検察庁法の改正について②

 前のエントリーで、検察庁法改正反対の立場と、それに対する再反論の両方について、検察庁法改正反対のa~eの主張と再反論のA~Eの主張として紹介しました。論点としてまとめると以下のようになります。

aA 三権分立を侵すのではないかという問題

bB 検察の独立性が失われるのではないかという問題

cC 検察への民主的統制と政治権力との距離の問題

dD 黒川検事長の定年延長問題の事後正当化だという問題

eE 安倍内閣による定年延長制度の運用が信用できないという問題


 以下に、この5つの論点について、私の意見を書いておこうと思います。

 当たり前のことですが、この意見にはさらに反論もあると思います。絶対的に正しい意見なんて、そもそもありえないですから。

 ただし、自分なりの意見を表明してみないと、議論は深まらないので、まずは、表明してみることが重要だと思います。


aA 三権分立を侵すのではないかという問題

 検察官は現行の法制度上、たしかに行政官で、行政組織の中で任命されていますから、これは一義的には行政の内部の話であり、検察官の役職定年の延長を内閣が裁量的に判断したからと言って、それによって直ちに三権分立が侵害されるという話にはなりません。

 ただし、検察官は、誰を刑事的に起訴するかという点について、非常に強い権限を持っている独任官庁で、かつ、検察官の起訴は刑事裁判が始まる端緒になりますから、司法プロセスの中で非常に重要な役割を担っています。これが、検察官は準司法官たる性質を有するといわれる意味です。

 そのため、検察官が公平公正に刑事事件の捜査の指揮や起訴を行ってくれないと、司法手続き自体が歪んでしまうという問題が生じます。このように考えると、検察官の定年延長に内閣が支配を強めることで、間接的に司法プロセスが歪められる恐れはあるといえるでしょう。


bB 検察の独立性が失われるのではないかという問題

 検察官は普通の市民でも総理大臣でも犯罪を犯せば等しく起訴しなければなりません。ですから、その立場が政治から独立していなければ公正に職務を全うできません。

 そのため、検察の独立性は重要です。

 実際に、検察官は、法定された定年までは、懲戒などの特段の事情がなければ職を追われることはありませんし、検察官の免職を決める検察官適格審査会も、その委員は法務大臣が任命するものの、その委員の構成(国会議員や最高裁判事、日弁連会長など行政の外からのメンバーとなる)は法律で決まっています。

 事件処理の場面においても、法務大臣であっても個々の検察官の個別の事件処理を直接指揮監督することはできず、検事総長を介した指揮監督のみができるという仕組みにしてあります。
 
 このように、検察官の独立性確保は、既に現行制度上も重要なものとして織り込まれています。

 一方、検察は極めて強い権限を持っているだけに、検察官の独立性が強すぎると、暴走してしまうのではないかというおそれがあります。

 とにかく検察官の独立が最も大事だという議論は、それはそれで極端で、検察官の人事は検察内部で決めるべきで内閣は一切口を出すべきではないという話ではないのです。

 そして、実際に、検察官の任命権は内閣(法務大臣)が持っています。したがって、既に制度上、内閣による人事的な統制は図られているといえます。

 逆に言えば、今回の法改正は、既に任命権を持っている内閣に、さらに裁量的な定年延長の判断権限まで与えなければならないのか、という話です。検察が内閣との間で完全に独立しているべきとはそもそも現行制度は考えていないし、現実に任命権を内閣が握っているので内閣による行政内統制は制度上かなり効いているのです。

 あえて、内閣による裁量的な定年延長という制度まで導入しなければならない必要性、その立法事実はどこにあるのか。残念ながら、国会で政府から明確な説明はなされませんでした。


 次の投稿ではcCについて、つづきます。

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