政治過程論から考える、「議院内閣制+小選挙区制の危険性」と「日本には中選挙区制に戻すべきではないか」という考察

東京都の状況が日に日にまずいことになっています。そろそろ根本的な解決策を出さねばならない状況だと思います。が、出てくるのは「お肉券」、「お魚券」、「旅行券」、「マスク二枚」などでなかなか本質的な拡大防止の対策が出てきません。諸外国に比べてもあまり対応が良いものではないなという印象を受けます。詳しくは下記でまとめましたので、ここでは触れません。
https://note.com/lib_arts_journal/n/n9d864d7e69ee
さらに、最近の問題だと、「東京高検の検事長の定年延長問題」のような三権分立をおびやかす問題を「口頭決裁」で断行するなどもあります。森友学園の問題も問題そのものはそれほど気にするべきではないと思うのですが、最終的に「公文書の改竄」という事態につながってしまいました。

問題は他にもありますが、政権の糾弾を行うのが趣旨ではないためここでは省略します。
ここで一番気になるのは上記で挙げた3つの問題が出た際の自民党内部での批判の声が少ないことです。かつての自民党はもう少し気骨があったと思うのですが、党内からの批判するケースがあまり見受けられません。往年の懐の深い自民党はどこへ行ってしまったのでしょうか。

今回はこちらの理由について、政治過程論をベースに1994年の「政治改革四法」による選挙制度の変更が日本の政治の土台を揺るがしたのではないかということを論じたいと思います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/政治改革四法
以下目次になります。
1. 選挙制度論(政治過程論)の概要について
2. 議院内閣制と大統領制の比較
3. 日本にはイギリスモデルもアメリカモデルも合わない


1. 選挙制度論(政治過程論)の概要について
1節では政治過程論の一つである、選挙制度論について取り扱います。今回メインで考察したいのが、選挙制度によって生じるパワーバランスとその影響のため、「デュヴェルジェの法則」について簡単に触れておきます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/デュヴェルジェの法則
詳しくは上記を参照いただければと思いますが、ざっくり言うと「デュヴェルジェの法則」は選挙区の定員+1の数の主要政党が最終的にできる法則と抑えておけば十分です。つまり選挙区の定員が1であれば基本的に二大政党制になり、3であれば4つの主要な政党ができると考えておけば良いです。ちなみに田中角栄は経験上このことを知り尽くしていたと言われています。
また結果としてできる政治の状況を、デュヴェルジェは一党制、二党制、多党制の三類型で表現しています。サルトーリやレイプハルトなどが類似の研究を行なっていますが、ここではこの三類型で十分だと思いますので詳しくは流します。

サルトーリによると民主主義に効率的なのは、「二大政党制」と「穏健な多党制」が挙げられており、二大政党制の例としてはアメリカやイギリスがあるとされています。この「二大政党制」と「穏健な多党制」は後ほど詳しく論述するので、注意して抑えておいてください。


2. 議院内閣制と大統領制の比較
2節では国家の運営にあたってのやり方として多くの国で採用されている、「議院内閣制」と「大統領制」について確認していきます。「議院内閣制」はイギリス、「大統領制」はアメリカが採用しています。
「議院内閣制」と「大統領制」はそれぞれモンテスキューが法の精神で論じた、三権分立がベースとなっています。三権分立は国の権力を、立法、行政、司法の三つに分けてそれぞれを牽制させるという考え方です。

「議院内閣制」は議会の信任によって行政を運営する首相を選ぶので、実質立法と行政が近しい関係になります(一元代表制)。一方で「大統領制」は議会と大統領を別々に選ぶため、立法と行政が牽制し合う関係となります(二元代表制)。日本で暮らしていると「大統領」というのは権限の強い人だと思うかもしれませんが、それはアメリカの国力が背景にあるというのが実際の理由で、実際はシステム上「議院内閣制」の首相の方が国内では強い権力を保持しています。

