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さよなら世界征服

「世界征服できなかったなぁ」

灯りが切れた病室でフユカは口癖を呟いた。フユカは小学生の頃から世界征服を夢見ていたが、恐らくそれは実らない。俺は俺で『お前の余命はあと2ヶ月だ』とまた言えずにいた。
さよなら。

「ねえ、私あとどれくらいなのかな」
「博士号は取れそうにないかも」

俺は曖昧な嘘を吐いた。フユカは嬉しそうだった。

「俺は学部も出れる気がしない」
「そっかぁ」

19歳で修士の身、博士号の価値はいかほどと思う。
俺がフユカを追っかけ、浪人し私大薬学部に入った頃にはこの有様だった。
今は遠くに行き過ぎて死の淵にいる。

「降ってきた」

窓を雨粒がノックする。
昨日の台風の報道を思い出す。

「ねぇ」フユカは身を起こした。体に繋がれた管が伸びた。
「知ってる?雷に打たれると大体死ぬって」

俺は笑った。
一瞬の光。2秒後に大きな音がした。

「雷に打たれた傷を『雷撃傷』って言うんだって、フフッ。まあ80%は即死らしいんだけどね」
「即死か」
「20%は生存」

フユカも笑った。

「でも残り20%の2%は何か超能力を身につけるんだ」
「何だ、オカルト?」
「超能力だけじゃなくて、不治の病が完治したり。死ぬ程の電圧、電流、神経、細胞、可能性!」
「……」
「ロシアでね、」

フユカが咳をする。

「おい、」
「ロシア、研究で。2548匹の鼠と231匹の猫、131匹の犬に擬似電雷を着雷。でも何の結果も出なかったの。雷撃傷すら殆どない」

フユカが天井を見た。何もなかった。

「人間に、断続的に着雷させたらどうなるんだろ」
「さあ」
「それに耐えうる肉体があればどうなるんだろ」
「雷に?」

俺は失笑した。

「そんな体があったらどう思う?」
「どう……って、確率でしか」
「意図して管理できるとしたら?」
「無理だ」
「できるとしたら?」

目を塞ぎたくなる光と雷の轟音。
木が倒れる重音。
俺は思わず目を閉じた。

目を開けるとフユカがいた。
手元には紫紺の錠剤が4つ握られていた。

【続く】

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