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片親パンについて母子世帯でぬくぬく育った私が思うこと

片親パン騒動について

「片親パン」というワードは昨年あたりからZ世代を中心にSNSで使われている言葉だそうで、ひとり親世帯の子供がよく食べるとされる菓子パンのことを指す。

2023年1月6日、有名な方が言及したためか「片親パン」がツイッターのトレンド入りを果たした。気になってツイートを読み漁った結果、ひとり親家庭育ちの発信者があるあるネタとして共感または自虐の意図を込めて、片親の身方のパン、「片親パン」という言葉を使うツイートが確認できる。

その一方、有名な方はひとり親家庭以外の方から発せられたと考えたのか、「片親」に差別的な意図があると捉えて「差別スラング」であるとしたり、「一体どんな環境で育てばそんな極悪ワードが思い浮かぶんだ」など、否定的な意見を述べていた。さらに「パンと企業に失礼」とのツイートもみられ、これら一連の盛り上がりについて各自思うところがある様子だった。

けっこういるひとり親世帯

ひとり親世帯と関わりを持ったことのない人は知らないかもしれないが、ひとり親世帯はありふれた存在である。

2020年に実施された調査結果では、全世帯のうち、ひとり親と子供からなる世帯は、全体の中では9%、子供のいる世帯の中では26%を占めている。

『令和2年国勢調査』総務省統計局より

子供たちの中ではどのくらいの割合がひとり親世帯に当たるだろうか。年齢別にどんな世帯に属するかを調べたところ、15歳未満では8.7%がひとり親世帯、12.2%のその他の世帯は、子供の他に親以外も属する世帯などが該当する。つまり、15歳未満の子供たちの間では、ひとり親の子供は11人に1人程度の割合で存在する。15~24歳ではさらに増えているので、18歳未満だと血液型でAB型の人と同じくらいの割合でひとり親家庭の子がいることになる。

『令和2年国勢調査』総務省統計局より 図V-1-2 世帯の種類・世帯の家族類型,年齢(10歳階級), 男女別世帯人員の割合(2020 年) 女

親しくならない限り人に特別打ち明けることがないためか、これだけ人数がいながらも、なかなかひとり親世帯の関係者には出会えないものである。

私の片親パン体験

私は今、大学で勉強を続ける学生である。元々は母と私と妹と父の四人家族で、母は専業主婦、父は単身赴任で働いていた。私が中学生のときに両親は離婚し、私と妹は母の実家に引っ越し、父はその後行方不明になった。もともと単身赴任で父とはほぼ会っていなかったし、母の実家で毎晩夕食をとっていたので、生活自体はあまり変化しなかった。片親パンは片親時代ではなく子供時代によく食べて好きだったパンという感じだ。

こういう家庭事情を人に言うことはほとんどないが、聞かされた時には「へー」か「そうなのね」か「大変だったでしょう」くらいに返しておけば無難だと思う。今どき「聴いてごめんなさい」や「可哀想に」などと言うような大人は、「様々な家族の形」を認めず両親の揃った家庭じゃないとまともな子供が育たないと思い込んでいる保守的な人か、見下してイイ気分に浸りたい厄介な人だろう。

片親パンの良し悪し

片親パンとされるパンはスーパーで購入できる100円前後の菓子パンの中で長年人気のある商品だ。健康に気を使う余裕のある大人から見ると「粗末な」、「体に悪い」食事だが、人によっては「懐かしの味」だったり、「飽きるほど食べた」、「命を繋いだ食料」である。親目線でみると「子供が唯一食べてくれる」、「腐らない」、「調理せず食べられる」などロングセラーになる理由がいくらでも想像できる。

法律が変わらない限り、私自身も将来親になるなら事実婚のひとり親世帯になる。もちろんビッグマックほどのカロリーを手軽に与えられる片親パンのお世話になるだろう。

「片親」は差別用語ではないものの……

片親とは、単に両親のうち一方がいないことを指す。生物学的にはヒトの産みの親は男女の二人いるものだし、平和で医療サービスが充実した日本では両親のいる家庭が多数派なので、片親家庭を分けて片親と言う分には問題ないと思う。

しかし、差別しないと気が済まない人が「片親の子は不幸だ」と決めつけたり、「片親だから躾けがなってない」だの「片親だから結婚させたくない」だの「片親だから…」とわざわざラベルつきで個人を虐げてきた事例は10年前にはネット上に散見された(当事者は気分を害するし貴重な時間が無駄になるだけなので調べない方がいい)。

そのため、私は「片親パン」がトレンドに上がったときはドキっとしたし、怖いもの見たさに見てしまった。私がこれまで「片親」についてネットで調べるときはネガティブなものばかり見てしまったので、今回も「また嫌なこと書かれてるんだろうな〜」とも思った

蓋を開けてみればひとり親家庭の若者が同じ境遇の人たち(オープンにしないとなかなか出会えない!)とワイワイやってる一方、差別には怒ってくれる人がいて、微笑ましいなと思った。元々はひとり親家庭の人から発せられたことが分かってから、差別に怒る側のトンチンカンさが面白いなとも思った。

ソフトな言い換え

私も「片親」という単語が差別的に使われたろくでもないネットの書き込みを読んで育った一人なので、唐突な「片親」は当事者をドキッとさせる言葉だとは思う。

お役所やメディアでは「ひとり親」という言葉を使うし、学校でも「ご両親」は使わず「おうちの人」と言い換えるらしい。

片親パンのワードセンスは抜群だし、若者がワイワイしている分には可愛いが、大人が使う際には「ひとり親家庭の身方パン」くらいがパンだけにふんわりソフトで丁度いいかもしれない。

まとめ

  • 片親パンはひとり親家庭の身方

  • ひとり親家庭はいっぱいいる


参考文献

令和2年国勢調査 
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/pdf/outline_01.pdf

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