さて、それぞれのメリットとデメリットですが、「議院内閣制」は首相の権限が強くなりやすいので比較的安定した政権運営を行えるメリットがある反面、与党が議会の圧倒的多数を占めると独裁化になることや政権与党が小政党の連立である場合に政権運営が行いづらくなるというデメリットがあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/議院内閣制
「大統領制」は説明責任や政権の構成の予測可能性が明確になるというメリットがある反面、固定された任期が政治を硬直的なものにするなどのデメリットもあるとされています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/大統領制


3. 日本にはイギリスモデルもアメリカモデルも合わない
さて、「選挙制度」や「議院内閣制」と「大統領制」について前提を抑えた上で、日本の政治について見ていきます。日本は現状「議院内閣制+小選挙区比例代表並立制」であり、イギリスと近いシステムになっています。
とはいえ、イギリスの政治はここまで迷走するのかのような疑問もありました。
https://globe.asahi.com/article/11882947
色々と調べていたところ上記の記事がなかなか興味深かったので、拝読しました。比較政治学が専門の中央大学准教授(記事記載当時)の古賀光生氏へのインタビュー記事となっています。

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抜粋になりますが、まず上記で「ポピュリズム」と「立憲主義」の違いについて論じられています。『投票以外の要素』をどこまで重視するかというのがこの二つの対立軸であるとされています。

「ポピュリズム」という言葉で思い浮かんだのが、「国民に信を問う」などの文言です。「国民に信を問う」というので有名なのが、郵政民営化を巡っての小泉純一郎氏の解散総選挙です。郵政民営化に関する議論は本題ではないので行わないとして、ここで気にしたいのが自民党がこれで圧勝したということです。
民意を二元論として取り扱っているような印象を受け、あまりこの手法は望ましくないと思います。一方で、二元論で表した方がわかりやすく、多くの国民の支持を得やすいというのも事実です。

考察してみた結果として、日本にこのイギリス型の「議院内閣制+小選挙区制」は合わないのではないかと思いました。というのも、日本人は良い意味でも悪い意味でも「和を尊し」とする民族だからです。たとえとして「最強の軍隊は日本人の下士官、ドイツ人の将校、アメリカ人の将軍」と言われるのも、この辺が関係していると思います。
日本人は勤勉な民族ですが、反対に組織の上層部からの誤った指示を正せないという欠点を持っています。「議院内閣制+小選挙区制」は、二大政党制となるため責任主体が多くても二つになってしまいます。現状のように強力な野党が存在しない場合は与党中心で政治が回ることになります。こうなってしまうと、与党に誤りがある際に与党内部でなかなか正せないという状況が生じてしまいます。

往年の自民党がこの辺をうまく対応できていた理由としては、「中選挙区制」によって党内に強い派閥が生まれ、結果的に民主主義が効率的に機能する「穏健な多党制」になっていたからというのが考えられると思います。
「中選挙区制」自体は金権政治とも言われ腐敗の温床になったとも言われていますが、バブル崩壊以降の日本の推移を見るに、当時の政治の方が良かったのではないかという印象も受けます。

日本人は「和を尊し」とする民族のため、「中選挙区制」によって「穏健な多党制」を実現し、一般人が『困ったら〇〇先生がきっとなんとかしてくれる』と考えられるような状況ができている方が良いのではと思います。「小選挙区比例代表並立制」は与党の党首の権限が強くなり過ぎるため、政治家一人一人の個性が出づらくなります。また、現代はインターネットも普及しているし、比較的発信などのコストも低いであろうことも理由の一つです。
この方が良い均衡を保ちながら国家が運営されるのかなというのを様々なニュースを見ながらふと思いました。

※ ふと思い立って書いてみたレベルなので、3節の考察はまだまだ改善の余地があると思います。なんとなく「中選挙区制」の方が良いのではと感じて調べてみたら、様々な意見があってなかなか面白かったです。「和を尊し」とする民族性には「穏健な多党制」が合うのかなと感じました(イギリスやアメリカみたいに議論するのは日本だとなかなか難しいんじゃないかと思います)。

※ 政治家個人の批判にはあまり意味がないと考えていて、人が代わったとして結局同じことをやるからです。そのため、システムとして全体の仕組みを論じる方が建設的だと考えています。

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