検察庁法の改正について④

 前回のエントリーの続きです。

 論点のうち、dDやeEはかなり政治的な話です。逆に言えば、この話に行きつくまでの議論において、既に結論は出ているといえます。

 すなわち、

 検察に対する民主的統制は非常に重要だが、それは、検察の公平性と公正さ、つまり「権力者でもそうでなくてもすべての人に等しく法を適用して起訴等をしてくれること」を実現させるためにある。

 しかしながら、内閣による定年延長の裁量的運用を認めることは、逆に、この検察の公平性と公正さを失わせかねない以上、統制手段として適切ではなく、むしろ害悪しかない!

 以上です。

 今回の検察庁法の改正が、安倍内閣がやるからダメだという話ではなくて、理論的に考えて、およそやってはいけないものだということは、はっきりさせておく必要があります。

 そのうえで、さらに安倍内閣だしね、という話が続きます。

 

 dD 黒川検事長の定年延長問題の事後正当化だという問題

 黒川検事長の定年延長問題については、色々なところに詳しく議論されていますが、ごく簡単に言えば以下のようなものです。

 検察官の定年年齢は検察庁法で法定されており、国家公務員法の改正によって多くの公務員について定年延長が認められた際にも、検察官については定年延長の対象にならないと当時の国会答弁で明らかにされていました。

 しかし、このたび政府は、前例のない黒川検事長の定年延長を閣議決定し、さらに、これが過去の政府見解と矛盾することが明らかになると、法解釈を変えたと一方的に主張するに至ったというものです。

 行政には、立法する権限は当然なく、法の趣旨を明らかに逸脱する法解釈の変更権限はありません。こんなことができたら国会は要らないということになってしまいますからね。

 ですから、勝手に解釈を全く正反対に変えたということ自体が、内閣が行える裁量の範囲を逸脱した違法な行為ということになります。

 このように、安倍内閣による黒川検事長の定年延長をめぐる一連の処分は、違法なものだと考えられますが、とはいえ、既にやってしまったものです。日本の今の法制度では、内閣が違法なことをしても、それによって個人の権利を侵害しているといえない場合には、裁判で争う手段はなく、結果、是正する手段がありません。

 

 したがって、今回の法改正は、黒川検事長を検事総長にする定年延長を実現するために行われたというわけではありません。また、この法律ができたからといって、この法律ができる前に行われた内閣による違法の疑いが強い強引な定年延長が正当化されるわけでもありません。

 あえて黒川氏に引き付けて言えば、黒川氏を検事総長に据えたあと、さらに68歳まで定年を延長させ続けるためには、この法律が必要です。そこまでやるつもりでこの法律を成立させようとしたのかどうかは、さすがにわかりませんが。


eE 安倍内閣による定年延長制度の運用が信用できないという問題

 むしろ、この法律との関係で黒川氏の問題を考えるとすれば、法解釈も過去の政府見解も無視して政権に近い人物を強引に検事総長にしようとしている政権が、検察に対する人事的支配力を劇的に強める法律を制定しようとしているということに、多くの国民が強い不信感を持つということにあるでしょう。

 今回のような恣意的な人事権の濫用が、黒川氏の問題にとどまらず、常態化していくのではないかという危惧です。

 

 ここで、そもそも検察官の定年を一律に伸ばすのではなく、個別に延長しなければならないような場面とは、どのようなときなのかという疑問が生じます。

 国会審議の中で、野党議員が、検察官の定年延長の基準を示すように求めましたが、政府は今の時点ではその基準はできていないと答えています。この答弁自体が、いかにも恣意的運用を疑わせるものですが、だからといって基準を作文すればよいというものでもないでしょう。

 そもそも、検察官には、検察一体の原則というのがあり、途中で担当者が変わっても、確実な引継ぎによって業務に支障が出ないよう、相当なリソースが割かれています。これは、検察の公平性、公正さという観点から極めて重要なことだからです。どの検察官が担当するかによって大きく処分内容が変わったり、ある事案が起訴できたりできなかったりするのでは、検察の社会的信頼は維持できないのです。

 したがって、特定の人物が、どうしてもある役職に居続けなければならないような状況になること自体が、検察にとって致命的に問題なのです。

 それにもかかわらず、内閣が、一方的に、特定の人物が余人に代えがたいとしてその定年を延長するとすれば、それは、事件の適正処理の実現のために必要不可欠なのではなく、政治権力の保身のためには「余人に代えがたい」と考えたからではないかと強く疑われるのです。

 

 重要なことは、安倍内閣でなくても、そう疑われるということです。

 そもそも本当に余人に代えがたい検事長や検事総長など、居てはならないからです。余人に代えがたいとしたら、「特定の誰かとの間の関係性の深さにおいて」代えが効かない、という場合が強く疑われるからです。

 したがって、どんな政権であっても、今回の様な法改正をしたいと主張してきたら、検察機構を人事的に取り込み、自分たちの悪事を隠そうとしているのではないかと疑うべきです。いわんや、今まさに黒川検事長の定年延長問題を引き起こしている安倍政権において、その疑念はより強まらざるを得ないということです。

 これで、各論は終わりです。


 あとちょっとだけ、

 「まとめ」と「補足」~今国会の成立見送りでいいの?~

です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?