バディ
私には北海道に父方のおじいちゃんがいた。それとおじいちゃんと仲が良かった猫のタマ。
タマは野良出身でありながらも真っ白なふわふわの毛を纏い、お上品な佇まいだ。
年に1度だけ自分家にあがり込んでくる私たちには、そのフワフワを触らせてはくれなかった。絶対に同じ空間にはいてくれない猫だった。同居家族のおばあちゃんにも懐かない猫。「私に近づかないで!!」と言わんばかりに。
おじいちゃんは絵を描く人だった。おじいちゃんの部屋はいつも油絵具の香りがした。
変わった人だったから幼い私はあまり仲良くできなかったけれど、こっそり部屋に入っては絵を見たり、匂いを嗅ぐのが好きだった。窓から見える裏庭の雑多な感じも。夏の北海道の涼しい風も。
12歳の時、新国立美術館におじいちゃんの絵を見に行ったことがある。どこかの国の地下街に悪人が集まっているような絵。その良さはこれっぽちもわからなかった。悪そうな顔ぶれの中にお父さんにそっくりな人がいて、それが面白かった。
おじいちゃんは私が高校の卒業シーズンを楽しんでいる間に亡くなった。卒業式とお葬式が重なったのでお葬式は不参加。
私は専門学生になり、49日が来て北海道へ行った。
法事の最中、足の痺れに気を取られながらおじいちゃんの大きな祭壇を眺める。
毎年夏に行けば大量のお菓子が用意されていた8畳ほどの客間におじいちゃんは祀られている。
足の痺れが限界を迎えたあたりで、遠くからニャーニャー鳴く声が聞こえる。タマ。
タマは私たちの方にどんどん歩いてきて、祭壇を見上げてはニャーニャー、ニャーニャーと鳴く。どこか悲しげに聞こえた。ずっとないていた。
法事が終わり、おじいちゃんの部屋に行くと描き途中の大きなキャンバスがあった。絵の具はパレットに絞り出されたまま。窓からはいつもの北海道の風。まだひんやりと冷たかった。
タマは今年の夏に逝った。おじいちゃんとタマ、天国では何をしているだろう。
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