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AI革命期に生きる我々は、産業革命期の歴史を繰り返す

『テクノロジーの世界経済史 -ビル・ゲイツのパラドックス』(日経BP社)を読んだ。

産業革命期とその前後の歴史を分析し、現代に生きる私たちの行動や思考は、この時代の人々と酷似しているのじゃなかろうかと言っているようだ。
先行きの見えないこの現代において私たちは生活や仕事の不安を感じているのだけれども実は過去も同じ状況で、その時の政治・経済・技術・社会の状況を踏まえた行動を人々は起こしていた。そして翻弄されていた。それを理解することで現代を生きる私たちの参考になるんだと気づかされる。

ちなみに、副題の「ビル・ゲイツのパラドックス」は不要だなと思った。関連しないとは言わないけれど、有名なビルゲイツの名前を出さないと日本では手にとってもらえない内容なのか。ちなみに原題にも無い。

産業革命期を2つのフェーズに分けることでイノベーションを起こした技術の本質が分かる

第一次産業革命がどういったものかと言えば、「自動織機」に代表される工学的革命が起きた時期だった。
そしてそれは機械化により、織物職人に代表される手工業のスキルを不要としてしまい、多くの人の仕事を消失させてしまった。それまでの家内制手工業が成り立たず、工場制機械工業に変わってしまった。
この社会的インパクトは相当だったと思う。機械化に投資した資本家が潤い、技術力は不要となったため労働者は低年齢化した。
これらの技術を「労働置換技術」と言う。

第二次産業革命については、「蒸気機関」に代表される科学的革命が起きた時期だった。第一次産業革命期は、人間のスキル不要の機械化であったが、その機械化が高度化するに伴い、それを製造、操作する人間のスキルも高度化していく必要に迫られた。その為、成人男性の労働力がまた必要となってきたことで、低学歴であってもスキルと体力さえあれば経済的な恩恵を受けやすい環境となり中産階級の成長につながった。
これらの技術を「労働補完技術」と言う。

そしてその後は、フォード自動車(内燃機関)や、電気(社会インフラ)の発明と、さらなる中産階級の発展につながっていく。

技術革命で影響を受ける人々の属性や性質を理解することはその時の政治を理解することにつながる

こうみると、第一次産業革命期に生きる人々は散々だった。人によってはその一生が、第一次産業革命期に入っていた人もいただろうし、その不満と不安は相当だったと推測される。実際、機械化を阻止しようとした労働者も多くその運動は歴史上、ラッダイト運動と呼ばれる。

一方で、第二次産業革命期の人々は、様々な恩恵に預かってきた。
我々の知る産業革命による社会発展のイメージは、この第二次のことではなかろうか。

ちなみに歴史の教科書で学ぶイギリス発祥の産業革命は第一次産業革命なのだけれど、労働置換技術が発展したことによる労働者の失業や反乱、社会的不安など様々な負の現象が出てくる中で政治的にはどうやってこの革命を推し進めたのだろうか。
実際、欧州の他の国々もこのイノベーションの機会は与えられていたわけだけれど、歴史に名を残している国がドイツやフランスはなくどうしてイギリスだったのか。

その理由は、その国の支配階級が感ずる脅威が何であるかにより、労働置換技術を社会に広めるモチベーションがあるかどうかが変わるからのようだ。

この時期のイギリスにおいては、海外貿易(国家間競争)への脅威に対応する国力が必要であり、その為にはラッダイト運動のような社会的混乱があろうとも軍隊をもって鎮圧し、イノベーションを強制的に広めていった。この後の欧州は帝国主義時代へと突入することを考えると、「技術革命の浸透は政治に従う」と言える。

2020年のアメリカ大統領選挙とトランプ大統領について考える

さて、2020年の現代に目を向けてみると、AI革命というキーワードが存在感を増している。ディープラーニングによるコンピューティングビジョン分野や音声・会話分野のデジタルテクノロジーの発展がすごい。それと、まだどのように進化するか未知数である量子コンピューターも登場することで、世の中の「自動化」がどんどん進んでいくはずだ。

ところで、そうなった時の私たちの仕事はどうなるんだろうか。「AIに仕事を奪われる」的なフレーズは出始めている。この書籍では、コンピューターが登場し始めてから既に自動化の波が開始されていて、低スキルの職業がコンピューターやシステムにとって変わられてきていると言う。これが進んだ先にあるものは中産階級の衰退だ。

トランプ大統領がなぜ大統領になれたのか?これはこの4年間の世界のWhy?だ。トランプ大統領は、アメリカ国内の貧富の差がなぜ起きているのかを問い、その原因を諸外国に因るものなどと煽ったり、アメリカの中産階級のステレオタイプなイメージである「白人男性労働者」からの支持を集めるテクニックにも長けている。白人男性だけではなく、マイノリティの移民からも一定数の支持を得ているのは「貧富の差」というキーワードが影響しているんだろうと思う。

先日、WEEKLY OCHIAIを見たが、『テクノロジーの世界経済史 -ビル・ゲイツのパラドックス』を読んでいたことで、自分の思考をかなり深くできた。現代のアメリカは「分断」している。そしてそれは、技術革命による中産階級の消滅と、それによる「貧富の差の拡大」であり、一昔前の言葉で言えば「階級闘争」につながる話だ。そしてそれは、日本も同じ。

終わりに

ずっと不思議に思っていたことがある。
このAI革命期の現代では、「過去に例を見ない未曾有の状況で」とか「社会が凄まじい速度で変化している中」や「今までの常識に囚われないためには」などの言葉で前置きされるメディア情報が多いが、そんなことは10年前も30年前も言っており、それ以前も同じようなことを言っていたと思う。そして、今回の18世紀から19世紀にかけての産業革命を振り返れば、この時代も凄まじい未曾有の状況だ。
どうも人間というものは「今」を特別視する傾向にあるらしい。周りや足元にふと目を落としてみれば、我々は歴史が積み重ねた巨人の肩の上に乗っており、これらの歴史を振り返ることで、上を見上げた時の予測に役立つのじゃなかろうかと思う。
現代に生きる私たちは、第一次産業革命期の人々として、AI革命に反対運動を起こすのか、はたまた第二次産業革命期の人々として、人生を謳歌するのかどちらだろうか。
そして、謳歌するフェーズに行くためには社会的な痛みを伴う必要があり、それを先導するのはデジタルテクノロジーそのものではなく政治だ。

PexelsのJohannes Plenioによる写真

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