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106冊目:美味礼讃

今まで読んだ物語の中で1番読み応えがあった。この物語の主人公はあべの辻調理師専門学校の校長「辻静雄」で、彼は日本に本格的なフランス料理を移入した最初の人だった。フランスの一流店を食べ歩き、味を覚え、記録し、教える、壮大なストーリーが淡々と進んでいくギャップに自分の感覚もだんだん麻痺していった。

序章

もともと新聞記者だった辻静雄は結婚し、婿養子となった。義父の元で料理学校をすることになったが、新聞記者時代のような面白みもなく包丁の使い方を習ったりした。

しかし、その頃の料理学校には花嫁修行に来る女子生徒ばかり。将来が見えなかった。本格的な料理の授業をしようとしても、その頃の日本には洋食はあっても本格的なフランス料理などはなかった。授業をできる人がいなかった。

いい学校

「いい学校というのはどういう学校をいうんですか?」
「いい学校というのは、子供を預かりっぱなしにしないんだよ。しょっちゅう電話がきたり、手紙がきたり、先生がきたりして、とにかく家庭との連絡を絶やさないんだ。そういう学校はまちがいなくいい学校だね」

本書より

これは生徒には不評でも、生徒の親にウケた。そしてこれは辻調理師学校の校是となった。
生徒数が四千人を超えるようになってもこの習慣は続けられた。

料理について

本書を読んでいると料理の知識がいろいろ入ってくる。例えば、フランス料理は塩辛い。辻静雄がフランスの一流レストランで修行のように食べ続けていたころ、塩気が強くて、このままでは日本では流行らないだろうと悟っている。

中国料理にもいろいろある。

北京料理は羊やアヒルなどの肉料理が中心だし、上海料理は油で揚げる料理が多いうえに味つけに糖分を使いすぎる。そして四川料理はその内陸的気候風土から殺菌のために唐辛子を使いすぎ、いずれも日本人の口には合わない。結局、亜熱帯の気候の中でふんだんにとれる野菜と海でとれる魚を使って、材料そのもののよさを生かす広東料理、しかも香港で洗練された広東料理が日本人の口には一番よく合うというのだった。

本書より

日本料理は終盤になって自分が何も知らないことに気づいた。自分が日本人で、日本料理を食べて育ってきたから知っていると思い込んでいたことを恥じている。

日本の料亭での料理の出し方について。一度に全部出すやり方は料理の三角食べができる昔からある食べ方。一方、一品ずつ出すのは大正時代から。この由来について。

「いや、日本には昔から茶料理というのがあってね。茶の席で主人が客に出す料理の出し方がもとになっているんだよ」

本書より

その他、ライバル校との因縁や生徒の裏切りなど様々な人間ドラマ、食べ続けた人間の行く末などが描かれている。読み応え抜群、全部500ページもあり、ゆっくりと読み進めた本でした。

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