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Vol.32 The Beatles(前編)

ビートルズとはなんだったのか

ビートルズをリアルタイムで聴いていた世代はいまや60代から70代。
にも関わらずその作品は世界中で愛され続け、御年78歳のポール・マッカートニーはいまだにスタジアムを何万人もの聴衆で埋め尽くしています。
現役当時を知らない世代が「むかしの音楽」であるビートルズに魅せられてつづけているわけです。

一方ビートルズって結局何なの?なにがスゴイの?思っている方は少なくないと思います。
でもいまさら尋ねるのも恥ずかしいし、ちょっと調べたくらいではなにがなんだかよくわからないし。
うっかり詳しい人に聞いたりしたものなら、「ジョンの魂がねー」なんてやたらと長くて面倒な話になるし。

そんな方のために今回はそのあたりをできる限りわかりやすく書いてみたいと思います。

3つの顔がある

バンドとしてのオリジナル・アルバムをベースにすると活動期間は63年から70年。たった7年間です。
この短い期間に12枚のアルバムをリリースし、その全てが音楽史に残る名作となっています。
この濃い7年間に初期・中期・後期という「3つの顔」がありました。

<初期>
ライブ活動をメインとしたティーン向けのポップでキャッチーなサウンドでした。マッシュルームヘアに細身のスーツ、甘いルックスで女性ファンを魅了して世界中で大ヒットし社会現象となります。
「開運!なんでも鑑定団」でおなじみの『Help!』など多くのキラーチューンを生み出し世界中で人気となります。

<中期>
人気が熱狂的に高まりすぎることによってライブ活動を続けることに限界がやってきます。
当時の音響システムでは何万人の聴衆でのライブは事実上不可能。にも関わらず彼らを待つ世界中のファンのためにツアーは繰り返され、そのクオリティはどんどん下がっていくことになります。
当然彼らは活動に疑問を感じ始めますしトラブルも続出、ついに66年にはコンサートツアーをやめることを決断します。
通常はこういった状況になるとバンドというものは(多くの問題を抱えたまま)終焉を迎えるのものなのですが、6枚目のアルバム「ラバーソウル(65年)」を一つの転機として、彼らはこのあたりから作品志向の道を進み始めます。
商業的な成功より自分たちの作りたいサウンドを追求する、これは初期の成功があったからこそできたことですが、ここでもまた彼らは独自の世界を生み出し、別のカタチの大きな成功を手にすることになります。
この頃の作品には『ノルウェイの森』や『ミッシェル』など独特の哀愁をもった作品が多く、このあたりのビートルズサウンドが好きなファンも多いと思います。
小説「ノルウェイの森」の中のセリフに『この人たちはたしかに人生の哀しみとか優しさとかいうものをよく知っているわね』というものがありますが(寂しすぎたお葬式を明るいかたちでやり直そうとビートルズを歌うシーン)、これは中期ビートルズの作品の色合いを端的に説明したとても良い表現だと思います。

<後期>
60年代後半になるとインド文化への傾倒や政治的発言など、良くも悪くもバンドの存在が成熟期を迎えます。
バンドとしてこういう時期をむかえると、マニアックな方向に流れがちです。それまでのキャリアによる音楽的技術の向上や資金的余裕など、どうしてもそういった方向にアーティストが向かってしまうのは避けられないことではあります。
しかしそんななかでもビートルズは第8作「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(67年)」から最終作「レット・イット・ビー(70年)」までの5枚のアルバムでポップミュージックの一つのありかたを完成させます。
できる限りバンドで演奏すること、レコードを売るという商業性を捨てないこと、というポピュラー音楽のシバリにありながらも芸術的完成度を高めることは可能であるという一つのメッセージを発信したのです。
ぼくは個人的にこの頃のビートルズが好きで、特に「レット・イット・ビー」での肩の力を抜いた職人芸のようなアプローチにはいまだに誰もたどり着いていない領域のようなものを感じています。一部のファンからは”やる気をなくしたビートルズ”という批判もあるんですけどね。ひとそれぞれです。

さて、ではなぜビートルズはすごいのか(なぜ皆がそう言うのか)を次回書いてみたいと思います。

つづく。


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