検察庁法の改正について③

 以下前のエントリーからの続きです。

 今回のテーマは、検察機構を民主主義社会として適切に統制するための手法と、今回の内閣による裁量的な定年延長制度が、その観点から見たときに適切ではなく、むしろ害悪しかないという話です。


cC 検察への民主的統制と政治権力との距離の問題

 起訴権をほぼ独占し極めて強い権限を有する検察機構を、民主主義社会として適切に統制していくことは、非常に重要なことです。検察機構が暴走してしまうことは極めて恐ろしいことだからです。

 そして、何より恐ろしいことは、検察が、政治権力と癒着して、政治権力の違法を適切に立憲してくれなくなったり、逆に政治権力にとって都合の悪い人物を逮捕してしまったりすることです。こういった悪夢のようなことが起きないように、検察機構を「適切に」統制することは、極めて重要です。

 したがって、「検察機構に対する民主主義社会による適切な統制は重要だ」という前提は外してはダメだと思います。検察の独立性ばかりを重視するのではバランスを欠くというのは確かです。

 ただし、今回政府が提案したような、内閣に検察官の定年延長の可否や役職定年のタイミングを決める裁量権を持たせて人事的に統制するという方法は、その方法として適切ではなく、むしろ害悪にしかならないと考えます。

 
 本来行われるべき検察官への統制とは、検察が、どのような案件でも不偏不党に、公正に法を適用し刑事処分の内容を検討し起訴するということを実現するためにあるべきです。そして。現行制度上も以下のような統制の仕組みが存在しています。

 -------------------------------------
1 刑事手続きにおける検察官の裁量が大きくなりすぎないように、刑事訴訟法その他の刑事訴訟手続きのルールを明確に設定してそれに厳格に従わせるという「法律による統制」
 
2 検察官の個人的な価値観による処分内容のブレを小さくし公正を担保するための「組織的な統制」(正しい意味で検察一体の原則等が適用された場合に実現される)
 
3 検察官の行った処分であっても刑事訴訟法等の根拠法令を厳格に適用した場合に不当である場合に裁判所がその処分を是正させる「司法手続きによる統制」 

4 検察官の処分について市民が適切に監視し、検察審査会による是正機会をもたせることによる「社会的な統制」
 
5 内閣による任命権行使等による「行政権内の統制」(ただし、政治権力との間で癒着が起きないように十分に配慮した形で行われる必要がある)
-------------------------------------
  
 現在、検察には、1の「法律による統制」や、3の「司法手続きによる統制」が実質的には十分にできていないのではないかという問題があります。
 例えば、刑事訴訟法や規則等をもっと細かく明確に書こうという話が1の話で、裁判所が人質司法につながるような勾留請求を却下すべきだというのが3の話です。
 
 これは大きな問題なので、ちゃんと議論しなければなりません。
 確かに、検察の力を適切に統制できているかという問題は存在しており、これは十分な議論が必要な大テーマです。



 しかし、政府が、だから「民主的統制が必要で、そのために役職定年の可否を内閣が決められるようにすべきだ」というのは、問題解決の方法として、残念ながら、全くズレているのです。
  
 1や3に問題があるからと言って、5の行政権内の人事的統制を強めるべきという理由には必ずしもなりません。重要なことは、問題の本質である1と3についてきちんとした処方箋を考えることです。
 
 さらに、5の統制の強め方が、政治権力との間で癒着が起きやすいもので、検察の政治権力との間の独立を侵すような方法である場合、解決策としてずれているだけでなく、害悪しか生じません。


 検察官の定年延長の可否や、役職定年のタイミングを、内閣がその裁量で決定できるということになると、あと何年働けるのか、いつまで今の役職で居続けられるのか、という人生にかかわる重要な問題を、政治権力の裁量的な人事権に握られることになるので、明らかに、政治権力と検察官の力関係は、政治権力の方が強くなります。

 これは相当に強力な検察官への統制強化です。そして、それが国民にとって意味がある民主的な統制強化といえるかといえば、そうはならないと考えます。
 
 このような役職定年の延長制度ができ、内閣の人事的統制が強化されたからと言って、一般国民との間で検察機構が謙虚になるわけでもなければ、刑事訴訟法が厳格に運用されるようになるわけでもなければ、保釈が拡大されて人質司法がなくなるわけでもありません。
 
 むしろ、検察機構としては、立法によって、これ以上、政治権力との関係で力が弱められることが無いように、政権にだけ忖度する可能性が高いと私は考えます。

 政権の側も、自分たちにだけ忖度してくれるなら、それ以外の場面では、検察機構の権限を限定したり、人質司法を是正する立法をしようとしたりはしないでしょう。むしろ、自分たちにとって使い勝手が良いなら、権限は強化したってよいと考えるでしょう。
 
 つまり、検察がきちんと政治権力から独立していてくれて、一般国民でも政治的権力者でも等しく扱ってくれないと、政治権力の側は、検察機構が益々強すぎる状況になることを止めようとしてくれない。むしろ、政治権力との手打ちによって、検察機構の権力はより絶対化しやすい。
 
 内閣による裁量的な人事統制の強化は、結局、国民のための民主的統制の強化とは言えないのです。


 すっかり大長編になっていますが、まだ続きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?