていても従っていなくても、要請対象の全部の店の公表を、「しなければならない」ことになります。
 そんなの不可能だし、法が予定しているはずがありません。

4 結論1~現行のインフルエンザ特措法第45条第4項を根拠とした店名の公表はできない

 以上より、現行法の新型インフルエンザ特措法では、そもそも制裁的な公表は予定されておらず、政令の第11条に飲食店を加えて法第45条の要請の対象に加えれば、それによって制裁的公表ができるとか、今の時点で、政令に列挙されている業種には制裁的公表が法的に認められているとか、そういうことではないのです。

 まず、ここはちゃんと整理しておく必要があります。今後、特措法の改正案が出てきて、この部分は変更されようとしていますが、逆に言えば、現行法ではできないということです。


5 それでは、単なる行政指導として店名公表することはできるか?

 それでは、法律に基づかない、事実上の指導(これを「非法定行政指導」と言います)として許されるか、というのが次の問題になります。

 行政指導については、行政手続法第32条に規定があります。

(行政指導の一般原則)
第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。 

 この条文では、きわめて明確に、第2項に、行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない、と規定されています。

 そのため、一般的に、行政指導に従わない者についての公表が許されるかは、しばしば問題となります。法律の根拠があったって強い制裁となるものは駄目なのではないかという議論は、かなり有力になされます。

⇒ここは非常に重要な論点です。今後、特措法は改正されて公表が明記される可能性がありますが、明記すれば直ちにやってよいということにはならないのです。


 さらに、今回は、法的根拠がないので、不利益な取り扱いに当たらないかという点は、厳格に考える必要があります。

 その点、総務省が出している逐条解説(つまり国よりの解釈)でも、以下のように書いてあります。

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【参考】逐条解説行政手続法(総務省行政管理局編)
相手方の自主的な措置を促すため事実上(法律の根拠がなく)行われる公表については、国民に対する情報提供機能を有する一方で、公表されることにより経済的な損失を与えるなどかなりの不利益を被ることもあってその相手方に対する社会的制裁として機能する面があり、行政指導に従わなかったことを理由とした公表については、何を公表するかにもよるが、本条の「不利益な取り扱い」に当たる場合もあると考える。
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6 行政指導として今回のような制裁的店名公表を行えば行政手続法違反

 さて、今回は、飲食店に時短要請を出していること自体は、広く国民に知れ渡っているので、要請に従わない事業者を公表しないと国民が自衛できない状況にはありません。
 さらに、要請に従わない事業者として公表されるというのは、明らかに社会的な制裁に該当しますし、そもそも、社会的制裁を予告することで要請等に従わせることを目的として公表を行うと言っている、と合理的には解されます。
 となると、少なくとも、法律の根拠もない行政指導に従わない場合に、強い制裁としての機能が生じることが明らかな公表措置を予定することは、行政手続法第32条第2項に違反するものと考えられます。

7 結論2~つまり、今回やろうとしている店名公表は、違法の可能性が極めて高い

 つまり、結論として、今回、時短要請をした飲食店について、それに従わないと公表するという方法をとることは、現行の新型インフル特措法第45条第4項に基づくものとしては認められず、法に基づかない行政指導として行うと、行政手続法第32条第2項違反になると考えられます。

 つまり、違憲の議論を論じる以前に、違法の疑いが極めて高い措置なのです。


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