徒然書評『中国山地 過疎50年』
今回は中国新聞取材班編『中国山地 過疎50年』(未来社、2016年)を取り上げます。
人口減少が続く中国山地
この本は、中国山地ですすむ過疎について、2016年に中国新聞に連載された記事をまとめたものです。過疎の現状と歴史、交通・農業・林業にしのびよる影響などの「影」の部分、地域おこし協力隊や移住者がもたらす新たな動きなどの「光」の部分の両面にスポットを当てています。
僕自身、祖父母の田舎が中国地方で、ローカル線が好きなこともあって昔から地方に関心をもっていました。三江線や木次線はもちろん、移住者が集まる地域にも出かけましたが、活気づいている地域と衰退してどうしようもない印象をもつ地域の両方があったように思います。
山間の奥地にまで集落が点在
かつて中国地方は日本の農林水産業を担う一大拠点でした。海では北前船が境港から北陸・東北へと木綿を運び、山では「たたら製鉄」で農機具に加工される鉄が産出されました。林業も盛んで、車窓には今でも規則正しく植えられた杉やヒノキの山がそこかしこに見あたります。
大正から昭和にかけて、中国地方の海側と背骨の部分には鉄道が張り巡らされました。切り出した木を運搬するために簸上鉄道(のちの木次線)が敷設されます。江の川の水運に代わる手段としては三江線が江津から川沿いにゆっくり延伸しました。
乗車してみると、利用者は少なくなったものの、木次線沿線には加茂中・木次・出雲横田・八川などそこそこ大きな集落が点在し、三江線もこまめに設けられた駅数がかつての賑わいを思いおこさせます。
林業ショックと豪雪で人口が減少
独自の経済圏を築いた中国山地への風向きが変わったのは1960年代。外国産の安い木材が流入し、国産の材木の値段は最盛期の10分の1にまで下落します。木を切りだして苗木を植え、間伐しながら維持していく作業に見合う収入がなくなったことで、仕事を求めて都会へ出る人の流れができました。高齢化のなかで、放置された山林をどうするかも、本書が触れる課題です。
砂鉄を原料としたたたら製鉄も大規模な製鉄にとって代わられ、奥地の集落を維持してきた仕事は失われてしまいました。
追い打ちをかけたのが昭和38年の「三八豪雪」。線路も家もすっぽり埋まるほどの大雪が山陰を襲い、こんなとこで暮らしてられないとますます都会志向が加速します。
かつてビジネス急行「たいしゃく」が担った芸備線の東城~備後庄原の輸送密度は今や最小期で1日8人。三江線も本書発行後の2018年に廃止となり、鉄道需要は見る影もありません。
昭和後期に中国自動車道が開通したことで、高速バスで三次や津山から大阪へのアクセスが便利になったことも、人口減に拍車をかけました。
移住者が切り開くもの
本書のなかで、日本総研上席主任研究員の藤波匠氏は、将来の中国山地について以下のように語っています。
東京・大阪・福岡など大都市に人口が流れる現象を無理に食い止めようとしてもうまくいかない。一つでも地方に仕事を作って、移住者が定着する流れをつくらなくてはと同氏は指摘します。
近年、建築資材やバイオマス発電の燃料として再び木材が注目されるようになり、単価は相変わらず安いものの需要は増えつつあります。新たなビジネスチャンスを求め、ローカルベンチャーを始める移住者も近年増えてきました。
農業も稲作から有機農業や特産品を使った安芸太田町の「柿チョコ」など、付加価値をつけた作物を売り出して稼ぐスタイルへと転換が始まっています。「海外に柿チョコを宣伝したらこんなに売れるなんて」とびっくりするおばあちゃんが印象的でした。
僕も山陰に一人旅した際、西粟倉村や城崎で移住者の作るコミュニティの場を訪ね、熱い思いと行動力を間近で感じました。移住者や学生が主体になって発行している雑誌『みんなでつくる中国山地』でも各地の営みが紹介されているので、ぜひ手にとってみてください♪
過疎を適疎へ
鉄道ファンとしては、ダイヤ改正のたびに中国地方の衰退をまざまざと感じます。それでも、鉄道一つとっても観光や作物の輸送など、見方を変えれば再生できるとの希望はもっています。
どうしても大量輸送が地域に適さない場合は、デマンドタクシーなどより暮らしやすい手法もあるでしょう。かつて広がりすぎた集落をコンパクトに畳んでいく準備も必要と本書は示唆しています。
人口は減るけれど、その分移住が増える。旧来の価値観が日本一高いといわれる島根県も、移住者の数はトップクラス。
日本の根っこが県名の由来とあって、課題と同時にこれからを考える先進地でもあります。
彼らは何を魅力に感じて移住したのか?その答えをさがしてページをめくるのも楽しいですよ!
図書館員として
山陰地方の図書館に赴くと、地域への愛情が特に手厚い印象をうけます。
鳥取県立図書館では住民の起業相談にレファレンスで寄り添い、要望に関連する情報を紹介してシャッターガードの生産にこぎつけた実績があります。
島根県立図書館でも「よろず支援拠点」の相談会を定期的に開催し、なりわいを営む上での悩みにより添っています。
子育てにも本は大切な要素ですし、大人になってからも仕事や暮らしに必要な情報を困ったときに届けられる。
「いざという時に頼れる図書館」を長い目で作る責任が僕らにはあるんだな、住みやすくそれぞれの夢を実現できる社会をつくる手助けとして、図書館で何ができるだろう?毎日が試行錯誤の連続です。
皆さんも、この本をきっかけに中国地方を訪ねてみてください。人に食に風景に、新しい発見がきっとたくさんありますよ!
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