年商10億円のベーカリーがコロナ禍の2年で利益9,000万円回復した話-2

「見える化」には大きく2つの段階があると思っていて、「自分のために見えるようにする」ステップで概要や法則性をつかんだら、「他者に理解しやすいようにするために見えるようにする」ことで、情報の共有や、方針への理解を得ることが出来るようになる、という手順をよく踏んでいます。

ベーカリーの場合、日々の営業で製造・販売するパンのひとつ一つが数十円~数百円の商品を、1日に数百~数千個、という数で販売するため、その店舗・企業の業績に対して、何を、どう売った結果が反映されているのか、細部まで把握することは比較的難易度が高いです。

そもそも、最大の生産効率のみを優先するには、設備上の最大ロットの生産を常に行うことが理想のように感じますが、実際には過剰生産で売れ残りが出てしまうと、多くの場合は正規の価格では販売できずに値引商品として売り切ってしまったり、または廃棄ロスにせざるを得ない、という実態はまだまだあります。冷凍販売などで、食品ロス削減や店舗の売上補填などの対策ができやすい環境が整いつつありますが、FLコスト比率が7割近いベーカリーにおいては、最大の対策は「少なすぎず、作り過ぎないこと」を極力人件費を掛けずに、実現する必要がありますが、「焼き立てのパン」という鮮度にも付加価値があり、それを維持するにはそれなりに人手がかかります。まとめて大量に作る事が、ベーカリーの売場においては最大数の販売に直結せず、かえって、「お客様にとっての購買意欲」という意味においての商品価値を低下させてしまうことも多く、リテイルベーカリーの商品に関して、生産効率や販売効果の評価が適切にでき、最大限に活用できる、ということは残念ながら稀です。

で。

何を見えるようにしたのか、というと、実は全く特別なことではなく、「商品の販売実績」を見えるようにした、だけです。レジから吸い上げられる、いわゆるPOSデータです。そもそもPOSとはそういうシステムで、わざわざ加工しなくても販売実績が確認できるようになっている、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、レジのシステムを構築している方には本当に申し訳ないですが、そのままのデータでは実用性に乏しく、はっきり言ってベーカリーの現場では使えません。

初めは、月間の販売実績を店舗別、商品別に、点数、売価、値引き実績、レシピ上の原料原価などと合わせて一覧にする、といった感じで表にしました。「原料原価÷売上高=原料原価率」として計算してみると、実はそこまで粗利益率の理論値は悪くなく、会計上の原価率とは大きく差があるような違和感がありました。製造ロスや販売ロスに関しても毎日の生産日報や販売日報での記録があったため、概算のロス率は算出することが出来ましたが、それでも会計上の原価の実績と比較すると、誤差とは言い切れない程の差がありました。

何が起こっているのか、と言うまでもなく、可能性は2つ。

①商品がレシピ通りに作られていない。(レシピの登録内容や原価計算が間違っている場合も含む)

②ロスの記録が正確に行われていない。(仕掛品も含めると見えないロスの影響は生産にかかる労務コストまで押し上げている)

結論から言えば、上述した両方とも見事なほどに起こっていて、「まぁ、そうなるよね」という感じでした。その改善が実際にはなかなかたいへんでしたが、結果として、主幹工場では原価率4%、1年間もかからずに800万円ほどの原価改善が出来ました。原価率は安定したままなので、原料原価の値上げが続く中、全体的にはそこまで材料費の高騰の影響は受けずに運営ができています。(元々ムダがあり過ぎただけなので褒められた話でもないですが…)

厳しい言い方をあえてしますが、仕組みを作って仕事をしたつもりになっている管理部門と、形だけでルールに従ったふりをして仕組みの本質を理解していない現場がそこそこ分断されている関係性の工場ではこうなりがちな気がします。「管理」という言葉が現場の実態をスルーして独り歩きしていたり、きちんと管理業務を教わらずに、現場仕事の延長で管理部門にまつり上げられたりしてしまった勉強不足の上司がいる職場では、高い給料を払って無駄な経費を生み出していることもあるので、とても残念なことが起こってしまっているのでは?と思います。ただでさえ薄利多売構造のベーカリー業界の働き方や待遇がなかなか改善しないのは、こういう所にも原因がある気がして、何とかしたいものだといつも思います。

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