鬼滅の刃がヒットしてよかったなあと思った話

今年の年間を通して最もヒットした作品といえば鬼滅の刃を思い浮かべる。

わたしはこれほどヒットする本当に少し前、既刊全巻を揃えたところだったので単行本難民にならずに済んだ。

多くの芸能人や一般人も老若男女問わず話題になったが、わたしはこのヒット作が鬼滅で良かったなあと心底思う。

ジャンプはこれまで多くの作品を生み出して、素晴らしい神々の作り出した作品を見させてもらってきたがそれでも鬼滅でよかったなあと思う。

なによりわたしが声を大にして言いたいのは、鬼滅の主人公である竈門炭治郎の生い立ち。

読者は勿論承知済みと思うが、驚くべからず、竈門炭治郎は決して特殊な能力や高等な血筋ではない。

しがない炭屋の長男で、極々普通の青年。
作中出てくる剣士最強と言われる継国縁壱というキャラがいる。
炭治郎は、鬼滅のボスである鬼舞辻無惨にかつて深傷を負わせた唯一の剣士、縁壱の子孫…ではない。
先祖が色々な過程を得て接触はしているものの、なにか特殊な能力を与えられたわけではない。

決着に置いて先祖の縁壱との接触が大いに関わったわけだが、炭治郎がそのお陰で腕力が増加したわけでもないし回復が早くなったとか瞬間移動ができるとかそんなのも全くない。

そして家族が無惨に殺されるその時まで、剣を手にする事もなく、ただ誠実で真面目で努力家の長男だったというだけだった。

特にいえば炭治郎は体が丈夫だったんだろうなと思う。

本当にそれだけの、なんの能力も持たないバトルマンガの主人公って実はあんまりいない気がする。

例えばだが、ワンピースの主人公ルフィは父が革命家、祖父は海軍の英雄と呼ばれる海軍本部中将。
その他色々とその血筋にわけありそうな感じだが、母やその他の詳細は不明だ。

勿論バトルマンガに絞った話だが、とにかく戦闘力が必要な分バトルマンがには特殊能力や血統、主人公限定の武器などが必須とも言える。

これらを全く持ち合わせていない主人公って鬼滅の刃だけとは言わないが少ない部類じゃないかと思う。


そしてなりより、鬼滅の刃は話の構成が分かりやすくテンポがいい。
鬼を倒すという確固たる目的があり、殺された家族の仇と鬼となった妹を治すという確固たる理由がある。
全23巻を通してそこがぶれなかったなと思う。
23巻に収めるためか、休息話のようなものもほぼなく、1話1話にその先へと続くものが描かれている。
例えば無惨を倒すためには、まずあそこへ行ってあれをしてあれを取ってきて…という当初の目的がごちゃごちゃになりそうな事もなく、実はラスボスは無惨じゃ無かった…なんてことも無かった。

少年マンガ故か、その描写もいきすぎるほどにグロさがあるわけでもなかった。

話の流れが明解で、全体を通してわかりやすいというのは子どもの読者を獲得するには必要不可欠だと思う。

そして小学生くらいの子どもたちが読んだ時、主人公の炭治郎が本当は努力意外の能力を持たないものだということをどう思うだろう。

特殊能力は勿論かっこいいし、そんな主人公になれるなら大抵の人はなりたいしその能力を欲しいと思うと思う。
けれど口から火を吹いたり、体がゴムになったり、自分の親が死神だった…なんて事もない。
身体能力の差はあれど、特殊能力とは全く別のものだ。

でも炭治郎は限りなく、わたしたちと近い。その努力という点では、する人しない人はいれど努力をできない人というのは五体満足であれば大抵の場合いないだろう。


鬼滅の刃は努力する事の大切さを教えてくれていると思う。

持たざる者故に、周囲の話を食い入るように聞いたり、自ら問いかけたり、なるべくそこに近づこうと努力しながらも自分になにが合ってるのかなにができるのかを模索する。
そうする事で関わり合った人々全てに感謝と精一杯の誠実さを惜しみなく与えていく。

鬼滅の刃はそういう作品だと思う。


わたしはマンガが好きなので、色々なジャンルを読んできた。
その中で鬼滅の刃が最も面白かったかと言われればそんな事はないと思う。
これは勿論好みの問題だけれど、この世には震えるほど素晴らしいマンガは溢れるほどにある。

けれどここまでヒットしたのは、ただ面白いだけじゃない。
このコロナ禍での自粛なども要因だろうし、メディアに取り上げられたり、アニメのクオリティも勿論だが
例えば刃牙や嘘喰いのような漫画だったらどうなんだろう。こんなにヒットしただろうか。

鬼滅より面白い漫画がいっぱいあるのに、鬼滅ばっかりなんなの?

と言う人も見かけるが、そういうことじゃないよと言いたい。

そしてなにかがヒットするということは、そのジャンルに手を出してこなかった人がハマって他の作品に触れる機会にもなるのだ。
鬼滅を否定する人の推し作品が、鬼滅のヒットのお陰で売り上げを伸ばしているかもしれない。
好き嫌いを公言することは構わないが、作品そのものを否定することは、そのジャンルやなんなら漫画そのものを否定している気がしてならない。


けれど鬼滅の刃がこれまで生きてきて最も面白いと思っている人は、ぜひ他の作品たちを見てほしい。
生涯をかけても読みきれないほど漫画は世界に溢れている。
わたしは小説や童話、絵本、エッセイなど色々読むので正直人生あと5回はやりたい。
美女と野獣に出てくる図書室が欲しい。

あらゆるジャンルや作品を周り見て、やっぱり鬼滅の刃が最も面白い!となっても全然いい。
なんなら、多くの作品を読むことで鬼滅の刃をもっともっと楽しんで読める。他の作品に触れることで鬼滅の刃をもっともっと好きになる。


本を読むってそういうことだと思う。

そして人との繋がりもそういうことだと思う。

だからわたしはこれほどのヒット作品が、鬼滅の刃で本当に良かったなあと心から思う。


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