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或る記録.7


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「…実はみんなには安定期に入ってから伝える、
 ってことになってたんだけど、社長がポロッと
 言っちゃうから…」

…と例の上司がなぜか弁解するように私に言った。

どうやら社長はスタッフ全員知っているものと
思っていたらしい。

「ここに就職してまだ2ヶ月しか経ってないから、申し訳ないって言ってて。だからすぐには報告しなかったんだけどね…。」

私の顔を伺うようにそう話す上司。


何が悲しいのか分からない。
だが、泣きそうだった。

申し訳ない、って何だろう。
子を宿したことが?
…そういうことじゃない、分かっているのに。
その思考はどこまでも深く落ちていく。



どうして他人には自然にできるはずのことが
私にはできないのだろうか。


女としてどこかに欠陥があるのだろうか。


私にはそもそも子供を持つ資格がないのだろうか。



妊娠したスタッフには何の罪もない。
頭では分かっているのに。
私にはそのときどうしても「おめでとう」と
言うことができなかった。


気分は晴れない。
でも仕事はしっかりしなくてはいけない。
お客様は笑顔でお迎えしなければならない。
この気持ちを誰に話したらいいのか分からない。


おそらくあのときの私は若干、鬱だったのだろう。


そんな気持ちを抱えたまま、
人工授精はうまくいくはずもなく、
10月、11月と月日は過ぎ、
いよいよ夫の本格的な単身赴任が始まろうとしていた。

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