検察庁法の改正について<補足>

 前回のエントリーまでで、なんとか「まとめ」まで書ききったのですが、最後にちょっとだけ補足です。

 もう少しだけお付き合いくださいませ。


「補足」~今国会の成立見送りでいいの?~

 検察庁法の改正については、2020年の5月18日現在で、今国会での成立を断念した見込み、という報道がなされるに至っています。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200518-00000055-jij-pol

 さすがに、ここまで露骨な政治権力による横暴には、国民の反発も強かったかと思うと、それはうれしい限りなのですが、単に、この国会で採決せず継続審議にすることが本当に正しいのかという点はきちんと考える必要があります。


 まず、継続審議にしたということは、法案の修正に応じたということとは全く違います。

 野党は、最初から、検察官を含む公務員の定年年齢の機械的な引き上げについては、全く反対していないわけです。ですから、検察官の裁量的な定年延長を内閣の権限として認めることについて国民の理解が得られていないということなら、機械的な定年年齢の引き上げの範囲で法律を制定させるべきです。つまり法案を修正して普通に採決すべきです。あっさりと通ります。

 なぜなら、政府は国会の答弁で、公務員の定年延長は、突然ふってわいた話では決してなく、前々から十分な議論を重ねてきた法案で、コロナ禍の現状においても尚、成立を急がなければなれらないと説明してきたのです。

 コロナ対策で多くの法案や補正予算の審議をしなければならないこの時期に、莫大な政治的エネルギーを割いてでも、強行採決も辞さない姿勢で、通さなければならないと主張してきたのです。別に、検察に対する政治権力の支配力を強めることが目的ではないし、黒川氏の件とも関係ないと、一貫して主張してきたのです。

 そうであれば、この緊急性が極めて高い(らしい)法案を、なぜいきなり丸ごと継続審議にしてしまうのか。

 常識的に考えて、検察官の裁量的定年延長を実現することの方が緊急性が高い目的で、公務員の定年延長自体はそこまで緊急でもなかったから、と考えられるのではないでしょうか。

 むしろ、公務員の定年延長制度全体の必要性を隠れ蓑にして、ほとぼりが冷めたら再び検察への人事的支配拡大を目指そうという意思表示と見受けられないでしょうか。

 政府は、定年延長の裁量的判断権限というカードが、官僚を支配する手段として極めて強力であることを、検察官以外の公務員への適用で既に学習し、それを踏まえて、この方法を検察官にも拡大することで、政治権力による検察支配の強化を狙っているのではないか、との疑いが、余計に強まったように思います。


 そのように考えると、次の国会まで時間ができたことですし、もしやこれは検察官の問題にとどまらないのではないか、ということも議論し始めるべきでしょう。

 政治権力の側が、公務員の役職定年の延長の可否や期間を個別裁量的に判断できるという仕組み自体が、検察官に限らず、より一般的に、弊害が多いのではないかという問題です。

 もちろん、行政官僚が強すぎることも問題ですが、行政官僚が政治権力にだけ忖度し法の適用の仕方を変えるような不公平・不公正な状況になる方が、より大きな問題です。

 これは、これまで論じてきた、検察官に対する政治権力の人事的支配拡大による帰結と、実は同じなのではないか。行政全体の公平性や公正さを維持し、あるいは回復するために必要な制度的統制手段は、政府による定年延長の裁量的判断などという強烈な人事的支配ではないのではないか。

 

 今回、検察庁法の改正案の今国会での成立を踏みとどまらせたということは、一つの成果だといえると思います。しかし、同じ内容の法案が、次の国会で成立するとしたら、そこには、少しばかり社会が悪くなる時期が後ろに伸びたという意味しかありません。

 せっかくここまで多くの市民が時間を割いて議論を展開してきたのですから、今回の国家公務員法と検察庁法の改正案は、内閣による裁量的な定年延長判断を認めない法案修正をきちんと行ったうえで、成立させるべきです。

 さらに、もう一歩進めて、行政権力の適切な民主的統制の在り方や、行政官僚の政治権力からの適切な統制と独立性確保のバランスについて、私たちが議論を深めていくことができたら、これは、マイナスをゼロにではなく、もっとプラスの方向に、社会を進めていける気がします。


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