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LiB羊
2019年12月31日 13:41
よく晴れた初夏の日、マンションのポストに歌うような手紙が届いた。 封筒をひっくり返すと、つい一か月前には頻繁にやりとりを交わしていたふたりの名前が裏側にあって、結夏は微笑んだ。 メールアドレスもラインも知っているのに、わざわざ手紙を選ぶとは、言葉を大切にするあのふたりらしいな、と思った。きっと知央さん発案なのだろう。年下の愛すべき人を思い出して、結夏はその星みたいに柔らかな黄色の便箋を、そっ
2019年12月30日 17:03
晴れやかなところの少ない部分だけを歩んできた人生でした。 手をつないで歩くことができたら、それが僕らの勝利だと思いながら生きてきた。 都心に繋がる線路が顔を覗かせる夜のホームは真っ暗で、大きなひとつの暗闇がのたくっているみたいだ。 ひとりぼっちの孤独だってぽっかりと呑みこまれてしまいそうで、知央(ちお)はそっと悠斗の背広を掴んだ。 「どうしたんだい?」 「……夜のホームってなんだか怖
2019年12月29日 14:11
いつか僕ら、シルクロードへ行きたかった。 ドアの外がかしましい。 アルコール臭が拭いきれない居酒屋のトイレで、タクミは白い便器に腰かけて、祈るように手を組んだ。 目をつむると、真っ暗なまぶたの裏に宇宙が浮かぶ。 そっと宇宙に集中すると、唇は黒く小さく硬くなり、ゆっくりと白く細い糸を吐きだしはじめた。 現実世界の喧騒が遠くさり、この広い世界にぽつり、と浮かんでいる気がする。 小さな
2019年12月28日 22:19
「ミヤちゃん。見て、このあいだうちのお姉ちゃんが結婚式あげたんだ」その日は確か、校庭のイチョウが小さな鳥の形をして舞い落ちる金色の秋の日だった。ミヤは制服のスカートのプリーツを整えながら、現代文で習った歌を思い出したりしていた。同級生のアキが両手で差し出してきた写真には、花嫁花婿とその家族たちが笑顔で写っていた。幸福そのものの形をしたそれは、アキの祖母譲りだという金色の混じった長い髪の毛と一